第3話
探索者の後輩『金守リーナ』が、黒服達を従え俺の前に立っていた。
「リーナお前、どうやってここに……?」
「話は後っす先輩。まずはここから離れるっすよ」
「うぉっ!? ちょ、なにするんだお前ら!?」
両脇から掴み上げ、俺を引っ張り起こす黒服達。
そのまま強引に部屋の外へ向かって歩かされる。
「……うっわぁ、滅茶苦茶に荒らされてる。ひっどいなこりゃ」
「すみません先輩。けど、監視の目を外さないといけないので」
一日ぶりに部屋から出れば、我が家は滅茶苦茶に荒らされていた。
切り裂かれて中身が露わになったソファー。山積みにされたカーテン。洗濯機や電子レンジ等の家電も細かく分解され、本棚に並べていた本も乱雑に放られている。
荒れてない場所を探す方が難しいくらい、家全体が散らかされていた。
「……ちなみに、成果の方はどうなんだ。何か見つかったのか?」
「今のところ監視カメラが5台、盗聴器が17台見つかってるっすね。その他にもセンサーやら何やらの類がワラワラ発見されたって聞いてるっす。激ヤバっすね!」
「……お、おぅ。マジかよ。冗談で聞いただけのつもりだったのに」
マジで色々仕掛けられていたとか知りたくなかった。
しかもやったのが、長い付き合いのある幼馴染とか。
……俺は次から、どんな顔してクロナに会えばいいんだ?
「さ、乗ってくださいっす先輩。車でここから離れるんで」
外に出ると、如何にも高級感のある車が止まっていた。
画像越しでしか見た事のない、如何にもお高そうな車。
「お、おう。分かった。でも、汚してしまいそうで怖いな……」
「汚しても大丈夫っすよ。ウチは専門の清掃員を雇ってるんで」
……そう言われても安心できないんだが。
けれど何となく言っても伝わらない気がしたので、黙る事にした。
リーナと一緒に乗り込むと、車は静かに移動を始める。
「なあリーナ。なんで助けに来れたんだ? 連絡してないのに」
外に流れる景色から目を離し、リーナに尋ねる。
……だが、彼女は何故か微妙な表情を浮かべた。
なんだ? 何か言い辛い事でもあるのか?
「あー。それ聞いちゃうんすね、先輩。聞いて欲しくなかったすけど」
「え、そりゃあもちろん。だって気になるだろ?」
「気持ちは分かるんっすけどね。私も同じ立場なら絶対に聞くんで」
溜め息を一つこぼし。リーナは続きを話した。
「一言で言うと見張られてるからっすよ。先輩が」
「み、見張られてる!? え、俺がか?」
「っす。ウチが特殊なのは先輩も知ってるっすよね?」
「あ、あぁ。もちろん。最初に教えて貰ったからな」
リーナの実家は金守財閥という、世界に根を張る巨大な経済団体だ。
日本国内においても沢山の会社を運営しており、俺が個人的にリピートするお菓子のメーカーも金守系列だ。だから彼女がトップの娘と聞いた時は本当に驚いた。
今では新商品が出ると、真っ先に教えて貰ったりしている。
「ウチも結構な規模なんで、お金や情報目当てに狙われたりするんすよ。当然、トップの娘である私も。なので関係者を守る為、関わる人間の素性は一通り調べるんす」
「な、なるほど。だからリーナと関わる機会の多い俺は見張られている、と」
っす。俺が確認すると、リーナは頷いた。
「……見張られてる、か。なんか色々知られてそうで怖いんだが」
「実際、かなり色々知られてると思うっすよ? 先輩の隠し事とかも全部。情報部は弱みを握る事も仕事のうちなんで、使えそうな情報は片っ端から集めるっすもん」
「こわっ!? こりゃあリーナの前で下手な事は出来ないな……」
「まあ安心してくださいっす。多分悪用はしないんで」
「いや安心出来るか!? せめてハッキリ断言してくれ! 怖いから!?」
元々何もする気は無かったけど、今後はより一層慎重に接さないと。
「……けど俺はこれからどうすべきなんだ? 家には戻れないし、クロナは多分追い掛けてくるよな。監禁までするくらいだし、このまま逃がしてくれるとは思えない」
「被ってた猫引っぺがしたし、あの人はもう遠慮する必要もないっすもんね」
先輩は行きたい場所とかあるっすか?
そう聞いてきたリーナに、首を振る。
なにぶん、いきなりだったからな。
クロナの監禁も。リーナの助けも。
とにかく逃げる事ばかりで、行き先なんて考えてなかった。
「じゃあウチ来るっすか? 先輩。先輩なら泊まってもいいっすよ?」
「いや、それは流石に悪い。ただでさえ助けて貰った訳だしな」
「別に気にしないっすけどね。先輩にはいつも世話になってるので」
リーナが気にしなくても、俺は気にする。
先輩としての面子もあるしな。
「……出来ればダンジョンに行きたいが、無理だよな。流石に」
「先輩、最強の探索者になるのが夢っすもんね」
「あぁ。だから探索を欠かしたくないけど、この状況じゃあな」
あれ? 俺、リーナに夢を話した事あったっけ?
……まあいいか。多分、忘れていただけだろう。
「けど、行けばクロナに見つかるよな。入り口があるのは組合の中だし」
「あの人も探索者っすからね。先輩が寄る可能性は当然考えると思うっすよ。ただでさえ幼馴染で考えも知り尽くされてるっすから、余計に」
「探索中ならメリットしかないけど、こういう状況だとデメリットが目立つか」
「今は例外だと思うっすけどね。幼馴染に監禁とか、普通されないので」
まあ、そりゃそうか。そりゃそうだな。
……さて。どうする? 俺。
ダンジョンへ潜るなら組合を通る必要があるが、組合を通れば記録が残る。そして三桁級以上の探索者なら普通に通行記録は見れるので――つまり、俺と同じ三桁級探索者のクロナに居場所が割れてしまう訳だ。それではクロナが追って来てしまう。
それにそろそろ日が傾く。探索中のクロナも戻ってくる頃合いだ。つまり組合に行けば普通に遭遇してしまう可能性もある訳で、尚更行くのは辞めた方が安全だ。
けれど夢の為ダンジョンには潜りたい。俺はどうすればいいんだ……!?
「せめてダンジョン都市まで行ければ、どうにでもなるのに……っ!」
「そうっすね。あそこなら追跡を撒くアイテムなんかも取り扱ってるっすし、そうでなくてもDPがいるっすから。探索者である以上、下手な騒ぎは起こせないっす」
問題は辿り着くまでに見つかる可能性が高い事。
入り口が一箇所しかない以上、回避も出来ない。
「――そうだ! そういえば裏道があったっす!」
「!? ど、どうしたんだリーナ? いきなり叫んで」
悩んでいると、突然リーナが大声で叫んだ。
「思い出したんすよ先輩っ。組合を通らずダンジョンに入る方法!」
「そんな都合の良い方法があるのか? 聞いた事がないけど」
「そりゃそうっすよ! 一部の権力者がこっそり使ってる方法っすからね。先輩も若手としてはかなりいい線行ってるっすけど、流石にまだ上澄みとは言えないんで」
「一握りしか知らない方法、って事か。……そんな方法があったなんて」
教えてくれと頼めば、リーナは二つ返事で頷いてくれた。
それから俺は、裏道について彼女に詳しく教えて貰った。
「どうっすか先輩? 行けそうっすよね」
「……確かに。それなら支部を通らずに行けるな」
「じゃあ……!」
「あぁ、裏道を使わせて貰おう」
やったー! っす! リーナは飛び跳ねて喜んだ。
おいおい大袈裟だな。助けられたのは俺の方なのに。
「目指すはダンジョン都市だ。リーナは残ってもいいが、」
「なに言ってるんすか先輩! 私がいなきゃ、誰が裏道を案内するんすか?」
「……そうか。ありがとうな。なら付いて来てくれ、リーナ」
「もちろんっす! 何処までもお供するっすよ、先輩!」
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