第24話 出発、赤砂を越えて
朝靄が晴れ始めた転移装置の前。高機動車のボンネットに朝露が光っている。水滴の一粒一粒が太陽光を捉えて、七色に輝く。小さな虹が無数に生まれては消えていく。五台の高機動車と、一台の野外炊具2号(改)。ゴツゴツとした車体が整然と並んでいる。緑色の装甲が朝日を鈍く反射している。
俺は先頭車両の前に立つ。足元の砂利がジャリジャリと音を立てる。石と石がぶつかり合う乾いた音。深呼吸する。鼻から空気を吸い込む。朝の冷気が鼻腔を通って肺に流れ込む。ひんやりとした感触。胸郭が広がる。新鮮な空気で肺が満たされる。
「全員揃ったか?」
柏木一尉の声が響く。太い声。横隔膜を使った発声。腹の底から出ている。朝の静寂を破って、空気を震わせる。
「はい!」
返事が揃う。初期部員五名。運動部から来た兼部メンバーを含む惑星開拓部員二十名。そして自衛隊員十四名、教授二名。計三十六名の声が、一つになって響く。これまでで最大規模の探査隊だ。声の振動が胸に響く。
胸の奥で何かがギュッと締まる。肋骨の内側から押し付けられるような感覚。心臓が通常より速く脈打つ。ドクドクと。血流が速くなる。手のひらがじっとりと湿ってくる。汗腺から滲み出す汗。シャツの裾を握る。布地が湿気を吸って重くなる。
「準備はいいか?」
俺が声をかける。振り返って、みんなの顔を見る。全員が頷く。顎が上下に動く。力強い動き。でも、よく見ると、何人かの手が小刻みに震えている。指先が勝手に動いている。緊張の表れだ。初めての本格的な異世界探査。当然の反応だ。瞳に宿る好奇心と不安が入り混じっている。キラキラと輝く期待の光と、少し曇った不安の影。複雑な感情が顔の筋肉に表れている。眉が微かに寄ったり、口元が引き締まったり。
白磁の扉が目の前にある。表面がツルツルしている。磨き上げられた陶器のような質感。手を近づけると、掌に冷気が伝わってくる。扉から虹色の光が漏れ始める。最初は薄く、次第に濃くなっていく。膜がゆらりと揺れる。水面のような、シャボン玉のような、不思議な動き。異世界への扉が開く。
「出発!」
声を張り上げる。声帯が震える。喉仏が上下する。先頭車両のドアハンドルを掴む。金属の冷たさが掌に伝わる。ひんやりとした感触。引く。重い。ガチャンと音を立てて開く。蝶番が軋む音。シートに腰を下ろす。革張りのシートが体重を受け止める。ギシッと軋む音。お尻が沈み込む。背中も沈む。シートベルトを引く。ベルトが伸びる。カチッと音を立てて固定される。胸を締め付ける感触。安全だが、少し息苦しい。
キーを回す。捻る動作。エンジンが唸り始める。ブルルルル。低い振動音。振動が体に伝わってくる。ハンドルを握る手に、ステアリングを通して細かい震動が。お尻に、シートを通して規則的な振動が。全身が小刻みに震える。生きている機械の鼓動。
アクセルを踏む。ペダルが沈む。エンジン音が高くなる。車が動き出す。タイヤが砂利を噛む。ジャリジャリと石が弾ける音。後続車も続く。エンジン音が重なる。ブォォォン、ブォォォン。轟音になる。扉をくぐる瞬間、体が浮く感覚。一瞬の無重力。胃が持ち上がる。内臓が浮く。そして──
***
目の前に広がるアルカディアの朝。空が深い紫色だ。地球では見たことのない色。アメジストを溶かして空に塗ったような、宝石のような輝き。息を呑む。肺が一瞬止まる。呼吸を忘れるほどの美しさ。
「すごい……」
隣の理沙が呟く。声が震えている。感動で喉が詰まっているような、掠れた声。
「本当に異世界なんだ」
後部座席から川崎の声が聞こえる。興奮で声が上ずっている。普段より高い音程。
「空の色が全然違う」
「この砂も」
神崎が窓に顔を押し付ける。鼻がガラスに潰れる。ペチャッと平たくなる。息でガラスが曇る。白い曇りが広がって、また消える。
「地球とは全然質感が違うね」
赤い砂が広がっている。どこまでも、地平線まで続く赤い大地。砂粒の一つ一つが光を反射する。細かな宝石のようにキラキラと輝いている。ルビーの粉末を撒き散らしたような光景。車輪が赤い砂を巻き上げる。タイヤの回転で砂が舞い上がる。舞い上がった砂が朝日を受けて輝く。車の後ろに赤い雲を作りながら進む。砂塵が尾を引く。エンジン音が静寂を破る。ブォォォン。単調な音。でも、リズミカルで心地いい。
「初めて来た時のこと、覚えてる?」
理沙が俺を見る。横から視線を向ける。目が合う。黒い瞳に俺の顔が映っている。小さく歪んで見える。
「ああ」
答える。一言だけ。喉が急に渇く。唾液が出なくなる。舌が上顎に張り付く。唾を飲み込もうとするが、喉が動かない。あの日のことは忘れない。忘れられない。焼き付いている。
「二人だけで、小さな泉を作った」
「懐かしいね」
理沙が微笑む。口角が上がる。頬が少し赤い。朝日が当たっているせいか、それとも別の理由か。
無線機がザザッと音を立てる。雑音が入る。そして声が聞こえる。
「前方、丘陵地帯に入ります」
柏木一尉の声だ。スピーカーから流れる。クリアに聞こえる。
「了解」
マイクを取る。プラスチックの感触。表面がざらついている。ボタンを押す。カチッと小さな音。返事をする。
***
赤砂の平原を一時間ほど走る。単調な景色が続く。でも、飽きない。微妙に変化している。砂の色が濃くなったり薄くなったり。岩が現れたり消えたり。風紋が描かれていたり。生きている大地。
やがて岩場が見えてきた。ゴツゴツとした岩が砂から突き出している。巨人の骨のような形。風化して丸みを帯びた部分と、鋭く尖った部分が混在している。
「ねぇ悠斗君」
美月が身を乗り出してくる。シートベルトが伸びる限界まで。顔が近づく。髪が揺れる。シャンプーの匂いが漂ってくる。フローラル系の甘い香り。
「このあたりで一度、実力を見せてくれない?」
車内の空気が変わる。ピリッと緊張が走る。全員の視線が集まる。背中に視線を感じる。チクチクと刺さるような感覚。期待と好奇心の視線。
「みんなも気になってると思うんだ」
「そうだな」
バックミラーで田中先輩の顔を見る。頷いている。深く、ゆっくりと。
「百聞は一見に如かず、ですよ」
「わかった」
ハンドルを切る。右に。ブレーキを踏む。ペダルが沈む。キィィと音を立てて車が止まる。タイヤと地面が擦れる音。砂埃が舞い上がる。もうもうと。サイドブレーキを引く。ガチャンと金属音。エンジンを切る。キーを回す。静寂が戻る。
ドアを開ける。外に出る。アルカディアの風が顔を撫でる。乾いた風。水分を奪っていく。砂の匂いがする。鉄っぽい、金属的な匂い。全員が車から降りてくる。ドアが次々と開く音。バタン、バタン、バタン。足音が砂を踏む。ザッザッザッ。砂が靴底に潜り込む。
「あの岩を」
50メートルほど先の巨岩を指差す。人差し指をまっすぐ伸ばす。大きい。家一軒分はある。高さ10メートル、幅15メートルはあるだろう。
「見ててくれ」
深呼吸する。肺を膨らませる。空気を取り込む。吐く。ゆっくりと、全部出し切る。心を落ち着ける。集中する。魔力を集中させる。腹の底から何かが湧き上がってくる。熱い。マグマのような熱さ。それが全身に広がる。血管を通って、細胞の一つ一つに浸透していく。指先まで熱が届く。静電気が走る。ビリビリと皮膚の表面を這う。髪が逆立つ。一本一本が重力に逆らって立ち上がる。空気が震える。大気が振動する。周りの砂が微かに浮き上がる。重力に逆らって舞い上がる。
右手を前に突き出す。掌を岩に向ける。狙いを定める。魔力を解放する。
雷撃。
閃光が走る。白い光の槍。目が眩む。網膜を焼かれる。白い光が視界を埋め尽くす。瞼を閉じても光が突き抜けてくる。轟音。ドォォォォン!大気を引き裂く音。鼓膜が震える。痛いほどの音圧。耳の奥でガンガンと響く。残響が続く。
衝撃波が広がる。円形に。砂塵がリング状に広がる。ブワッと砂の壁ができる。風圧で髪が後ろになびく。服がバタバタと音を立てる。旗のように。岩が砕ける。粉々に。破片が雨のように降り注ぐ。パラパラと。小石が地面に落ちる音。カラカラカラ。転がる音。そして──静寂。耳鳴りだけが残る。キィィィィン。高い音。頭の中で響いている。鼓膜がまだ震えている。
「わぁっ!」
「すごい……!」
歓声が上がる。みんなの口が開いている。顎が下がっている。目が丸くなっている。瞳孔が開いている。拍手が響く。パチパチパチ。手のひら同士がぶつかる音。
「さすがだな、悠斗君」
柏木一尉が近づいてくる。大股で。肩を叩く。ポンと。大きな手。厚い掌。温かい。体温が伝わる。
「これなら安心して任せられる」
でも、視線が重い。みんなの視線。期待と依存が混じっている。俺を見る目が少し変わった。英雄を見るような目。頼りにする目。でも同時に、距離を感じる目。特別な存在として見る目。胸の奥がざわつく。モヤモヤする。違和感がある。……いや、今はそんなこと考えるな。目の前のことに集中しろ。
「念のため、皆さんにも『クリーン』の魔法を付与しますね」
一人ずつ近づく。手をかざす。掌から魔力を流す。淡い光が相手を包み込む。白い光。柔らかい光。温かい光。
「体が軽い!」
誰かが跳ねる。ピョンピョンと。地面から足が離れる。
「服の汚れが消えた!」
自分の服を見下ろしている。目を輝かせて。子供みたいな表情。
「これは便利だ、ありがとう!」
お礼を言われる。純粋な喜び。素直な感謝。それが俺の心を温める。じんわりと。胸の奥が熱くなる。これでいい。これが俺の役割。……たぶん。
***
太陽が西に傾き始めた。オレンジ色の光が赤い砂を更に赤く染める。まるで大地が燃えているような光景。影が長く伸びる。車の影、人の影、全てが西へ西へと伸びていく。地面に黒い線を描く。
キャンプ地に到着。平らな場所。風を防ぐ岩がある。天然の防風壁。水場も近い。地下水が湧いている。理想的な場所だ。
「テント設営、開始!」
柏木一尉の号令が響く。隊員たちが一斉に動き出す。統制の取れた動き。テントの袋を開ける。ジッパーの音。ジジジジ。ポールを組み立てる。カチャカチャと金属音。手際がいい。無駄な動きがない。訓練の賜物。
「カレーの準備、始めます!」
炊事班が動く。大きな鍋を並べる。ガスコンロに火をつける。ライターを擦る。カチッ。ボッと音を立てて青い炎が踊る。ゆらゆらと。野菜を切る音が聞こえる。トントントン。リズミカルな包丁の音。玉ねぎの匂いが漂ってくる。ツンとする刺激臭。目が痛くなる。涙が出そうになる。肉を炒める音。ジュージュー。油が跳ねる音。香ばしい匂い。食欲をそそる匂い。腹が鳴る。グゥ。恥ずかしい。手で押さえる。
「手伝うよ」
理沙が炊事班に声をかける。エプロンを着ける。首にかけて、腰で紐を結ぶ。蝶結び。
「私も」
美月も加わる。他の女子部員たちも集まってくる。ワイワイと賑やか。笑い声が響く。
「じゃあ、野菜切ってもらえる?」
「はい!」
包丁を握る。刃がキラリと光る。夕日を反射して。俺も手伝おうとする。一歩踏み出す。でも──
「悠斗君は休んでて」
美月に止められる。手で制される。掌を向けられる。
「疲れてるでしょ?」
「でも──」
「リーダーは体力温存が大事」
理沙も頷く。でも、なぜか目を合わせない。視線を逸らす。横を向く。どうしたんだろう。何か気に障ることでも言ったか。
仕方なくテントの設営を手伝う。ペグを手に取る。金属の杭。重い。ハンマーを握る。木製の柄。振り下ろす。ガン!地面にペグが刺さる。硬い地面。また振り下ろす。ガン!ガン!手に振動が伝わる。痺れる。豆ができそうだ。掌がヒリヒリする。皮が剥けそう。
日が沈む。アルカディアの夕陽は大きい。地球の倍はありそうだ。巨大な赤い球体。ゆっくりと地平線に沈んでいく。荘厳な光景。空が赤から紫へ、そして濃い青へと変わっていく。美しいグラデーション。
「いただきます!」
全員で輪になる。地面に座る。あぐらをかく。砂の上に直接。カレーの皿を手に持つ。温かい。湯気が立ち上る。顔に当たる。いい匂い。スパイスの香り。スプーンですくう。口に運ぶ。舌に触れる。美味い。本当に美味い。スパイスが効いている。ピリッとした辛さ。その中に甘みがある。じゃがいもがホクホク。口の中で崩れる。人参が甘い。肉が柔らかい。噛むと肉汁が出る。異世界の空の下で食べる地球の料理。不思議な組み合わせ。でも、これがまた格別だ。
「このカレー、本当に美味しいね!」
美月が笑顔で言う。満面の笑み。頬にカレーがついている。黄色い染み。
「明日もカレーです!」
炊事班長が宣言する。胸を張って。誇らしげに。
「えぇ〜」
全員の声が揃う。がっかりした声。でも、みんな笑っている。笑い声が夜空に散る。アハハハ。楽しい。本当に楽しい。仲間と過ごす時間。
***
食後、見回りに出ることにした。テントを出る。ファスナーを開ける。ジジジと音を立てて。外に出る。冷たい風が顔を撫でる。昼間との温度差。肌がピリッとする。
二つの月が昇っている。赤い月と青い月。地球では見られない光景。幻想的な光が砂漠を照らしている。二色の光が混ざり合う。影が二重になる。不思議な光景。
「一緒に行く」
後ろから声。振り返る。理沙が立っている。ジャケットを羽織っている。風で髪が揺れている。
「危ないかもしれない」
「だから一緒に行くの」
有無を言わせない口調。強い意志を感じる。決意が込められている。
「分かった」
二人で歩き始める。砂を踏む。ザク、ザク。柔らかい砂が靴底を包む。足音が重なる。二人分の足音が静かな夜に響く。リズムを刻む。
キャンプ地を離れる。少し小高い丘に登る。斜面を上る。息が切れる。ハァハァ。肺が酸素を求める。でも、頂上からの眺めは最高だ。キャンプの灯りが下に見える。オレンジ色の光の点々。小さな光の集まり。
「今日、美月と仲良さそうだったね」
理沙が呟く。声が小さい。ボソッと。風に消えそうな声。
「そうか?」
本当に気づいていなかった。意識していなかった。
「うん」
声が更に小さくなる。消え入りそう。
「気のせいだよ」
「……そうかな」
理沙の横顔を見る。月光で青白く照らされている。綺麗だ。幻想的。でも、少し寂しそう。眉が下がっている。立ち止まる。理沙も止まる。向き合う。正面から。
「理沙」
「なに?」
見上げてくる。月明かりで瞳がキラキラしている。潤んでいるように見える。
「俺にとって特別なのは──」
言いかけて、止まる。喉が詰まる。言葉が出ない。今じゃない。まだ早い。もっとちゃんとした時に。もっとロマンチックな場所で。もっと準備をしてから。
「なんでもない」
「もう!」
理沙が頬を膨らませる。プクッと。空気を含んで。可愛い。思わず笑いそうになる。
「はっきりしてよ」
「ごめん」
また歩き出す。並んで。二人の影が地面に伸びる。月明かりが作る影。長い影。二つの月の光で、影も二重。寄り添うように伸びている。くっついたり離れたり。でも、ずっと一緒に動く。
キャンプ地を一周して戻る。テントに灯りが点いている。中から光が漏れている。まだ起きている者もいるようだ。話し声が聞こえる。笑い声も。楽しそうな声。
アルカディアの夜は静かだ。風が止んでいる。ピタリと。空気が澄んでいる。星が瞬いている。地球より多い。圧倒的に多い。数え切れない。天の川のような光の帯が空を横切っている。壮大だ。宇宙の大きさを感じる。
遠くで何かが鳴いた。クゥーンという声。高い声。リムの仲間だろうか。それとも、まだ見ぬ生き物か。明日は本格的な探査が始まる。何が待っているのか。危険か、発見か、それとも──
「理沙」
「うん?」
「明日も、一緒にいてくれる?」
理沙が微笑む。月明かりでも分かる。口元が緩む。
「当たり前でしょ」
その言葉に、胸が温かくなる。じんわりと熱が広がる。
***
理沙が女子テントに戻る。ファスナーを開ける音。ジジジ。中から話し声が漏れてくる。女子たちの声。
「おかえり、理沙ちゃん」
美月の声だ。明るい声。弾んでいる。
「どうだった?」
「別に、普通の見回りだよ」
理沙の声。少し素っ気ない。冷たい感じ。寝袋に潜り込む音。ガサガサと布が擦れる音。
「ねぇ、理沙ちゃんって悠斗君とずっと一緒だったんでしょ?」
美月の質問。ストレートだ。遠慮がない。
「どうなの?」
「そ、そんなんじゃないってば!」
理沙の声が裏返る。慌てている。動揺している。寝袋に顔を隠す音。もぞもぞと動く音。でも、本当は──胸がぎゅっと締まっている。苦しい。甘い苦しさ。胸の奥が熱い。確かに悠斗のことばかり見ている。無意識に目で追っている。一挙手一投足が気になる。視線が吸い寄せられる。
「今日、ずっと悠斗君のこと見てたよね?」
図星。心臓が跳ねる。ドクンと大きく。顔が熱くなる。頬が燃えるよう。耳まで熱い。血が上る。
「もう、寝るよ!」
寝返りを打つ。背中を向ける。でも眠れない。目を閉じても、悠斗の顔が浮かぶ。瞼の裏に焼き付いている。雷撃を放った時の凛々しい顔。真剣な表情。カレーを食べている時の無防備な顔。リラックスした表情。さっきの、言いかけて止めた時の困った顔。迷っている表情。
テントの外から男子の声が聞こえる。低い声の集まり。悠斗の声も混じっている。特徴的な低い声。10年分大人になった声。落ち着いた響き。
ため息をつく。小さく、そっと。フーッと息を吐く。明日は、もう少し自然に接したい。普通に話したい。でも、どうすればいいんだろう。どう振る舞えばいい。好きって言えばいいの?ストレートに。でも、怖い。拒絶が怖い。断られたら?友達のままがいいって言われたら?今の関係が壊れたら?
二つの月明かりがテントを照らす。優しい光。赤と青の光が混ざって、紫色になっている。幻想的な光。でも、胸のざわつきは消えない。モヤモヤする。落ち着かない。
目を閉じる。強く。瞼に力を入れる。でも、眠れない。意識が冴えている。アルカディアでの初めての夜が、ゆっくりと更けていく。時計の針が進む。カチカチと小さな音。明日は、どんな一日になるのだろう。新しい発見があるかもしれない。素晴らしい何かが見つかるかも。危険があるかもしれない。予想外の事態が起きるかも。でも、悠斗と一緒なら、きっと大丈夫。そう信じている。心から信じている。
やっと、うとうとし始めた頃、遠くで獣の遠吠えが聞こえた。長く、物悲しい声。寂しげな響き。でも、怖くない。不思議と安心している。悠斗がいるから。みんながいるから。一人じゃないから。
アルカディアの夜は、まだまだ長い。二つの月が静かに空を渡っていく。
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