第11話 暴走と決意

 ロゼナの泣き声が、冷たい村に響いた。

 その声を背に、メリアは術を解き、夢時に向かって突進した。しかし、ルーシスが間に割って入り、目にしたのは今までにない禍々しい力を宿す夢時の姿だった。夢時は涙を流し、微笑んで立っている――それは恐ろしい光景だった。


「力が、暴走しているのか……いや違う。これは……今までとは、違う」ルーシスは上空を見上げた。黒い雲が広がり、雷鳴が轟く。懐かしい感覚が走る。――ここは『魔界』だと、ルーシスは直感した。


 アーサーとニナは、夢時を見つめた。髪は長く伸び、頬には奇妙な模様が浮かぶ。首飾りにはひびが入り、容姿までも変わっていた。

 夢時は倒れたヨシュの横に立ち、剣に冥界王の力を吸収する。その瞬間、剣は赤黒く染まり、メリアに向かって放たれ、左肩をかすめた。


 メリアの目が見開かれると、後ろから髪を何本も縛った男の神人が彼女の側に現れた。「お前達、ここを離れるぞ」と告げ、神人たちは退いた。

「逃げたか!! フッハッハッハッ!」夢時は追いかけようとするが、ルーシスが制止する。「夢時、止めろ!!」


「私が封じる」デュランは剣を首飾りに向け術を詠唱し、ひびを消した。しかし夢時は暴走したままデュランに向かって行く。

 デュランは剣で受け止め振り払い、腹を殴る。夢時の意識は崩れ、子供の頃、死んだ玲那の姿が浮かぶ。


(――玲那……俺は玲那が好きだった……それなのに、二度も――)

 そのまま夢時は意識を失った。


 目を覚ますと、夢時は廃墟のような光景を目にした。ヨシュ、玲那、ラーナリアの亡骸が横たわる。手が震え、頭を押さえた。

「こうなってしまったのは、俺のせいだ……」


 ルーシスが横に来る。

「私は、ヨシュの息子であるスランに魔王の力を封じ、ヨーデとなったヨシュを消そうとしたが、結局殺せなかった。せめて夢時だけでも守ろうと、他の世界に飛ばした。しかし、私塾の子供達も守れず、村ごと失った……すべては私のせいだ」


 その時、力を封じられたスエントが立ち上がる。体はボロボロで血が流れる。


「私は実験体だったが、ルーセ達に救われた。全てを憎んでいたが、少しずつ憎しみは薄れた……しかしあの事件が起こるまでは……」

 スエントは悲しげに顔を歪める。


「ジュリスが帝国に殺され、ヨシュは暴走、メリアに封印され、皆がバラバラになった……何もできなかった」


「だが、頭の片隅には幸せだった日々が残っていた……あの頃に戻りたかった……ただそれだけだった」スエントは倒れ、ルーシスが抱き止める。「スエント!!」だが、息は止まっていた。


 空を見上げるニナとアーサーは青ざめる。「な、何だよ……」

「魔界だ」デュランも動揺しつつ告げ、ロゼナも続けた。「お母様の目覚めで封印が解けたの!?」「こんなの……ありかよ……」


 夢時もまた青ざめるが、体が少し楽になった。

「私達には都合が良いけど、人間にはかなりまずい事よね」髪を長くし右目を髪で隠した妖族の女が告げ、三つ編みの妖族が現れる。

「どうします、セルディオ様」

「放っておけばいい」長髪の妖族が答えると、前髪で顔を隠した女が言った。「ここには夢時様とルーセ様がいらっしゃる」


「ルーセ様、私達は夢時様を魔王と認め、力を貸します」セルディオの声に、夢時は驚いた。「力を貸す?」

「はい、神人と戦っていただき、私達はここを守ります」

 夢時は倒れ込み、目を覚ますとベッドの上だった。外は雪が降る。手のひらを見つめる。「……ヨーデが助けなければ、俺は死んでいた……」


「何を考えている、死にかけだというのに」

「……誰が死にかけだ……」夢時はデュランを見る。

「さっきの戦い、何故迷っていた?」

「フッ……さすがデュランだな」夢時は前を見据える。「あの時も、俺を守って死んだ……今回の事だって……」


「お前を愛していたからじゃないか」デュランの言葉に、夢時は息を呑む。「愛しているから、守ったのではないか」

「どうして分かるんだよ」

「救えなかった女がいた。帝国に殺された。私は妖人を作った……母のために」


 夢時は思い出す。人を憎み、孤独を抱え、「この世界ごと消えればいい」と思った日々。母が命をかけて守ってくれ、父も飛び込んで助けてくれたのに、自分は一人だと錯覚していた。


「それでも、戦わないつもりか? 現実から目を背けるのか」デュランの問いに、夢時は後悔を噛み締める。「……俺に出来るだろうか……」

「出来る。信じている」デュランは何も言わず去る。


 隣を見るとルーシスが立っていた。

「立ち聞きするつもりはなかったが、話したくて来た」

 ルーシスは夢時の頭を撫でる。

「デュランは優しい。誰かを助けるために医術を学んだ。さっきも夢時を想ってのことだ」


「私は生かされた。戦えないが、見守れる」

「すまないな……苦しめてばかりで」

「苦しかった……一人きりで……ただ普通に生きたかった……家族がいて友達がいて、それだけで良かった」


「私も同じだ……でも、戦いが終わったら、また出来る」ルーシスは夢時を抱きしめる。「夢時なら出来る。私の息子だから」

 夢時は涙を流し、こらえきれず泣き叫んだ。


 窓の外を見るロゼナとスラン。ロゼナは俯き、涙を拭う。「ずっと一緒にいたのに、もう別れるなんて……」

 スランは優しく笑った。

「俺はいつか自我を失う。失う前に夢時を助ける、それが最後の役目だ」

「死ぬことでも?」

「あぁ、それが俺の決めた事だ」ロゼナは黙って頷いた。


 夢時は手を血が滲むまで握り、決意を胸に刻むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る