スカウトの仕事は、未来を見ること

「はあ……筋肉痛、やばいかも……」




 朝。焚き火のそばで、リーナがぐったりしていた。




 昨日の盗賊との戦闘から一夜。初めての実戦は、彼女の身体にそれなりのダメージを残したらしい。




 「筋肉が目覚めてきてる証拠だ。悪いことじゃない」




 「そんな、嬉しくない……」




 そう言いながらも、彼女は少しだけ笑っていた。戦いに勝った達成感と、自分に“できた”という実感が、確かに彼女の中に残っている。




 その表情を見て、俺は思った。




 やはり、この旅は間違っていなかった。







 「カイル、聞いてもいい?」




 「ん?」




 「どうして、私を“スカウト”したの? 昨日だって怖がってたし、剣の才能があるなんて思えないのに」




 静かな口調だったが、核心を突いていた。




 俺は焚き火に小枝をくべながら、少しだけ考える。


 そして、はっきりと答えた。




 「俺のスキルは、才能を“見抜く”スキルだ。過去でも現在でもなく、“未来の可能性”を見てる」




 「未来の……?」




 「そう。だから、今がどうとか関係ない。どんなに不器用でも、どんなに評価が低くても、“伸びる奴”は分かる。お前は、その中でもトップクラスだった」




 リーナはきょとんとしていたが、すぐに照れくさそうに目をそらした。




 「そんな風に言われたの、初めてだよ……」







 俺のスキル《識眼》は、完全にパッシブ型だ。


 特定の条件下で対象を見ると、その人間の成長因子・スキル適性・潜在能力が、視界にグラフ化されて表示される。




 世間では“鑑定スキルの下位互換”と見なされているが、それは大きな誤解だ。




 鑑定は「今ある情報」を読む。


 だが識眼は「まだ顕在化していない資質」――つまり、未来の可能性を読む。




 俺が評価しているのは、今の強さじゃない。


 “伸びしろ”だ。




 それを理解しない勇者たちは、目先の火力だけで人を切り捨てた。


 けれど、彼らは知らない。




 目の前にある数字よりも、将来の数字の方が、遥かに大事だってことを。







 「……つまり、私って将来的には強くなるってこと?」




 リーナが言った。




 「その通り。むしろ、適性だけ見れば勇者より上」




 「うそ……勇者って、あのグラン?」




 「そう。あいつの成長因子はもう伸びきってる。あのままいけば、いずれ頭打ちになる。今は強く見えても、将来は保証されてない」




 リーナは少し真剣な表情になった。




 「じゃあ、私がもっと強くなったら……私を見捨てた人たちを、見返せるのかな」




 「余裕だろ」




 俺は即答した。




 「“見る目”のない奴らに選ばれなかったことを、後悔させてやれ。お前自身の力で」




 リーナの目が少し潤んでいた。


 でも、それは泣きそうな顔じゃない。




 何かを決めた人間の顔だった。







 その日の訓練では、リーナの動きが明らかに変わっていた。




 剣の振り下ろしが鋭くなり、無駄な動きが減っている。集中の持続時間も、格段に上がっていた。




 俺の視界に浮かぶグラフが、それをはっきりと示している。




 ――反応速度:A+ → 変動中


 ――集中持続:A → A+に迫る


 ――覚醒因子:段階Ⅰ → 安定化




 戦闘経験が、リーナを成長させている。


 間違いない。この子は、世界を変える武器になる。




 「リーナ」




 「なに?」




 「次は、もっとヤバいやつをスカウトしに行く。覚悟しておけよ」




 「ええっ……!?」




 「大丈夫。お前なら見抜ける」




 俺は笑った。




 “才能を見抜く目”に、間違いなんてない。

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