第5話 精神疾患

 聡子という女は、

「その場に流されやすい」

 という性格だった。

 こんな、

「うだつの上がらない店長」

 に、惹かれるのだから、それも無理もないことだろう。

 しかし、だからと言って、優柔不断というわけではない。ただ、優柔不断に見えてしまうところがあるのが、

「情緒不安定」

 というところがあるからだろう。

 それは、

「病的なくらい」

 といってもいい。

 夫婦がうまく行かなくなった」

 ということを、聡子は、

「自分の、この優柔不断なところにあるのかも知れない」

 と思うのだった。

 聡子という女は、

「その場に流される」

 というわりには、

「頑固で、自分の意志を曲げない」

 というところもある。

 彼女の場合は、完全に、

「長所と短所は紙一重」

 ということで、その表裏が細かい性格にも表れているのだった。

 だから、中途半端に知っている人からみれば、

「二重人格だ」

 といわれるのだ。

 その性格が正反対であることから、

「躁鬱症」

 といわれたり、

「情緒不安定だ」

 といわれるのであった。

 実際に、

「神経内科の医者に診てもらった」

 ということはないので、ハッキリとした病名は分からない。

 特に、神経内科などの病院には、

「首に縄をつけていく」

 というところではない。

 元来、

「本人が、自分の病状を把握し、ひょっとすると、精神疾患なのではないかと納得した上でいかなければ、医者と二人三脚での治療」

 というわけにはいかないだろう。

 特に、友達が、神経内科に行った時、

「怒って帰ってきた」

 ということで、その内容を聞いた時、

「私も同じことになるんじゃないだろうか?」

 と考えたのだ。

 彼女の悩みというのは、

「会社での上司との問題から派生したこと」

 であった。

 というのは、その時、友達が話したこととして、

「私は、先生が、事情を話してくれといわれたので、自分が感じていることを話したのよね。物忘れが激しいことであったり、上司が自分のいうことや行いを、全否定するって話をしたの」

「それで?」

 と、聡子が聞くと、

「そのお医者は、話を聞くだけ聞いて、会社を休職しろっていうのよ」

「それは、当たり前のことじゃないの?」

 というと、

「そんなことをいわれにいったわけじゃなくて、もっと他に聴きたいことがあるのに、まず最初がそれだったので、腹が立ったのよ」

「うん」

 気持ちは分かる気がする。聞きたいことを言いもしないで、最初から分かっていることを、いかにも当たり前のように言われてしまっては、腹が立たないわけもないというものであった。

「私は、病名だったり、どうすればいいかということを聴きたいのに。会社を休職すればいいとか、今まで自分で考えて努力してみたけど、できなかったことをさんさん言われて、それで、それをどう解釈すればいいのかって感じなのよ。それこそ、犯罪事件が起こって、第一発見者になった時、最初に初動捜査の警官に聴かれ、さらに、あとからやってきた刑事にも聞かれ、挙句に、本庁から来た人にも同じことを言わないといけないというのと似てるのよ」

 というのだ。

 彼女は、昔から、二時間サスペンスが好きで、よく、サスペンスに出てくるシーンをたとえに出して話をしていたが、彼女の場合、適格な例で話してくれるので、分かりやすかった」

 といってもいいだろう。

 彼女が言いたいのは、

「何度も同じことを聴かれて、何度も答えているうちに、少しずつ、辻褄が合わなくなってしまうんじゃないか?」

 ということであった。

 特に、最近、

「記憶力が定まらないことを気にしている彼女」

 とすれば、ドラマを見ていて、

「どうして、忘れてしまったり、辻褄が合わないと思えることを分かっていて、警察は聴くんだろう?」

 ということであった。

「自分の病状が、自分だけでなく、まわりの人皆がそうなってしまったんだ」

 と感じるようになったのだ。

 そう、

「自分だけでなく、皆そうなんだ」

 と思うことから。

「皆同じはずなのに、どうして自分だけが違うんだ?」

 と思ってしまうことに、普通であれば、

「自分だけが忘れっぽくなったからなのに」

 と感じるのだろうが、いずれは思うとしても、それまでに時間が掛かりすぎるのだ。

 だから、理解できたところで。

「ああ、自分には精神疾患があるんだ」

 と感じ、やっと自分から病院にいくということができるようになったというわけであった。

 それを思えば、

「私は、自分の状態を納得して病院に行っているんだから、お医者も、自分の覚悟を分かったうえで診察してほしい」

 と考え、

「相手の言葉を真摯に受け止めよう」

 と思うことで、逆に、

「相手がこちらの思っていることと違う対応をすれば、信じられなくなってしまう」

 と考えたからであった。

 だから、彼女としては、

「医者のいうことを鵜呑みにはできない」

 という気持ちもあった。

 しかし、その予想は的中した。

 自分が知りたいことをちゃんと話してくれるわけではないのに、結果として、

「当たり前のことを、当たり前のごとく」

 しかも、

「自分は医者なんだ」

 とばかりに威張っているのだと考えると、苛立ちだけが残るというものだ。

 だから、彼女とすれば、

「一番知りたい病名と、それがどういうものであるか?」

 さらに、

「どのように対処すればいいか?」

 ということを、

「相手が素人だ」

 ということで話してほしいと思うのだった。

 その時の医者は、確かに、

「相手が素人だ」

 という風に思ったのだろう。

 だから、余計なことを言わずとも、

「医者のいうことであれば、信用するだろう」

 と、患者を舐めているとしか思えなかったのだ。

 しかも、その時の医者というのが、

「結局病名をいうこともなく、どうしたらいいのか?」

 ということを、

「休職しなさい」

 というだけで、本人とすれば、

「求職すればいいくらいだったら、最初からしそうしたうえで、病院に来ている」

 と感じた。

「そんな当たり前のことをいわれても、何も感じない」

 ということであり、しかも、問題は、

「たくさんの薬を出された」

 ということであった。

 それこそ考えてみれば、

「病名をハッキリ言わないくせに、薬だけを出すとはどういうことだ?」

 と思うのだ。

「こういう病気なので、この薬」

 ということで渡すのが当たり前なのだろうが、そもそも、薬の種類も、めちゃくちゃに多い。

「精神疾患の患者の場合は、薬がめちゃくちゃ多くて、まるで薬漬けのようになってしまう」

 といわれるくらいに、種類が多いという。

 確かに、一つ一つ説明していれば、

「日が暮れる」

 ということになるのかも知れないが、この対応は、

「患者に不安感しか感じさせない」

 ということである。

 だから、その女性は、

「あんな医者だったら、行かなきゃよかった」

 ということで、

「二度と神経内科になんか行かない」

 といっていたのだ。

 確かに、精神疾患というのは、実に難しい分野といってもいいだろう。

 たとえば、昔から言われる、

「躁鬱症」

 などといわれるものは、最近では、

「双極性障害」

 といわれ、

「躁状態と鬱状態を、周期的に繰り返す」

 といわれている。

「確か昔の、躁鬱症というのも、似たようなものだったのでは?」

 と思うと、

「昔の躁鬱症といわれていたものが、今の総教区性障害というものになったのではないだろうか?」

 といえる。

 ただ、ネットで調べたり、本を読んだりすると、

「双極性障害」

 においての、

「うつ状態」

 というものと、

「うつ病」

 とでは、まったく違うとも言われている。

「双極性障害」

 というのは、

「薬を飲み続けないと治らない」

 といわれている。

 うつ状態から躁状態になる時、

「なんでもできる」

 と思い込む躁状態になるということで、人によっては、

「もう治った」

 と感じる人がいて、自分の判断から、

「投薬を辞める」

 という人が出てくるという。

 しかし、それは、治ったのではなく、

「躁状態の一時的な発作に近い」

 といってもよく、

「決して完治したわけではない」

 そうなると、

「医者だけが問題というわけではない」

 ということで、

「本人の自覚も問題になる」

 ということになると、

「医者を患者が信じられない」

 ということは、

「病気の治癒」

 ということで考えると、

「これほど厄介なことはない」

 といってもいいだろう。

 すなわち、

「精神疾患というものは、お互いの信頼関係がなければ、治癒しない」

 といってもいいだろう。

 患者は、そもそも、

「精神疾患を患っている」

 というわけである。

「医者の側から歩み寄ってあげないと、誰が、患者の不安を取り除いてあげられるということになるんだ?」

 ということであった。

 患者の方でも、

「まさか」

 という思いと、

「恐怖」

 というものから、二の足を踏む状態なのだから、

「患者というものは、医者を頼ってきている」

 ということをしっかり自覚しないといけないといえるだろう。

 聡子という女性が、

「本当に精神疾患だったのか?」

 というのは分からない。

 病院に行って診てもらったわけではない。もし、知り合いが、余計なことを吹き込まなければ、診察をしてもらいにくらいは行っただろうが、

「結果は同じだった」

 といってもいいだろう。

 話を聞いた時、

「私も絶対に、病名もいわれず、ただ薬だけを大量に与えられたとすれば、信用することはない」

 と思う。

 このことは、

「完全に、金儲けのためではないか?」

 と思う。

 病名も分からないくせに、薬だけをたくさん与えるってどうなんだ?」

 といえるだろう。

「この病気に対して、この薬が効く」

 ということではないのか、

 そもそも、薬の開発というのは、

「こういう病気の特効薬であったり、ワクチンとしての効用があるというものを開発する」

 というのが当たり前といってもいいはずだ。

 それを考えると、

「薬なんて、苦いだけで、本当は効かないのではないか?」

 と勝手己思ったりする。

 そういえば、子供の頃には、

「注射であれば、よく効くけど、薬などというものが本当に効くのだろうか?」

 と考えたりもした。

「飲み薬が効くのであれば、何も痛い注射などなくてもいいじゃないか?」

 と思ったからだ。

 子供なので、薬によっては、

「飲み薬でしか効かない」

 というもの、逆に、

「注射でないと効かない」

 というものがあり、それぞれに、効用が違うということになるのだ。

 実際に、最近、

「世界的なパンデミック」

 といわれ、世間を席巻した病気が流行った時、

「ワクチン」

 ということで、注射によるものが、流行後、一年しか経っていないのに、その正体も分かっていないのに、

「緊急事態」

 ということで開発されたワクチンを、政府が中心になって接種に躍起になっていたが、それは、

「注射によるもの」

 であった。

 そして、ワクチンは、

「海外のメーカーが開発し、輸入した」

 というものであったが、その時、国産でも、

「ワクチン」

 であったり、

「特効薬」

 の開発が行われていたが、結局、

「表に出ることなく、もう誰も何も言わなくなった」

 というものがあった。

 ワクチンというのは、あくまでも、

「予防接種」

 ということであり、

「まだ、病気に罹っていないという人が摂取することで、勘違いされやすいのだが、別に病気に罹らないというわけではなく、病気に万が一感染しても、その病状がひどくならない」

 ということでの接種であった。

 これが、

「ワクチン効果」

 というものであるが、特効薬というものは、その目的が違う。

 特効薬というのは、

「病気に感染してしまった人が、これ以上悪くならないように、沈静化を目的に接種する」

 というものである。

 例えば、

「インフルエンザ」

 であれば、

「タミフル」

 などが有名であろう。

 または、昔でいうところの、

「不治の病」

 といわれた、結核であれば、

「ストレプトマイシン」

 などというのが、その特効薬というものであろう。

 今回の、

「世界的なパンデミック」

 というものにおける特効薬は、経口薬ということで、

「飲み薬」

 というものだったのだ。

 薬というものにも、

「ワクチン」

 であったり、

「特効薬」

 などとその種類によって、効果も、接種方法も違ったりしている。

 どちらにしても、今回のワクチンにしても、

「いわれていたほどの大パニック」

 ということにはならなかったが、それなりに、大きな問題を社会に投げかけたはずである。

 そういう意味で、

「薬害問題」

 などというものは、シビアな問題であるということもあり、特に、

「精神疾患」

 という問題は、最近増えてきたり、さらには、多様化もしているということから、その問題も大きくなっているといってもいいだろう。

 実際に、

「精神疾患だったかどうか分からない」

 というのは、

「もう、聡子という女性が、どんな病気だったのか?」

 ということを調べることができないということであった。

 それが、どういうことを示しているのかというと、それは、

「聡子が、すでに、この世のものではない」

 ということを示しているのであった。


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