第38話 大丈夫だ、ちゃんと分かってるぜ!
迎えた放課後。
俺と
当然ながら、生活指導室へと向かう三人の歩調はそれぞれ違っており、桜花は今にもスキップを始めてしまいそうな軽い足取り、対照的に花音は今にも地面に足がくっついてしまいそうな重い足取り、一方俺は花音の歩幅に合わせているだけの普通の足取りといった具合だ。
正直なところ、花音の気持ちはよく分かる。
部活を新しく始めるということは、活動内容を決めないといけない。
それを考えるだけでも面倒くさいのに、部活を始めれば必然的に活動実績も残さないといけなくなる。
活動実績を残すと聞けば、少なからず面倒くさいと思ってしまうのが人の
その根拠を示すのは、花音のあの時の部活動は面倒くさい発言。
だから、俺の考えは間違えていないはずなんだ。
面倒くさいことが待っているのを分かっている上で面倒くさいことを率先して行おうとする行為こそが間違えているのだ。
そのはずなのに、目の前のルンルン気分の彼女を見ていると、自身の考えがブレそうになる。
自分の考えこそが人の本来あるべき姿なのか。それとも彼女の姿こそが人の本来あるべき姿なのか。
……いや、そもそも答えを求めること自体間違えているのかもしれない。
どちらも間違っていて、どちらも正しい。
俺が人間不信のように、花音が人見知りのように、人にはそれぞれの本性があるのだから、当人たちが思い抱く気持ちこそがきっと正しいのだ。
なら、俺の思い抱く気持ちは——————
「ひめのん! ひさるん! 早く早く遅刻だよ‼︎」
そう言って、生活指導室の前でぴょんぴょんと跳ねる桜花。
それなのに、俺はまだ桜花の本性を知らずにいた。
部活動を始めれば、必然的に桜花との時間も長くなる。
となれば、桜花の本性を暴く何かしらの手がかりが見つかるかもしれない。
でも、それを
暴いたところで、何かが変わるのだろうか?
暴いたところで、何かメリットがあるのだろうか?
もし暴いたとして、俺は……何がしたいのだろうか?
つい、あの時は売り言葉に買い言葉で答えてしまったけど、冷静になった今では自分の行いに納得できていなかった。
だから俺は、普通という中途半端な気持ちで生活指導室へと向かっていた。
「放課後集合としか言われてないし、遅刻とかないだろ」
「アタシが遅刻してると思ってるから遅刻なの!」
「アタシ最強かよ。念のため言っておくが、世界はアタシ中心に回ってないからな?」
「念のため言われなくても分かってますよーだ」
あっかんべーしてから、桜花は先に生活指導室へと入って行った。
否定された……はずなのに、その仕草に可愛いと思ってしまった自分が本当に情けなさすぎる。
まあ、そもそも人の性格は一朝一夕で変えられるものではないわけで……。
「……」
「んだよ、ジッとこっち見つめて。照れるだろ」
「照れてるようには全く見えないけど?」
「俺が照れるって言ってるんだから照れてるんだよ」
「……それ、さっきの桜花さんの真似? もしそうならやめた方がいいよ。あれは可愛い子が言うから許されるのであって、マサくんは許されないから」
「真似たつもりはないんだが……。にしても、シンプルにひでぇ言われようだな」
「客観的事実を言ったまでだから。私以外の人に言ってたら、多分今頃滅多刺しにされてたと思う。私じゃなかったらシンプルにイラッとすると思うから」
「……お前、客観的事実って言葉覚えたんだな。ちょっと感心したわ」
「はい? 覚えるも何も最初から知ってますけど? なに、もしかして馬鹿にしてる?」
そう言って花音がキッと睨みつけてくるんだが、これ俺が悪いのか?
だって、最初に出会った頃は客観的事実って言葉を聞いて頭に疑問符浮かべてたじゃん。
まあ、あれも一種のキャラ作りだったってことか……なら、尚更俺悪くなくね?
だって、あの時キャラ作ってたなんて知らんし。
でも、今余計なこと言ったら襲われそうなので黙っておこう。
「いや、そんな気はねぇよ。それより、早く行ってさっさと終わらせて帰ろうぜ」
そう言って扉に手をかけると、唐突に花音が袖口を掴んできた。
「急にどうした?」
「……ねぇ、やっぱりこのまま帰っちゃわない?」
「……お前、自分で何を言ってるのか分かってる? 先に入ってった桜花はどうなるんだよ」
「桜花さんには本当に申し訳ないけど……ね?」
「いや、そこで「そうだな」とは流石の俺でもならんわ。お前に人の心はないんか」
「ムッ。マサくんだけには、人の心を語られたくないんだけど!」
「はい、ごめんなさい。ごめんなさいね。そうですね、はい。とりあえず、手を離してもらえませんかね? 話はそれからでも……」
花音は仏頂面を保ったまま、ゆっくりとその手を引いた。
拳が飛んでこなくて本当に良かったわ、マジで。
今の花音には、そんな危うさがあった。
「んで、なんでそんなに嫌なんだよ。確かに面倒だけど、別にそこまで嫌がることないだろ?」
「……んの……い……ん」
「え? なんて?」
「マ、マサくんのせいじゃん!」
「いや、なんで!?」
「なんで分からないの!」
それはね、私が人の心が読めるエスパーではないからです。
てか、全く意味が分からない。
今日の花音、情緒不安定すぎん?
もしかして……と、一つの可能性が脳裏を過ったが、女子相手に面と向かって言える度胸があるはずもなく……。
「本当、急にどうしたんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言ってくれないと、俺じゃなくても多分伝わらないぞ?」
「そ、それは……その……。だから……!」
そう言う花音の頬は、
しかも、モジモジし始めた。
この雰囲気といい、花音の態度といい、流石の俺でも察しがつく。
こいつ、もしかして——————緊張してるのか?
部活動を立ち上げれば、必然的に人と関わることが多くなる。
その事実は、人見知りの花音にとっては堪え難い苦痛になるだろう。
だから花音はあの時、部活動を立ち上げることに反対したのだ。
そして、その諸悪の根源のきっかけを作ったのは、この俺自身。
……なるほどな、全ての謎が繋がった。
もしかしたら俺は、探偵になれるかもしれない。
謎が解けたのなら、あとは対処するだけだ。
俺は右手の親指を立てながら、花音の言葉の後に続いて口を開いた。
「……大丈夫だ、ちゃんと分かってるぜ!」
「……本当?」
「あぁ。てか、お前が想像してる最悪な事態にはならないと思うぞ? 多分な」
「……」
すると花音は、ニコッと優しい笑みを浮かべると、俺の足を思いっきり踏みつけてから生活指導室へと入って行った。
一瞬の出来事だったから、目の前で何が起こったのか全く理解できなかった。
でも確かな痛みが、俺の脳を徐々に正常な状態へと引き戻す。
「…………痛ってぇ。大丈夫だっつってんのに思いっきり踏みつけやがって……」
今すぐにでも
痛みに堪えながら、俺も二人の後に続いて生活指導室へと入って行った。
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