落ちこぼれ剣士、最初の一太刀
翌朝。リーナと俺は、小さな村のはずれにいた。
手にしているのは、古びた木剣。重さは実戦用の半分程度。それでも、リーナは最初から全身を緊張させていた。
「そんなに力むな。まずは構えろ」
「……うん」
剣の基礎。構え、足運び、振り下ろし。
俺は“戦えない”スカウトだが、基本的な技術の理屈は頭に入っている。教えるというより、修正点を言語化して伝えるだけの指導だった。
リーナは、それを瞬時に理解し、体現してみせる。
「……筋がいいな」
俺が思わず呟くと、リーナは恥ずかしそうに笑った。
「昔から動くのだけは得意だったんだ。頭使うのは苦手だけど」
だが、それは才能の一端にすぎない。
彼女のスキル適性を示す“因子グラフ”は、今も俺の視界に浮かび続けている。
その中でも異常なのは、《反応速度》と《集中力持続》。訓練によって伸ばせるタイプの因子だ。
つまり――やればやるほど、強くなる。
◇
昼過ぎ。
俺たちが野営場所を探していたとき、事件は起こった。
「……あれ、人が倒れてる!」
森の小道。倒れていたのは商人風の男と、砕けた荷馬車。そして、その周囲に立っていたのは――
「盗賊か。3人、武器持ち……」
小型の斧、片手剣、短弓。明らかに訓練を受けていない動きだが、経験だけは積んでいる様子だった。
「どうする、カイル……?」
リーナの声が震える。だが俺は即答した。
「逃げ場はない。やるしかない。お前なら勝てる」
「……でも、私、戦ったことなんて」
「お前は“戦える”才能を持ってる。俺はそれを見た」
言った瞬間、リーナの因子グラフに再び揺らぎが走る。
覚醒前の兆候だ。
◇
盗賊の1人がこちらに気づき、剣を抜いて突っ込んできた。
リーナは反射的に木剣を構える。体が震えている。呼吸も浅い。だが、その一瞬――
彼女の動きが変わった。
「ッ!」
盗賊の突きを半身でかわし、そのまま腰をひねって一太刀。
音が鳴る前に、木剣の先が盗賊の脇腹を打ち抜いていた。
倒れ込む盗賊。残りの2人が立ち止まる。
「なんだ……今の動き……」
俺ですら、目で追いきれなかった。
リーナは木剣を構え直す。表情が変わっていた。怯えではない。集中だ。
その瞬間、グラフが弾ける。
《反応速度:A+》の因子が完全に発現。
《剣技初歩》のスキルが、戦闘の中で自動進化した。
新スキル:《剣閃》
連撃・回避に特化した初心者用のスキルだが、彼女の身体能力と合わさることで、異常な性能を発揮する。
残りの盗賊は、もはや彼女の敵ではなかった。
◇
戦いのあと。リーナはその場に座り込み、息を整えていた。
「……勝てた……私が……」
「お前の中には、最初からその力があった。ただ、それを見抜ける奴がいなかっただけだ」
俺は静かに言った。
「スカウトは戦えない。でも、才能を見抜き、拾い、磨くことができる。お前が証明してくれたよ」
リーナは少し涙ぐんでいた。
「ありがとう、カイル……。私、今なら……ちょっとだけ、自分のことを信じられるかもしれない」
その瞬間、彼女の因子グラフがさらに微かに変化した。
──覚醒因子・段階Ⅱ、反応あり。
この旅は、きっと面白くなる。
そしていつか、あの“見る目がない勇者たち”の目の前で――
俺が選んだ仲間の力を、思い知らせてやる。
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