第25話 なるほど。こういうことだったのか(わかった振りをする)
静まり返った空気の中、隆行はゆっくりと息を吐いた。
「……もう、抵抗する意味もないか」
その言葉には、戦いを続ける意志はすでになかった。肩の力を抜き、少しだけ視線を落とす。
弓絵もまた、長く張り詰めた気を解き、僅かに頬を緩めた。
「……そうね。ここまで来たら、もう隠すこともないわ」
彼女はまっすぐ隆行を見つめる。先ほどまでの敵意は和らぎ、その瞳には、これまで言えなかった想いが滲んでいた。
沈黙が一瞬流れた後、隆行が苦笑するように呟いた。
カナタ公爵に勝つなんて、そもそも考えが甘かった。奴の力は…規格外すぎる」
弓絵は小さく息を吐き、わずかに肩をすくめる。
「まったくね…あんな怪物みたいな力を見せられた後じゃ、勝てるだなんて口が裂けても言えないわ」
静寂が支配する中、隆行は重い口を開いた。
「……もういい。すべて話す」
その声は、敗北を悟った者の静かな決意だった。
弓絵も視線を落とし、しばらく沈黙した後、低く息を吐く。
「そうね……隠す理由もないわ」
二人はゆっくりと視線を交わし、まるで重たい鎖を解くように語り始めた。
「俺たちの目的は――」隆行が切り出した瞬間、場の空気がわずかに揺らいだ。 それは静かに、しかし確実に紡がれる真実。彼らが背負ってきた計画の全貌。
あおいちゃんはじっと隆行たちを見つめていた。その瞳には怒りが滲み、しかし言葉を発することなく、歯を強く噛みしめている。
二人が、何のために、どう動いてきたのか。交わる思惑、その果てに生まれた事件。言葉が次々と紡がれていく。
弓絵が補足しながら語るが、あおいちゃんの表情は次第に険しくなっていく。拳を握りしめ、肩が微かに震えているのが分かった。
隆行がそれに続く。 時折、彼らの表情には苦悩が滲み、後悔とともに吐き出される言葉もあった。
俺はじっと耳を傾けながらも、次第に思考が追いつかなくなっていた。情報の嵐が押し寄せる中、断片的にしか理解できない。
しかも、その内容は、彼らの勝手な言い分にしか思えない内容だった。
そして、隆行は締めくくるように呟いた。
「……これで、すべてだ」
場に再び重苦しい沈黙が戻る。
場に張り詰めた空気が満ちた瞬間、あおいちゃんは耐えきれずに崩れるように泣き出した。震える手で顔を覆いながら、涙を止めることができない。その隣で、あかねさんはそっと彼女の肩を抱きしめる。何も言わず、ただ静かに寄り添う。その腕は、震えるあおいちゃんを守るように優しく包み込んでいた。
あおいちゃんは、まるで支えを求めるようにあかねさんに身を預ける。声にならない嗚咽を漏らしながら、その手であかねさんの服を強く握りしめていた。あかねさんは、何も言わず、ただあおいちゃんの肩に手を添えたまま、静かに涙を流している。
慎吾さんは、泣き崩れる二人に歩み寄った。強く握りしめた拳はまだ震えていたが、それでも彼女たちの悲しみに寄り添うように、静かに膝をつく。迷うことなく、そっと手を伸ばし、あおいちゃんの肩に触れる。その手に力を込めることはなく、ただ静かに寄り添うように添えた。何も言わずとも、その仕草には、悔しさと悲しみを堪えながらも、彼女たちを支えようとする思いがにじんでいた。
泣き崩れる声、押し殺された怒り。場には言葉では埋められない深い絶望の空気が広がっていた。
なるほど……さっぱりわからん。
そもそも、あおいちゃんたちの事情が絡んだ事件だった。
しかし、あおいちゃんたちから事情を聞いてない俺にとって内容がまるでわからない。
俺は深い混乱の中にいた。膨大な情報を前に、すぐに全容を理解することはできない。それに――この話が本当に正しいのかどうかも、まだ判断できない。
あおいちゃんたちの話を聞かなければ、すべてのピースが揃うことはない。
ただ、彼女たちの心情を察すれば、ほとんどのことが真実なのだと信じたい。
今はただ、彼らの言葉を胸に刻み、次の行動を決めるしかなかった。
「幕が下りた今、お前たちは己の行いを振り返るがいい。無垢なるものたちの流す涙の意味…その重みを知り、己の罪を背負うがいい。そして存分に償え—ただし、それが許されるのならば、だがな」
俺は、隆行たちを見据え断ずる。
――一呼吸置き、
「罪を償えぬと知ったならば……。お前たちの運命、俺様が問いかけるまでだ。わかったな?」
隆行は震える手で拳を握りしめながら、ゆっくりと立ち上がった。彼の視線は、ただ地面を見つめるのではなく、まっすぐあおいちゃんたちに向けられている。
あおいちゃんは涙をぬぐうこともなく、その瞳に怒りと悲しみを宿したまま隆行を見つめていた。
隆行は、すぐに言葉を発せなかった。喉の奥が詰まり、いくら悔いても、何を言えばいいのかわからなかった様子だ。だが、それでも口を開く。
「……俺は、あんたたちに……どんな言葉をかけても、それが許されるとは思っていない。本当に申し訳なかった」
震えた声に、弓絵が静かに寄り添う。彼女もまた、まっすぐあおいちゃんを見据えた。
「それでも、私たちは逃げない。すべてのことから目を背けて生きるほど、私たちは誇りを持っていると思っていた。だからこそ、その誇りがあれば、過ちすらも正当化できると――そう信じていた。でも、それは…カナタ公爵に見透かされていた。気づいたの。本当の誇りとは、力や支配ではなく、罪を認め、償うことだったのだと」
彼女は静かに息を吐く。
「私たちの行いが、どれほどあなたたちを傷つけたのか……向き合わなければならない。本当にごめんなさい」
よくわからんが、こいつら、勝手に悟りを開いてるぞ。
とりあえず、威厳を保つかのように俺は深く頷く仕草をしてみせた。
俺は、あおいちゃんたちを見据える。
「そなたたちは、嵐の中、折れぬ梢のように立ち続けてきた。風は容赦なく吹き、雨は冷たかったはずだ。それでも誰にも頼らず、ただ静かに耐え抜いたのだな」
あおいちゃんの頬に伝う涙を片手で拭った。
「頬を伝うその雫は、かけがえなき絆の証。悲しみの雨が降るときこそ、私(・)は傘となろう。やがて雲が晴れ、陽の光が差し込むその時まで、心に寄り添い、静かに見守ろう。 涙が乾き、空が穏やかに微笑むその時まで……」
俺の言葉に、あおいちゃんはじっと目を閉じる。その瞳からこぼれ落ちる雫の意味がこれから変わってくれたらと思った。
あかねさんもゆっくりと目を閉じ、深く息を吐く。彼女の吐息が、次に聞くときにはもっと穏やかなものになっていてほしい。
慎吾さんは何かを言いかけたが、言葉にならず、ただ彼女たちを見つめていた。次は彼女たちの笑顔を見せてあげたい。
静寂の中に、かすかな安らぎが生まれていく。すべてが収まり、張り詰めていた空気が柔らかく溶けていく。誰もが、その余韻に浸りながら、それぞれの思いを胸に抱いていた。
「小町だけが嵐の中に置いてけぼりにゃ~~~!!これは、どういうことにゃ~~~!?」
あっまだ居たんだ…。
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後書き
今回の展開を読んでいて、読者の方々にも「なるほど……さっぱりわからん」状態ですよね。
他にもそんなエピソードがあったかと思います。
後々の展開を楽しんでもらうための意図的な工夫です。
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