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 その後どうなっているんだ、と雄大が笑いながら訊ねてきた。

「その後って?」

「告白してきた人間がいたんだろう?」

「ああ……」

 俺はつぶやきながら、明るい周囲を見渡した。

 テーブルやソファーが設置されたソーシャルホールは、今日も多くのHAIが集まっている。雄大の自宅からほど近く、利便性のよいこのホールは天井も高くソファーの形もボディにフィットするので、俺も気に入っていた。

 学園祭まであと二週間となった土曜日、雄大の休みに合わせて俺はHAIセントラルタウンに来ていた。

「来週、ダンスでペアを組むことになっているけれど」

「なんだそれ。面白いな」

「そうか?」

 人間の恋愛感情を観察し、それを金銭に変える。当初の企みは、順調に進んではいない。何せ、その対象である野瀬悠里はドラマや映画で見る人物達とはかけ離れているのだ。それを雄大に伝えると、雄大は目尻に皺を作って「やっぱり面白い」と笑う。

「愁は人間みたいだよ。人間の娯楽まで熟知している」

「別に……、そんな事もないけれど」

 無意識のうちに首元のシルバーアクセサリーに触れる俺に、「ほら」と雄大が人差し指を向けた。

「そういった身なりに気を遣っているところも」

 人間みたいだと笑われるのには慣れている。十年間も人間に扮していればそうなってもおかしくない。本来、HAIは人間の手で人間に寄せて造られたものだという。自我を持ち始めたHAIが自らHAIを製造するようになってもこの形を維持している事実には、利便性以外にも理由があるのだろう。

 俺とは逆にロボットのように見える野瀬悠里の手先は、冷たかったはずなのにダンスをしているうちに体温をあげていった。HAIとは違い、自律神経によって身体の様々な機能を調整している、彼女はれっきとした人間だった。

 野瀬悠里のデータを脳内でスクロールしていく。情報はまだ足りない。俺には金が必要だ。人間の寿命より長く存在するための金。金。金。脳内で計算式が組み立てられる。貯金額と今回の里子ビジネスで受け取る金銭と、そして人間の行動データはいったいいくらで売れるだろうか。

「また進捗があれば報告するよ」

 席を立ち、俺と雄大は時間制であるホール使用料を清算リーダーに手首をかざして支払った。

 雄大の研究内容について聴きながら、街中を歩く。すぐ傍を無人運転自動車が速いスピードで通り抜け、それを察知するHAI達が器用に避けていった。

『それでは、次のニュースです』

 広場の空間に映し出された映像では、夕方のニュースが流れていた。

『二十五日と十八時間五十六分前に発生したウイルスZの流行について、政府は次のように見解を示しました』

 俺が映像を見上げると、

「前に話したウイルス、すごい勢いで広まっているらしいよ」

 隣で雄大が静かな声で言った。

「Zっていう名前なんだな」

「ああ、発見した研究者の頭文字だとか、HAI終了をもじっているとか、色々言われているけれど」

 HAIにとってコンピューターウイルスによるトラブルは避けられず、ロボット研究者である雄大もそれなりに詳しいが、Zと呼ばれるウイルスはずいぶんとしぶとく、プログラムにも姿を現していないために対処が難しいのだという。

「まあ、愁は普段HAIタウンにいないから大丈夫だと思うけれど、気を付けろ」

「雄大もね」

 駅前の交差点で、いつものように挨拶を交わして雄大と別れた。背後ではHAIアナウンサーの声が機械的に響いている。

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