第11話 実力テストの内容がすごい改変してしまったのだけど

「答辞、アベル・ラインハルト」

 あのいけすかない王子が壇上で答辞を終えて退場していく。

 原作ではこの挨拶の途中でアベルはユーリを見つけ、そのまま式をガン無視して速攻で声をかけてくる端からしたらヤバいやつなのだけど、今のアベルは既にユーリとの仲を深めているのでそんなことはしないらしい。

 灰汁のない本当にただのイケメンに育ってしまったようで、こんな筈ではなかったと若干これまでの行動を後悔したりしなかったり、ってところだ。

 もしかしなくても流石メインヒーロー。

 やっぱり一番の強敵かもしれない。


 式が終わり学生達が移動を始めると早々にいつものメンバーが集合していた。

 やっぱり年単位の付き合いだから自ずとこうなるよねって感じ。

「アベル凄かったね、あんな大勢の前で堂々としてて」

 ユーリは早々にアベルを笑顔で褒める。

 くっ、こんなことなら私が答辞をしていれば、なんて悔やまれるけどアベルが優秀で時期国王候補なのは変わらない事実。

 かなり必死で勉強はしたけど、ここは苦渋を飲んで敗けを認めるしかない。

「そんなたいしたことじゃないよ、ユーリの綺麗な髪は壇上からもよく見えてたよ」

「セクハラ! それセクハラだから! っていうか流石に学校では様をつけたほうがいいかしら?」

 乙女ゲープレイヤーをころりと落とすような甘いマスクで流れるようにユーリの髪の毛に触れようとするアベルの手を叩き落とすと早々に話題を転換する。

 そう簡単にユーリに触れさせてたまるもんですか。

「……いや、学校でという場所だからこそ必要ないんじゃないかい? 周りがどう思うかは知らないが、そんなもの気にする必要もないし」

 一瞬こちらに何か言いたげな視線を向けたアベルだったがすぐにユーリのほうを見て笑顔でそう告げた。

 くっ、スマートさでも今遅れを取った気がする。

「ハイネ様ー、もうすぐ実技試験ですよ、くっちゃべってないで行かないと」

「お嬢様もですよ」

 そんな私の勝手な葛藤などいざ知らず、セリムとシグナが急かしてくる。

「あ、そうだった、すぐ行きましょうか」

 学園入学後の一番最初のイベントも勿論私はしっかりと記憶している。

 そう、それは

 実力テストだ。


 魔法学校系乙女ゲーにおいて切っては切れない存在である実力テスト。

 まずは魔法テスト。

 これは単純で、魔力測定装置に手をかざすだけのものだ。

 魔法適正は上から最上>高>中>低>無、という風に分別される

 無は存在自体が大変稀有な存在でめったにお目にかかれるものではない。

 後、これもまた殆ど見ることはないのだけど最上の上にもひとつだか階級があるにはある。

 そして作中ではユーリが一人だけ魔法適正最高を取ってしまうことで悪目立ちしてしまう、という嫌なイベントも存在する。

 アルミア魔法学園は魔法を扱う学校のなかでも上位の学園で勿論貴族など爵位を持った生徒も多いわけで、没落貴族のユーリがそんな高得点を取ればまぁ、そうもなるよなという感じ。

 そしてそのユーリ気に入らないよ勢筆頭が、ハイネ。

 つまり私だ。

 その通りにストーリーが進まないにしても本当に気乗りはしない。

 そしてもうひとつのテストは実技テスト。

 簡単に言えば魔法込みのタイマン。

 こっちのイベントに関してはシグナとユーリの好感度上昇イベントがあるのでこれはこれで要注意。

 だからこそ気は抜けないわけで。

 結構憂鬱だったりする。

 ちなみに元ハイネは中の中。

 魔法適正は特段高くなく、勿論箱入りお嬢様だから実技も中。

 箱入りお嬢様じゃなくなった今ハイネは、もう少し良い結果になると思うけどそれは誤差でしかなかった。

 

「ゆ、ユーリ・ローレライ、最上!」

 あ、しまった。

 頭のなかで予習している間にもテストは進み、既にユーリの結果が出ていた。

 勿論周りはざわざわとざわめいて、作中ではユーリはそれを気にして顔をあげられない、という展開になる……筈なのに。

 なんでユーリは嬉しそうにしながらこっちに手を振ってるんだろうか。

「……可愛いからいっか」

 私は早々に思考を放棄してユーリに手を振り返すことにした。

 こんな可愛い推しを目に焼き付けないでどうするという気持ちが勝った、余裕で。

「せ、セリム・フォスター、最上!」

「……え」

 私を含めたその場の全員が一気にユーリから視線をセリムへと向ける。

 私は特典冊子を読んでいるから各キャラの適正を知っている。

 なのに何故驚いているのか、そう、それは冊子ではセリムの適正は高なのだ。

 この新たに作られた七年の間にいったいセリムに何があったのだろうか。

「次、前に」

「あ、はい……」

 私は呼ばれて慌てて思考を中止して装置に手を置く。

 まぁ取りあえずは良く考えればユーリと同じように目立つ存在が出来たことは喜ばしいことだと思おう。

「ハイネ・リューデスハイム、中!」

 私は自分の判定に内心ガッツポーズをする。

 ハイネの元の適正は低、この七年間の努力で一段階上がったということは大変喜ばしいことだ。

 まぁあのアダム・リューデスハイムの娘として考えたら低い適正なのだけど。

 それでも少しでも魔法適正は高いに越したことはないのだ。

 そしてそこで私は考えた。

 私の特訓に付き合ってくれていたのはもっぱらセリムだった。

 だからセリムも上がったということだろうかと。

 だけどあれぐらいの特訓で最高を出せる程甘くないのも事実で……

「ハイネ!」

「ユーリ……」

 全員の測定も終わり、次の会場に移動しようというところで先生と何か話していたユーリが私の名前を呼んで駆け寄ってくる。

 今のシーン永久保存したい。

「私最上だったわ! これで少しでもみんなに近付けたかしら……?」

 ユーリは言いながらへにゃっと顔を破顔させるから、そんな笑顔を向けられれば叫び出したくなるのを我慢する。

「っ……近付くも何も、私達元々同等でしょ?」

 つっかえつっかえになりながらも私は最重要事項を指摘する。

 この七年で気にしなくなったといってもやっぱり少しでもそういうのを感じていたのだろうか。

「これはハイネの言う通りかな、むしろ私は高だからユーリに負けているしね」

 そんな会話にアベルもユーリを励ますようにそう付け加える。

 これに関しては王子ナイス。

「そーそー、それを言うならむしろハイネ様は中ですし、ほら、あっちのしょぼーんとしてる騎士サマなんて低だぜ?」

「……セリム」

 けらけら笑いながら少しだけ離れたところに立っているシグナをセリムが指差すから軽く窘める。

 そう、シグナは騎士としては強いが魔法適正はかなり低い。

「じょーだんじょーだんですって、ま、でもこの後の実技テストで元気もでますよ」

「……そうね、でもユーリもだけどセリムも凄かったじゃない、私驚いたんだから」

 笑ってそう続けるセリムに同調して、それからそちらを見て肩を叩く。

 結果として何故セリムの適正が上がったのかは分からなかったけど幼馴染みがこうして名誉ある勲章を貰ったのは大変喜ばしいことだ。 

「……どーも」

 せっかく褒めたのに何故かセリムはそれだけ言ってそっぽを向いてしまう。

「ちょっとシグナ励ましてくるね」

「……あ、うん、いってらっしゃい」

 だけどそんな問答をしている間にユーリはシグナを励ましに行ってしまって、折角好感度上昇イベントを回避しようとしているのにこれでは意味がない。

「セリム……」

「なんすか?」

「やっぱりさっきの言葉は撤回ね」

「何故……」

「自分の胸に聞きなさい」


「わー、凄いわ二人とも……」

 ユーリはざわめく生徒達の間から見える光景に感嘆の声を漏らす。

「……確かに、すごいわね」

「魔法も巧みに操って戦うセリムもだけど剣一本で攻防するシグナも凄いな」

 そう、今目の前では実技テストの最終ペアの模擬戦が行われていた。

 セリムはシグナの大剣を普通の剣で上手く受け流しながら魔法でも攻撃を繰り出すしそれをシグナがその大剣一本で攻防する。

 はっきり言って学生の粋を越えているその攻防戦に誰もが結末を固唾を飲んで見守るしかなかった。

 それにしてもおかしい。

 このイベントではシグナはユーリへの忠誠を示すと相手を一瞬で倒してみせる。

 そんなシグナの見せ場の筈だったのだけど、本当はいない筈のセリムが現れたことでそのイベントの運びがごちゃごちゃになってしまったようだ。

 そして模擬戦はそのまま引き分けという形で決着がついたのだけれど、っていうかぶっちゃけセリムがチート過ぎる気がしないでもない。

 魔法適正最上に実技テストも同率一位とか何故こうなった感はあるけれど、こんなに心強い味方が出来たことは内心喜ばしいから後でセリムにはまたお礼を言い直さないといけないだろう。

 そして悲しいことに良いとこゼロだったアベルには、生温かいドンマイの言葉を送っておいた。

 自信家という一面を削り取られたアベルに必要だったかまではどうでもいいから考慮しなかったけど。

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