番外編:眠れない夜にキスをひとつ
静かな夜。窓の外では、時おり風の音が聞こえるだけ。
リビングの明かりは落とされ、ほんのり灯る間接照明の下――
拓也はソファで書類をまとめながら、欠伸をひとつ。
仕事熱心なのはいいけど、時間を忘れるのが欠点だ。
「……まだやってるの?」
その声に振り向くと、怜が眠そうな目をこすりながら、パジャマ姿で立っていた。
肩まで伸びた髪はふわりと寝癖がつき、素顔はどこまでも無防備。
「もうちょっとで終わる。先寝てても――」
「やだ。拓也がいないと、寝つけない……」
拓也の隣にすとんと座ると、怜は遠慮なく身体を寄せてくる。
肩に頭を乗せて、耳元で囁くように言った。
「がんばってる拓也、えらい。でも……そろそろ俺のこともかまって?」
「……甘えすぎじゃないか?」
「いいでしょ?“恋人”なんだから」
その言葉と同時に、頬にそっとキス。
不意を突かれて、拓也のペンが止まった。
「もしかして、拗ねてる?」
「拗ねてない。……ちょっとだけ寂しかっただけ」
顔を背ける怜に、拓也はくすりと笑い、肩を抱き寄せた。
「あとでベッドで思いっきり甘えさせてやるから、ちょっとだけ待っててくれ」
「ほんと?」
「ほんと。怜の寝る前のぎゅータイム、忘れるわけないだろ」
それを聞いた怜は、小さく微笑んで、満足げに目を閉じた。
「拓也ってさ……俺にだけ、すごく甘いよね」
「俺も怜にだけだよ。甘くしてるの、特別だから」
ふたりの声は、夜の静けさに溶けていく。
そしてその夜、仕事を終えた拓也がベッドに入ると、怜はすぐに腕の中にもぐりこんできた。
「……おやすみ、拓也」
「おやすみ、怜。大好きだよ」
そんな言葉で終われる一日が、どれほど幸せか――
ふたりはよく知っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます