番外編 『ラキの特訓日記――最弱を名乗るな』



 


導師の本拠地へ向かう前――

ノクス一行は、廃都近郊の無人地帯に立ち寄っていた。


「今日こそ俺、強くなりたいんです!」

と、元気よく手を挙げたのは、小柄な仲間――ラキ。


「毎回、足引っ張ってばかりで……せめて一回ぐらい、

 “ラキがいてくれて助かった”って言わせたいんです!」


 


ルナが冷静に呟く。


「……じゃあ、まず“魔力漏れ”の癖を直して。話はそれから」


「うっ……!」

ラキはうなだれた。


 


「んで、俺が見るのか?」

魔剣ナグラヴェールがノクスの腰でうなった。

「戦闘の天才でもねぇ奴を鍛えるのは、なかなか骨が折れるぜ」


「俺、雑用やらせますんで!」

ラキがすぐさま正座する。


「掃除、炊事、洗濯、罠の設置、罠の解除、罠の確認、毒の味見もします!」


「毒の味見はしなくていい」

ネムリが静かに突っ込んだ。


 



――特訓その1:影との対決


ネムリの影魔法を利用し、ラキは“自分自身の幻影”と対決することになった。


「ひいっ、こいつ、俺と同じ動きするんですけど!?

 ずるい! 俺の悪い癖まで再現されてるぅぅ!」


「だから、それを矯正する訓練なんだろ」

ノクスが淡々と返す。


ラキは、走りながら自分の幻影に小石を投げる。

そして偶然、岩に跳ね返って影に直撃。


「当たった! 当たっちゃった!!」


「運だけで勝つな」

ルナが冷たく言った。


 



――特訓その2:魔剣の“講義”


夜、火を囲んでラキがナグラヴェールに質問を投げる。


「魔剣さんって、どうやったら“強くなる”って思います?」


「簡単だ」

魔剣がゆっくりと答える。

「自分が“弱い”ことを、ちゃんと理解することだ。

見栄張ってるうちは、刀も振れねぇ。心がブレるからな」


ラキは、珍しく黙った。


「……俺、昔から“バカにされないように”って嘘ばっかりついてきて。

 でも、ノクスさんたちに会って、初めて“強くなりたい”って素直に思えたんです」


「その時点で、テメェはもう“クズ”じゃねぇよ」

ナグラヴェールの声に、微かな優しさが混じった。


 



――ラキの覚醒


数日後、村に迷い込んだ魔獣が出現。

ノクスが応戦するも、ルナとネムリが間に合わない。


ラキは震える手で、飛び出した。


「俺は足引っ張り要員じゃねぇんだ!

 今の俺は、“ノクス一行のラキ”だ!!」


彼の手にした小さな短剣が、雷光をまとい――

ついに魔術との融合を果たす。


《特性発動:小雷刃(ショウライジン)》

小さな刃に宿るは、俊敏と奇襲の魂。

敵の視覚をかいくぐる“加速の一閃”。


ノクスがそれを見て、小さく頷いた。


「……やればできるじゃねぇか」


「わあああ、やったー! やったよ俺ぇええぇぇ!!」


「調子に乗るな」

ルナがいつもの口調で言い放ち、ラキはまた正座する。


「でも、今日のは――ちょっとカッコよかったわよ」

彼女が背を向けたまま、小さくそう呟いたのは――誰にも聞こえなかった。

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