モノクロームカード

第43話

 図書室で行われた厚本あつもと彩羽いろはとのギャンブル対決、『勝者の毒杯』で花屋はなやと決別してから、一週間が過ぎた。


 その後のわたしの日常は怖ろしく静かだった。普通に授業を受けて、友達と喋って、帰るだけの平和な日々。平凡で楽しいだけの、退屈な学園生活。


 その裏で大金を賭けたギャンブル対決が行われていることに、一体どれだけの生徒が気付いているだろうか?


 ――ある水曜日の昼休み。

 一人で中庭のベンチに座っていると、すぐ隣に誰かが腰掛けてきた。


 生徒会の躑躅森つつじもりはるかである。


「……わたしに何の用ですか? 躑躅森さん」


 わたしはを隠そうともせずに躑躅森に言う。


「いいや、特に用はない。偶然ここを通りかかって、偶々たまたまこのベンチに座りたくなっただけだ」


「……いやいや、そんなわけないでしょ」


「というのは勿論嘘で、お人好しの貴様のことだ。そろそろ花屋のことが気になっているんじゃないかと思ってな」


「……別に気になってなんかいません」


 わたしはムキになったみたいにそう言って、そっぽを向く。


「そうか。それならこれから話す内容は全部僕の独り言だ。気にせず聞き流してくれ。この一週間で、花屋は四人のギャンブラーを倒して再起不能にした」


「……わたしには関係のない話です」


「一見、順調に勝ち続けているように思えるが、僕にはどこか自暴自棄になっているようにも見える」


「……躑躅森さんは花屋君のことが嫌いなんじゃないんですか?」


「ああ、嫌いだよ。初めてあいつを見たときから、あの人を小馬鹿にしたような薄ら笑いが大嫌いだった」


「だったら花屋君がどうなろうが、躑躅森さんに関係ないじゃありませんか」


「ところがどっこい、そういうわけにもいかない事情があってな。『賭博生徒会』にとってギャンブラーは大事な商売道具だ。見応えのある熱い真剣勝負は大歓迎だが、再起不能になるまでの無茶な勝負は歓迎しない。花屋自身もだが、他のギャンブラーが再起不能になることは、『賭博生徒会』にとって大きな損失だ」


「……花屋君が『賭博生徒会』を破壊しかねないと?」


「まァ、簡単に言ってしまえばそういうことになるな。というか、花屋はわざとギャンブラーを再起不能にすることで、『賭博生徒会』を潰そうとしている節がある」


「……花屋君の目的はギャンブル対決を楽しむことなのに、どうしてその場を提供してくれる『賭博生徒会』を攻撃するんですか?」


「おそらく、これは僕たちへの脅迫だ。もっと強いギャンブラーを連れて来い。それができなければ、『賭博生徒会』に残しておく価値などないというな」


「…………」


 花屋がギャンブル対決をする目的は勝って大金を得ることではない。極限までに追い詰められたときに感じる、スリルと興奮。ただそれだけを追い求めているのだ。


 花屋にとって、『賭博生徒会』がそれらを与えてくれない退屈な組織なら、既に用済みということなのだろう。


「……ところで躑躅森さん、どうしてそんな話をわたしに?」


「ん? わからないか? 今の花屋を倒しうるギャンブラーは吉高よしたか、貴様をおいて他にいない」

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