24. Flash-Forward 2040
放課後の空き教室。
誰もいなくなった静けさの中、プロジェクターの光だけがカーテン越しに揺れている。
僕――颯斗は、隣の席で緊張した様子の瑞希をちらりと見る。
今日は、AIキャリアサポート部の「未来予想図」体験会。
学校で話題の“Flash-Forward 2040”――
ふたりの好きなもの、会話、将来の夢、そして小さな願いまでAIが解析し、
“想像を超える未来”の映像をオーダーメイドで見せてくれるという。
「緊張するね……」
瑞希が、膝の上で指を組んだまま、僕に小さな声で言う。
「うん。どんな映像になるんだろう」
僕も、胸の奥がふわふわと落ち着かない。
AIは、ふたりのタブレットをBluetoothで同期し、
照明を少しだけ落とす。
教室の壁いっぱいに浮かび上がるのは、
10年後の未来のワンシーンだった。
そこには、大人になった僕と瑞希がいた。
夏の港町でアイスクリームを分け合いながら、見知らぬ道を歩いている。
隣同士で笑い合うふたりの姿が、少し恥ずかしいけど、どこか誇らしい。
「これ……本当に私たち?」
瑞希が目を丸くする。
「AIが、ふたりの過去のやりとりとか、
“こんなふうになりたい”って思いを全部拾って再現してくれるんだって」
僕は照れ隠しに言う。
次のシーンでは、どこか遠い国でふたりが旅している。
スーツケースを引きながら、異国のカフェで言葉に苦戦しているのも、
「現実味ありすぎ」と瑞希が吹き出した。
最後の場面。
桜並木の道、春の柔らかい光のなかで、
僕が瑞希の手を取って、少しだけ真剣な顔で何かを伝えている――
「大切な人がそばにいる未来。それが、あなたたちの“希望指数”の最大値です」
AIのナレーションが、静かに流れる。
映像が終わると、
AIがプロジェクターの光をゆっくり絞り、ふたりの前にメッセージを表示する。
「今の気持ちも、未来で伝えてください。
この幸せは、今この瞬間から始まります。」
瑞希が、頬をほんのり染めて僕を見る。
「ねえ、私……
この未来、本当にかなえたいな」
その声に背中を押されるように、僕は勇気を出した。
「俺も。……たぶん、10年後も、20年後も、
ずっと一緒にいたいって、今ここで伝えておきたい」
瑞希は小さくうなずいて、
「じゃあ、今この瞬間が“私たちのはじまり”なんだね」と微笑む。
AIが教室の照明を優しく戻し、
ふたりだけの未来予想図が、現実の一歩目に変わった。
想像を超える“幸せな未来”も、
きっと今この気持ちから始まる。
ふたりで見上げたスクリーンの光が、
これからの毎日をやさしく照らしてくれる気がした。
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