第39話 先生との出会い

 「それでは、第一回部活動会議を始めます!」


 俺の右隣に座った世一よいちさんが声高らかに宣言する。

 ちなみに席順は、俺の目の前に花音かのんが座っており、花音の左隣に桜花おうかが座っているといった感じだ。

 現在進行形で、世一さんの開会の宣言を受けた俺たちの中で、桜花ただ一人が世一さんに拍手を送っている。

 隣に座っている花音はというと、ボーっとどこか一点を見つめていた。

 多分、というか完全に話聞いてないな、これ。


 「どうした、雅春まさはる君! 元気がないぞ‼」

 「いや、会議に元気とか必要ない気がするんですが……」

 「そんなことはないぞ! 元気は心の安定に繋がる。だから元気を出すんだ!」

 「ひさるん! ほら元気にうぇーいって!」

 「それ、ちゃんと合ってますか? その元気の出し方は違う気がするんですが」

 「それで、部活動の具体的な内容はこれから決めていく感じですか?」


 俺の話は無視ですか、そうですか。

 てか、その面倒くさくなったら話を流す真似やめろよ。

 ちゃんと応えてあげてる俺が馬鹿みたいじゃん。

 納得がいっていない俺を差し置いて、話は先へと進んでいく。


 「すまない。正直に言うと、活動内容については学校側とすでに打ち合わせ済みなんだ。だから、これから君たち三人に活動内容に基づいた部活動名を決めて欲しいんだ」

 「……分かりました。ちなみに、活動内容というのは?」


 俺を含めた三人は、誰一人にして世一さんに問いただすことはしなかった。

 ここで理由なんて求めるのは、愚か者のすることだ。

 それほどまでに、答えは明らかだったから。

 きっと、活動内容は一筋縄ではいかない内容で間違いないはず……。


 「活動内容は、『困っている人の相談を受け、必ず答えに辿り着くまで寄り添うボランティア活動』といったところかな」

 「なんとなく、そんな気はしていました。この結果が世一さんの答えなんですね」


 全てはこの結果に結びつけるための手段だったのである。

 カフェでの待ち合わせで花音たちが来たのも、もちろん話し合いが本題だろうけど、その他に部活動を始める上での協力者集めの意も兼ね備えていたわけだ。

 そして世一さんの期待に、花音たちは見事に応えた。

 ……いや、もしかしたら応えられるという計算の上での判断だったのかもしれない。

 いずれにせよ、全ては世一さんの計画通りに事は進んだというわけだ。

 これはもう、お見事としか言いようがない。

 世一さんの策略に一人感服していると、右隣にいる当人は首をかしげていた。


 「何を言っているんだい? これは俺の答えじゃないよ」

 「……え、どういうことですか?」

 「いや、これは雅春君と花音たちが願った答えであって、俺の答えじゃない。俺はただ散りばめられたピースを揃えただけだよ」

 

 そう口にした後、世一さんは俺たち三人に向けて言葉を綴る。

 

 「いいかい? 自分が良かれと思ってした行動一つが、必ず誰かの助けになるとは限らないんだ。面倒くさいけど、自分から誰かへ。その誰かから当事者へと遠回りをすることが助けになることだってある。今回に関して言えば、俺が出向くよりも花音たちが出向いた方が雅春君にも良いと思ったからね。そう決断できたのも、桜花さんのおかげだ。彼女からの提案をされていなかったら、きっとうまくいっていなかっただろう」


 急に褒められて照れくさくなったのか、桜花は黙って俯いてしまった。

 そうか、俺はずっと勘違いしていたんだ。

 今回の花音との件、働きかけをしてくれていたのは桜花だったんだ。

 そうとも知らずに、俺は今まで桜花になんて態度を……。

 これは、態度を改める必要があるな。


 「そ、その……ありがとうな。俺たちのために動いてくれて」

 「……へ? 何のこと? 私には全然分からないな~」

 「顔、真っ赤だけどな」

 「うっさい! うっさいうっさいうっさい‼ そんなことよりも話を進めよう!」

 「……あぁ、そうだな」


 それ以上の踏み込んだ話はしなかった。

 桜花がこれで終わりで良いというのなら、きっとこの話はここで終わらせるのが彼女にとっても、花音にとっても、俺にとっても一番良い選択なのだろう。

 でも、本音を言えば俺の中に疑問が残っていた。

 だって俺たちの関係はまだ浅いわけで、今回の問題の当事者は俺と花音の二人だ。

 第三者である桜花自身が介入するメリットはどこにもないのに、それでも彼女は介入してきた。

 その事実だけが、未だに理解できずにいた。

 

 「部活動の名前か……、桜花的に何か良い案あるか?」

 「早速丸投げ!? うーん、そうだな……。ひめのんは何かある?」

 「お前も丸投げじゃねぇか」


 むぅっと頬を膨らませて怒っている姿が全然怖くなくて、むしろ可愛かったり……っていかんいかん。

 桜花に対して態度を改めると決めたばかりなのに、これではダメだ!

 ちゃんと意識を働かせて、ちゃんと気を張って、ちゃんと言葉を選んで……。


 「んー? 相談部とかでいいんじゃない?」

 「いや、流石に雑すぎん?」

 「そんなことなくない? 相談を受ける部活なんだから相談部。普通じゃん?」

 「にしても、普通すぎない?」

 「じゃあ、人生相談部?」

 「いや、急にスケールでかくなったな!? もっとこう、なんかないかな?」

 「じゃあ二人で決めてよ! あれもダメこれもダメ。もう嫌!」


 あーあ、ヘソ曲げちゃった。

 でも、せっかくアイディアを出してくれたのに俺たちの応対も良くなかったな。

 人生相談部、か……。もっとマイルドな言い回しはないものか……。

 そんなことを考えていると、目の前にいる桜花が思い至ったように突然立ち上がった。

 

 「日常! 日常相談部はどうかな!」

 「日常相談部……。まあ、そんなところだな」

 「ひめのんはどうかな!?」

 「私は別に。だって、私の意見は却下されるもん……」

 「そんなことないよ! この名前だってひめのんの意見がなかったら思いつかなかったもん! だから、ありがとね」

 「うぅっ、桜花さぁん……」


 涙声になりながら、花音は桜花に抱きついた。

 桜花も桜花で、それを拒むことなく背に手を回して花音の頭を優しく撫でる。

 それを見て、俺は思った。

 俺は一体、何を見せられているのだろうか……と。

 なんか見ちゃいけないものだと勝手に判断して、思わず目を背けてしまう。


 「全く、花音は相変わらず甘えん坊だな。ほら、お兄ちゃんの元へおいで」

 「死んでも嫌だ。それより、用が終わったんならどっか行ってよ」

 「酷い!? このままだとお兄ちゃん泣いちゃうぞ?」


 世一さんの問いかけに対して、花音は一切の反応を見せなかった。

 すると世一さんは、俺の方に泣き崩れてくる。

 まあ、寸前のところで両手で押し返したけど。


 「酷い! 雅春君も俺を拒むというのか!」

 「拒むというよりか、多分これが普通の反応だと思いますよ?」

 「じゃあ、君は好きな人でも同じ態度で接するのかい?」

 「いや、それとこれとは話が別のような……」

 「マサくん、どうなんだい?」

 「ひさるん、どうなの?」

 「なんか、いつの間にか話に入ってきてるし……」

 

 てか、答えなんて一つしかなくね?

 でも、言葉になんできない。

 だって、三人から見つめられているこの状況が俺の羞恥心を煽るんだから。


 「……どうでしょうね。そもそも好きな人がいたことないんで分からないですが」

 「ふーん?」

 「へーえ?」

 「ほーう?」

 「てか、俺の話なんてどうでもいいでしょう!それより、もう終わったんなら俺帰りますよ?」

 「恥ずかしい気持ちは分かるが、まあ待ちたまえ。会議はまだ終わってないんだ」


 そう言って世一さんは、立ち上がろうとする俺の肩をガシッとホールドする。

 恥ずかしい気持ちにさせてくれやがったのは、どこの誰ですかね。

 というか、部活の名前決めるだけで終わりじゃなかったんだ……。


 「多分そろそろ……」


 世一さんがそう口にしたタイミングで、生徒指導室の扉が勢いよく開かれる。

 そしてカツカツと足音を立てながら歩み寄ってきたのは、一人の若い女性教師だった。

 長いストレートの綺麗な黒髪は、まるで御伽話のかぐや姫を彷彿とさせる。

 まさかに、和の雰囲気をその身で体現した女性だった。


 「先生、お待ちしてました。部活の名前も決まって、ちょうど先生の紹介をしようとしていたところです」

 「そうなのね。なら、ちょうど良かった」


 すると女性教師は、俺たち三人の顔を見渡した後に言葉を綴った。


 「初めまして。今日からこの部活を顧問することになった霜下文しもした ふみです。これからよろしくね」

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