第14話 推しに好かれてればいいと放置してたら私の為に皆が動いてくれました

 オレ達はハイネと別れると学食を目指して歩きだした。

 だけどそんなオレ達の間にいつものような会話はない。

「先生、険しい顔にしてたよね」

 やっとのことで口を開いたのはユーリだった。

 その頃には皆それぞれ学食の椅子に座っていた。

 いつもだったらユーリの隣はハイネの定位置なのにしっかりアベルが座ってるあたりちゃっかりしてる。

「まぁ十中八九あの件だろうね」

 あの件、それはハイネがユーリを苛めている、というもの。

「見ていればあり得ないことだということくらい理解できるだろう」

「ま、同感だな」

 シグナの言った通りだ。

 あの溺愛ぶりをどう見れば苛めていることになるのか。

 そもそもこちらは七年以上の付き合いなのに今さらそんな話がでっち上げられてもは?としか思わないわけで。

「あまり彼女を知らないものはそれを信じている者も少なからずいるらしい、彼女の名誉に関わる問題だよ、早くどうにかしないとね」

 そう、オレ達の中ではそんな戯れ言、で終わる話題も他人からすれば真になってしまう。

 そしてオレ達の耳に入ってるってことは少なからず本人のハイネの耳にも入っているということで、それがオレはどうしても許せない。

 その点はアベルに完全同意だ。

「あれ、みんなもう食べ終わったの? ってちゃっかり座ってるじゃない……代わる気があるなら立ってくださる?」

 そんな中、渦中の人物が早々に戻って来て会話に加わる。

 勿論アベルに文句をつけるけどアベルはアベルで早いもの勝ちだと言って退くつもりはないようだった。

「そんなわけないでしょう、待ってたんですよ、どうでした?」

「……たいした話じゃなかったわよ、根も葉もない噂」

 そんな小競り合いを無視してオレはすぐに聞き返すけど、やはり話の内容はこの噂によるものだったらしく、ピクリと眉間が動く。

「やっぱり……」

「で、どうする? 犯人を見つけ出すか、誤解を解くか」

 珍しくシグナが真っ先に意見をあげる。

「何もしなくていいわ」

 だけどハイネはあくまで普段通りにそう言って笑う。

「でもそれだと君の名誉に関わるよ」

「……あなた達は私がそんなことしてないって信じてくれてるでしょ?」

 アベルがいつもよりも少しだけ語気を強めて窘めるのにハイネは一向に気にした様子なくただそう言ってオレ達を見渡す。

「信じるも何もここに本人もいるじゃない、私はそんなことされた記憶はないわ」

 そうすればユーリが真剣な表情で噂の全てを否定する。

 瞬間オレはとても良いことを思い付いたわけだけど。

 ま、教師に少しぐらいお灸を添えられてもハイネの誤解が解ければおつりがくるくらいだ。

「そうでしょ、なら、それで充分なの、ユーリがいてくれれば、ユーリに嫌われてなければそれで充分! あとは、まぁ、おまけに他の三人もだけど……」

 だけどあくまで本人は何もする気はないようで、珍しくユーリ限定ではなくオレ達も換算に入れてくれてもあまり嬉しくない。

 大体こいつは昔から自分に無頓着すぎるんだよ。

「……」

「……は、早く食券買いに行きましょうか!」

 みんなからの熱視線に耐えられなくなったのかハイリは早々に食券機のほうへと歩きだすけど

「……なぁ、お前らこれでいいと思うか?」

 オレはそれについていくことはせずに他の奴らの意見を求める。

「まさか、彼女は良きライバルだからね、こんな根も葉もない噂でハイネが汚名をきれば私の名にも関わる」

「……嫌なやつだがそういう嫌なやつではない」

「私も……私のことでハイネが悪く言われるのは嫌だわ」

 そして返ってきたのは予想通りの返事だった。

 色々と強引だし、人をバカにしたようなこともするしユーリ大好きマンだし自分本位なやつだけど、きっとここにいる誰も、本気で嫌いなやつなんていない。

「よし、決まりだな……じゃあちょっと放送室ジャックするけど、怒られる準備は出来てるか?」

「……勿論」

 オレのストリートチルドレンだった頃のような声かけに一番ストリートチルドレンとは程遠いアベルがそう言って頷き、それを合図に皆それぞれが立ち上がる。

「あれ、みんな、どこ行くの……?」

「すぐ戻ってくる!」

 誰もついてきていないことに気付いたハイネにそう言い残すとオレ達は放送室へと向かった。


 放送室内に入るのは意外と簡単なことだった。

 先生に頼まれごとがあるとか適当なこと言って通してもらって、それから魔法音拡声器の調整はオレが適当にして見張りはシグナ。

「あー、テステス、よーし、これで良いぞ、あとは、頼んだ」

 オレは魔法で音を拡声させる拡声器のマイク部分をアベルに渡す。

「任された」

「う、うん!」

 受け取ったアベルはユーリの前に拡声器を差し出して、そのマイクに向かってユーリは大きく息を吸い込むと話し出した。

『全校生徒の皆様に宣言します! 私、ローズクォーツの姫であるユーリ・ローレライがリューデスハイム公爵家令嬢、ハイネ・リューデスハイムに虐げられているという事実は一切ありません、私は……彼女の親友です!』

『次期国王候補、アベル・ラインハルトが今ここで証明人になろう、この名に誓って今の話は事実であり、私たちは七年らいの親交があることを知って欲しい』

「さてと、こんなものかな」

 アベルは言いきるとマイクをオレに渡す。

 そしてオレはマイクをオフにする。

 ユーリだけが言ったのでは爵位を笠に着て脅されたのではとなるかもしれない、でも、ユーリの宣誓の後にハイネよりも偉いアベルがその内容に太鼓判を押すことでこれが真実であると信じるだろう。

「二人ともバッチリバッチリ!」

 オレは嬉しくなって自分らしくもなくはしゃいでグットマークを作ってみせる。

「おい! 教師が来るぞ! 突破するか?」

 そんなところに見張っていたシグナが慌てた様子で外の状況を報告してくる。

「シグナ、突破なんてしたらダメだよ……ちゃんとお説教聞くことにしよ」

 そして突破という不穏な行動をユーリが窘める。

「まぁ恩情の余地はあるんじゃないかー」

 根も葉もない噂を流された友人の為、その肩書きがあればそこまで怒られることもないだろう。

 それに一応王子もいるし。

「……」

 そんなことを考えていればふと、視線に誰か写りこんで、すぐに消える。 

「セリム?」

「いや、何でもない」

 オレの様子がおかしいことに気付いたのかアベルに名前を呼ばれるけどオレは頭を振った。

 ただ通りかかっただけではなさそうな雰囲気だった。

 それも嫌な雰囲気だ。

 この不穏さが必要ない懸念だったらいいが、オレのそういう予想は嫌なことほど当たりやすいのも事実だった。

 だけど取りあえずはしっかりと今回の件について怒られる準備を進めるしかなかった。

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