番外編:甘々同棲生活編『君と過ごす朝の味』

朝の光が、カーテンの隙間からゆっくり差し込んでくる。

時計の針は、午前7時ちょうど。

キッチンからは、コーヒーとバターの香りがふんわりと漂っていた。


「怜、そろそろ起きないと、朝ごはん冷めるぞ」


エプロン姿の拓也が、寝室のドアをそっと開ける。

大きめのベッドの中央で、掛け布団にくるまりながら不機嫌そうに顔を出したのは、

――怜。目元は眠たげで、髪は少し跳ねている。


「……拓也、寒い。もっと布団入って……」


「いや、なんで俺がそっち行く流れになるんだよ。こっち朝ごはん作ってたのに」


「知ってる。だから、がんばった拓也にごほうび……“俺”」


ぼそっと言って、拓也の腕をつかんで引き寄せる。

もつれた布団の中で、怜が拓也の胸元に顔を埋めた。


「……なんでそんなに朝は甘えたなんだよ」


「朝だけじゃないけど?」


「はいはい、わかったわかった。コーヒー冷める前に飲んでくれよ」


無理やり体を起こさせようとする拓也の手を、怜は離さない。

そして、あどけない声でぽつり。


「拓也がいないと、目覚め悪いの。……なんか、落ち着かない」


そんな言葉を聞いたら、放っておけるはずもない。

拓也は小さくため息をついて、ふたり分の温もりがこもった布団に身を滑り込ませた。


「じゃあ、5分だけな」


「ほんと?やった……拓也あったかい……」


にやけた怜が背中にぴったりくっついてきて、拓也の腰に腕をまわす。

密着する体温。くすぐったい息。

こんな毎日が続いてるなんて、少し前の自分たちには想像もできなかった。


「……怜、次は夜ごはんも一緒に作ろうな。今度はハンバーグ」


「それって、カップルのやつじゃん」


「うち、カップルだろ?」


「……うん。そうだった」


ふたりだけの秘密の時間。

朝の空気は、今日も甘く満たされていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る