彼女がヤン(デレ)とか聞いてない!? ~最強の探索者を目指す俺。ある日突然幼馴染に監禁されたので、可愛い後輩の手を借りてダンジョンへ逃げ込んでみた~

雨丸 令

第1話

「はぁ!? なんだこれ、檻? どうして俺がこんな場所に!?」


 朝起きると俺――明元ハルカは、分厚い檻の中に入れられていた。

 場所は自室。中に檻が設置され、そこに俺が入れられている形だ。


 ……いやなんでだ!? 昨日は普段通りに家で寝たし、他の誰かを泊めたりもしていない。というか昨日まで部屋に檻なんて無かっただろ! どうなってるんだ!?


「いや、原因究明は後回しでいい。とにかくここから脱出しないと――」

「壊そうとしても無駄だよ、ハル君。その檻はアダマンタイト合金製の特注品、例え五桁級探索者でも壊せない強度になってる。三桁級のハル君には絶対に壊せない」

「その声は――クロナかっ!?」


 咄嗟に振り向けば、檻に近付いてくる少女の姿が見えた。

 夜空のような長髪。ルビー色の瞳を持つ、綺麗系の少女。


 ――黄泉沢クロナ。俺の幼馴染だった。


「無駄って……! いや、なんにせよ丁度良い。助けてくれクロナ! 誰がやったのかは知らないが閉じ込められてるんだ。どうにか俺をここから出してくれないか!」

「いや。出してあげない」

「はぁ!? どうしてだよ、クロナ!!!」


 拒絶され、驚く。クロナが俺の頼みを断る事は滅多になく、こんな嫌がらせ染みた行為をするような奴でもないからだ。当然、すぐに助けてくれると思っていた。


 だから断られるなんて、想像すらしていなかった。


「だって――閉じ込めたのは私だもん」

「――――――――!?」


 そして続く言葉に、俺は絶句した。


 こいつは今なんて言った? 閉じ込めたのは私、と言ったのか?


 なんでだ? クロナとは一緒にダンジョンへ潜る事もある間柄。探索中にトラブルが起きないよう、関係にはかなり気を遣ってきた。日々の挨拶や感謝も、覚えている限りで欠かした事はない。檻に入れられるようなトラブル等、抱えてないはずだ。


 沢山の疑問が頭を過ぎる。行動を起こせたのは一分近く過ぎた後だった。


「……な、なんでこんな事をしたんだ? クロナ」

「それはね、ハル君が浮気したからだよ」

「はぁ!? 俺が浮気? なに言ってるんだ!?」


 浮気? 彼女は浮気をしたと言ったのか!? この俺が!?


 浮気をしたなんて絶対に有り得ない。


 だって彼女が出来た事すらないんだぞ? 生まれてから一度もだ! そんな有り様でどうやって浮気なんてするんだ!? どう頑張っても絶対に不可能だろう!!!


「……なあそれ、他の誰かと勘違いしてるんじゃないか?」

「してないよ。だって私、ちゃんと聞いたもん」

「誰から聞いたんだよ? 俺が浮気した、なんて話を」

「中島君だよ。あの人がこっそり教えてくれたの」

「あの野郎か……っ。また面倒な嘘を言い触らしやがって!」


 中島リュウとは俺の悪友の一人だ。


 一言で言えば質の悪いトラブルメーカー。人の交友関係を引っ掻き回して愉悦する生粋の迷惑野郎。探索者組合の中でも危険視されている、特級の要注意人物。


 正直、自分でもなんで友人やっているのか不思議なクソ野郎だ。


 あいつなら確かにこういう事をする。俺は納得した。


「いいかクロナ? そもそも俺には仲の良い女子なんてほとんどいない。数少ない付き合いのある連中だって探索者ばかりだぞ? 色っぽい話になった事すらねーよ!」


 探索者として活躍する女なんて大抵、男勝りな奴ばかりだ。日常的に危険な場所へ潜っている以上、当然だが。俺と付き合いがある女性陣も大抵がそういった連中。


 そんな彼女らと浮気? 絶対に無い。酷い結果になるのが目に見えている。


 そもそもクロナと付き合った記憶はない、という事実は置いておくとして。


「誤魔化さないで。金守って子と付き合ってるでしょ? 知ってるんだから!」

「金守って、リーナの事か!? 確かにあいつとは仲良いけどさ……!」


 金守リーナ。現在俺が面倒を見ている探索者の後輩だ。


 確かに彼女との関係は良好で、普段から一緒に居る時間は多い。なにも知らない奴が見れば、俺とリーナが恋人関係だと勘違いする、なんて事もあるかもしれない。


 ――とはいえ、だ。


「あいつはまだ学生だし、そもそも俺達は支援制度ありきの関係だぞ?」

「でも、私の時はハル君たちほど仲良くなんてなかったよ!?」

「……いや。それは単に相性が悪い相手に当たっただけだと思うが」


 俺達が所属する探索者組合には、新人支援制度というものがある。


 文字通り探索者になったばかりの新人を支援する仕組みだ。三桁級以上の探索者が新人に付き、ある程度成長するまで面倒を見る、という内容になっているのだが。


「支援は俺達側のテストでもある。クロナも知ってるだろ?」

「むぅぅ。それは知ってるけど……!」


 この制度の重要な部分は、支援する側も平行して評価される点だ。


 俺達が世話を任されるのは組合の人材不足を補う面もあるが、それ以上に信頼できる探索者を見つけ出す為でもある。責任感のある探索者は意外と少ないからだ。


 だから基本、支援中の素行は監視されている。交際なんてとても出来ない。


「支援中はずっと組合に見張られている。そりゃ流石にプライベートまで踏み込んでくる事はないけどさ。クロナも嫌だろ? 誰かに見られながら恋人を作るなんて」

「……う、うん。他人に見られながらデートとかするのは、ちょっと」

「俺だってそうだよ。変態じゃないんだ、見られながらいちゃつく趣味はない」


 だから付き合ってないと言えば、クロナは渋々納得した。


「そっか。じゃあハル君は浮気してなかったんだね、よかった。ごめんね、ハル君の事疑ったりして。――でも監禁はさせてもらうね。せっかく檻も用意した事だし」

「はぁ!? なんでそうなるんだよ! そこは普通、出すところだろう!?」


 クロナだって納得したはずだ。俺は誰とも付き合ってないって!

 なんで監禁を継続するなんて話になるんだ!? どうしてっ!?


「確かにハル君が浮気してない事は納得はしたけど、監禁をやめるかどうかは別の話だよ。だってハル君、他の女の子達にモテるし。放っておくと誰かに盗られちゃう」

「なんだよそれ……!」


 女子にモテるから監禁って、そんな話聞いた事ないぞ!?

 いやそれ以前に、


「俺がモテる訳ないだろ!? 告白だって一度もされた事ないんだぞっ!!!」

「そう思ってるのはハル君だけだよ。確かに告白する子はいないけど、それは裏で牽制し合ってるからだよ。本当は付き合いたいって思ってる子、沢山いるんだから」


 冗談だよな? 信じられないんだが。

 誰もそんな素振り、見せた事ないぞ?


 そんな想いを視線に込めてクロナを見ると、彼女はにっこり笑った。


「大丈夫。ちゃんとお世話するからね?」

「勘弁してくれ……!」


 こうして、俺の監禁生活が始まった。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


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