憂鬱

ガチャ


「ただいま」


いつも通り何も返って来ないことを祈ったが結果は最悪。

嫌なことってなんで立て続けに起きるのだろう?


「花芽は?なんでゴミなんだよ」


最悪だ。また、母が起きてる。

この言動。ほんと、まいっちゃう。

まあ、正直だけど。


「だとして、勝手にこっちのせいにされてもだけど」


「何よ!ゴミのくせして!

あんたのせいでこっちは大変な目に」


腕が振り上げようとするのを見て、自分の部屋に入り、鍵をかける。

もちろん、小銭を使えばどうにかなるけど、そんなこと思い付かれない。


ダンダン


扉を強めに叩かれるけど、音をたてないで息を潜めていれば静まる。

諦めたのか。出かける時間になったのか。

にしても、最近多くないか。真昼に出かけるし。

何かあったのかな。


再婚とか。

水商売の人を好む男性らしき人物最悪だな。

別に期待なんてしてないけど。

面倒くさいのが増えるのは困る。


ガチャ


あいったみたい。

パソコンを開ける。


「お」


あと、23人。

明日にはできるかな。楽しみだな。

あ、ルシちゃんついてる。

見よ。


『w w。みんな、今日のりいいね〜。

おはついも過去一だったよ。

そんなに2Dが嬉しいか。

奮発したかいがあったよ〜』


確かに、さっきからピョコピョコ動いてる。

2Dね。いつかはやりたいけど、それこそパソコンのスペック的にも買わないといけないし、カメラも買わないとな。やるとしたら、もっと先だ


『今日はホラゲーをします!初見だからネタバレ❌だよ!』

『ふむふむ。脱出けいか。じゃあ、こっちに。きゃ!なんか音する!』


「w w。最高。そんな怖がらなくてもいいじゃんw w」


面白いな。やっぱ、うまいな。

喋りはこれぐらい大袈裟がいいのかもな。

とにかく、今いるファンは離したくない。

思考が少し逸れながらも楽しく視聴しきった。


活動も当たり前になってきてる。

収入を見ると思ったより多かった。

大きな金額の投げ銭はないけど、塵も積もれば山となる。


けど、純粋に喜べなかった。

別に、嘘をつくのが嫌なわけじゃない。

綺麗事で世界が回るなら、こう苦労はしていない。

嘘だってライフハックの一つだ。


ただ。少しだけ罪悪感というか、自己嫌悪があった。

あっちは純度100%で、自分みたいに推し事なりしてくれているのに。


あくまで、配信者。

大きな括りにするなら、芸能人とかは夢を売る仕事だ。

夢を売るなんて綺麗なキラキラしたものを与えるようなことだ。

与えられるようなキラキラしたものなんて持っていない。


あるのは、

この世界への諦めなのか、希望を持ってしまう馬鹿な欲求なのか。



ピーピー

思ったより、深く考えていたみたい。

配信時間のアラームが鳴る。


やっぱ、憂鬱な事があった日に考え事はよくない。

まあ、そういう話こそネタになるし良いけど。


「そろそろ、配信の時間。やるかー」

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