Episode.9 『H』
ヨウがラキンに所属して一か月ほどが経った。ラキンで過ごす日々は忙しいわけではなかったが、相談者の悩みに寄り添いながらイフロを祓うという責任感は感じる毎日だった。ヨウは相談者の話を聞く度、自分の知らないところでこんなにも困っている人ががいたのか、と世間の狭さを痛感していた。
ヨウは今日、いつものように射撃訓練場でクユスコのイメージをの練習をしていた。かなり形になってはきたが、実用するにはまだまだ、と
話しかけないでくれよ、、、と願っていたが、
「あれ、君ってこの前第8のエースと一緒にいた人だよね?」
声をかけられた、、、、。ヨウは余所行きの笑顔で振り向き答える。
「、、、、、そうですよ。俺に何か?」
相手数人はにやにやしながら近づいてくる。明らかに嫌味を言う態度だ。
「お前なんで第8に入ったんだ? あんな窓際部署に。」
「、、、、何処に所属しようが俺の勝手だと思いますが。」
「ふぅ~ん、そっか。 え、ちなみに第8って普段どんな仕事してるんだよ。話聞くだけ?」
「____まぁ、そう、ですね。」
イフロ祓いについては他の隊員は知らないのでハイと答えるしかない。もうこれ以上こいつらと話したくないんだが、、、、。
「あ、そうだ。俺たちこれからここで練習したいんだけど、君出て行ってくれない?」
「は?」
急に何を言い出すんだこの人。
「第8の人間が射撃訓練場使う必要ないだろ?」
「ラキン隊員だったらここ使うのは自由ですよね。それにここどんな広さだと思ってるんですか。僕は端に行って皆さんのお邪魔しないので。」
「俺他の人いると集中できないんだよねぇ。」
完全に嫌がらせに来てやがる。こんな子供っぽい嫌がらせをする大人がいるのか、、、。しかし問題を起こしてAに迷惑かけるのも、とヨウが困っていた時、また誰かが射撃訓練場に入ってきた。また第1かとヨウは絶望したが、入ってきたのはラキンの制服を着ていない一人の男だった。かなり明るい茶髪、見ようによってはオレンジにも見える髪色にピアス・ネックレス・指輪などアクセサリー類。完全に見た目がチャラい陽キャだ。明らかにラキンの隊員ではなさそうな人物の登場に、その場にいた全員の注目が集まる。
「あーごめん、なんか邪魔したかな? いいよ続けて。」
彼はそのまま装備品の点検台へと向かった。周りの目など全く気にせず装備を分解し始める。たまらず第1の一人が彼に話かけた。
「お前、誰? ラキンの人間じゃないだろ。どうやってここまで入って来たんだ?」
そう言われると、チャラい彼は銃の点検をしながら振り向きもせずラキンの身分証を背中越しに見せてきた。
「この通りちゃんとしたラキンの隊員ですが?」
「、、、、、はぁ?」
第1の彼らは見知らぬ人物の登場に完全に気をそがれたようだ。それ以上ヨウに何か言うわけでもなく、そのまま出て行ってしまった。ヨウはほっと息を吐く。彼のおかげで助かった。
ヨウはチャラそうな彼に感謝を伝えようと点検台へ向かう。それにヨウは知っている。ラキンに所属する人間で制服を着ない人間は高確率で第8の人だ。
「すみません、さっきはありがとうございます。」
「別にオレは何もしてないよ。」
恐ろしく早い動作で銃を分解していきながら彼はこちらを向いた。見た目はチャラいが目には優しそうな雰囲気があった。
「それより君、ヨウだよな?」
「そうです。ってことはやっぱりあなたも?」
「うん。第8の『
そういった彼は右手を差し出す。ヨウも手を差し出し握手した。Hの笑顔が眩しい。かなりモテるだろうなという主人公タイプだ。
「いや~また新しく人が入ったって聞いてすごい嬉しかったんだよね! しかも同い年らしいじゃん!!」
「え、Hも25?」
「そう! だからダメ口でいいよ~。」
Hはかなりフランクな性格のようだ。ヨウも同い年、そして(Aよりは)話しやすい雰囲気にすぐに緊張はほぐれた。
「今日は本部に戻らなきゃいけない日だったからヨウに会いに来たんだよ。Aに聞いたら射撃訓練場にいるからって。来てみればなんか絡まれてたね(笑)。」
「Hのおかげで助かったよ。」
「ホントに何もしてないってば。でさ、この後昼飯一緒に行かない? おいしいご飯屋知ってるからさ!」
そう言いつつ次々と銃を組み立てていく。明らかに心得のある人の手の動きだ。ヨウもHと話したかったので断る理由もない。そのまま昼食へ向かった。
Hについて行くとそこは、洒落たカフェだった。看板には「店主お手製!」の文言が書いてある。今時こういう店は機械がご飯なども作るのでこの店は珍しい。店内に入ると微かに音楽が流れ、おいしそうな匂いが漂っていた。
「ここはサンドイッチがおすすめだよ! ここ来たら毎回頼んじゃうんだよな。」
「じゃあ俺もそれで。」
提供されたサンドイッチはHの言う通りとてもおいしかった。
「んで、Aとは上手くやってる?」
サンドイッチをほおばっているとHが話しかけてきた。
「丁寧に説明とかしてくれるし、優しいよ。それとAのイフロ祓いの腕前がヤバすぎる。」
ヨウの答えを聞くと、Hは少し安心した表情になった。
「そっか。上手くやってるならいいや。あいつ結構怖がられることが多いから。」
「それは多そう(笑)。」
「ほんとは優しいやつだからな。ヨウが分かってくれてるみたいで良かった。」
HはAと付き合いが長そうなので、ヨウは気になっていたことを聞いてみた。
「なぁ、なんでAは若いのにイフロ祓いがあんなにすごいんだ?」
ヨウの質問にHは困った顔をした。なにか良くない事を聞いたか?
「オレもよくは知らないんだよ。Aと初めて会った時、ていうか救ってもらった時すでにイフロ祓いだったし。それが、、、多分3年前とかだったかな?」
どうやらHもAに救われた人間らしい。それに3年前というとAは20歳か。
「こういうのは本人以外が話すべきじゃないと思うけど、室長から聞いた話では第8立ち上げメンバーらしいから。結構小さい頃からイフロ祓いだったっぽい。」
そんな前から、、、、。ヨウの記憶にあるうちではラキンは生まれた時からあり、第8が出来たのはAI技術が発達したころ。確か7.8年程前だ。ヨウは思わず眉を寄せる。最初に見た書類、あれには確か【イフロが見えるようになる条件は、宿主が殺されずに生き残った場合】と書かれていたはずだ。子供の頃にイフロに取りつかれるようなことがあった、ということだ。
「ま、過酷な幼少期を送ってきたことは確かだよ。あとそれに関連してもう一つ、ヨウに話しておかなきゃならない話がある。」
そう言うHの表情は少し暗い。ヨウは話の内容を予感し、居住まいを正すのだった。
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