第5話 下がらない米価格と負のスパイラル

 大規模農家の登場が進まない理由、それは“金づる”と“票田”。


 中でも、特に問題なのが米農家の大規模化が特に進んでいません。


 かつて日本には食糧管理法があり、あるいは米価審議会なるものが存在し、米の価格については調整が行われてきました。


 しかし、1993年の大凶作が転換点となり、法律改正や米価審議会の廃止、そして、米の輸入解禁へと踏み切って来ました。


 そのため、米農家の重要性が低下し、それ以前ほどの農林族議員の影響力が削がれていった時期でもあります。


 結果、米農家への助成金が次々と削られていき、離農する方が増えていきました。


 特に問題なのが、“兼業の米農家”が非常に多いという事です。


 それこそ、1ha程度の水田をやっている程度の極小農家。


 専業の米農家なら、30㏊は最低でも欲しいくらいです。


 それほどの規模でも“儲からない”のが、米農家の実態です。


 ちなみに、自分の白ねぎ畑は2haにも満たないですが、“黒字”ですよ。


 それほどまでに“米”と言うものは儲からないのです。


 先祖代々の土地なのでやめるわけにもいかないと、精神論的な事をやっている農家も多く、年老いて管理が行き届かなくなり、後継もなく、水田が荒れるケースが多く見られます。


 また、米余りを防ぐための“減反政策”も悪影響が出ています。


 米の価格調整を行うために、需要と供給を一致させる必要があります。


 実のところ、もし全力で米作りをやれば、まだまだ増産できる余地はあるのですが、それをやると米の価格が暴落し、逆に米農家が苦境に立たされるという一面も存在します。


 そのための価格調整のための“減反政策”なのですが、今回の米騒動はそれの悪い面が出てしまいました。


 高温障害による米の不作、インバウンド需要による予定を上回る米の消費、地震や台風のための家庭内備蓄による需要の先食い。


 これらの要因が重なった事が原因にあげられる。


 問題はそれらの要因が重なったとは言え、需要と供給のバランスが僅かに崩れただけでここまで影響が出るほど、“減反政策”で生産量を絞った事だ。


 それもこれも“米価格の維持”のためではあるが、ここに更なる問題が姿を見せる。


 それは“誰のための米価格の維持か?”という事だ。


 他でもない、“JAそのもの”が米の高値化を目指している。


 今回の米価格高騰は、JAにとっては空前絶後の大チャンスというわけだ。


 米の値段が半分になったからといって、米を倍食べようという人はいないだろう。


 しかし、米の値段が高くても低くても消費量はそれほど変わらない。


 それが“主食”の地位にある食料品の特性だ。


 消費量が大きく動かないので、生産量が増え、それを市場で売り捌こうとすると、価格を大幅に下げなければならない。


 いわゆる“豊作貧乏”と呼ばれる現象だ。


 逆に、天候不良などで不作になると、“主食”である以上、一定量は食べなければならないので、価格は高騰する。


 需要と供給のバランスが崩れると、値段が高騰、あるいは暴落するのは経済の基本である。


 そのため、生産量が落ちる不作になると、値上げにより売上高は増加する。


 食料需要の特色から、供給がわずかに増えたり減ったりするだけで、価格は大きく変動するのはそのためだ。


 今回の米騒動も、そうしたバランスを欠いた結果の高騰である。


 ここでアメリカやEUのように、財政出動による“直接支払い”が行われていたのであれば、こうはならなかっただろう。


 欧米では、穀物の高値買い取りよって価格調整や農業保護をするのではなく、財政からの直接支払いを行っている。


 だが、ここに欧米にはなくて、日本だけ存在するものが邪魔をする。


 他でもない、“JA”だ。


 JAは中間業者であり、物を右から左へ動かして儲ける様になっている。


 手数料収入が主であり、米の価格が上がるほど、その手数料も割合的に増える。


 しかし、“財政からの直接支払い”になると、価格は抑えられ、JAの手数料収入は大きく失われる事となる。


 欧米にも農家の代弁者的な政治団体が存在し、政府にあれやこれやと圧力をかけて農家の権益や権利を守ろうとする。


 しかし、それらの政治団体とJAとの決定的な差は、JAそれ自体が“金融業”を有する巨大組織だという事だ。


 各組合ごとの独自採算制であるが、JA全体での預金総額は100兆円超!


 メガバンクに匹敵する巨大金融機関でもあるのだ。


 そんな巨大金融機関を有する団体が、“政治力”を発揮するとどうなるのか?


 “農業協同組合”の看板に反して、組合員(農家)の利益よりも、JAそのものの利益を優先して考えるようになってしまう。


 JAからすれば、米の高値の方が儲かるので、高値維持が望ましい。


 米農家も高値維持が望ましい。


 と言うか、今年くらいの高値になって、始めて米農家が“黒字”になるレベルです。


 今までの経営は赤字が当然で、補助金やらでどうにか維持って話。


 これらを“金づる”と“票田”にしている農林族議員は、省庁に圧力をかけまくり、高値を維持していく事でしょう。


 結論から言うと、米の高値は維持される!


 もう安い米は“輸入米”だけになります!


 それすら怪しい。


 なにしろ、米を輸入して絶対量が増えれば、国産米の値段にも影響が出ますからね。


 そのための高関税による障壁です。


 少し前にトランプ大統領が、「日本が米に700%の関税をかけている!」なんて叫んでいたのを覚えている方もいるかと思います。


 実はこれ、ある意味では“正解”なんですよ。


 というのも、日本の米の関税は『従量税方式』が採用されているからです。


 多分、皆さんが考えている関税と言うと、『従価税方式』というもので、こちらは物の値段に何%の税をかけるという方式。


 一方の『従量税方式』は重さに対して一律の税率が加算される方式で、1㎏あたり何円の税を課す、という方式なのです。


 そして、トランプ大統領の用いた計算式。


 341 ÷ 44 × 100 = 約778%


 これは日本の『米に関する従量税率』が1㎏あたり341円の税金がかかるというもの。


 そして、44円というのは、1㎏あたりの国際米価格というわけです。


 この計算ですと、たしかに700%超えるんですよ。


 でも、ここは数字のトリック。


 実はこの“44円”と言うのは、20年前の価格なんですよね。


 なので、この点は農水省が即座に訂正。


 その訂正した数字が以下のもの。


 341 ÷ 122 × 100 = 約280%


 国際米価格の変動で、こうも関税率が違ってくるわけです。


 なお、実際にこれは農水省による“国内向けのパフォーマンス”。



農水省

「農家の皆さん! 我々はこれくらいの関税障壁を設けて、米の輸入を阻止しています! 米の値段は維持されますので、買い取り価格はそのまま高値維持します!」



 とまあ、農家を安心させるための宣伝用の数字です。


 700%という常軌を逸した数字を見せて、国内の農家を安心させつつ、WTOなどの国際機関に対しては280%という数字を見せるという使い分け。


 こういう姑息な手を使って誤魔化そうとするんですよね、農水省は。


 まあ、どのみち、280%でも、かなりの高関税になりますけどね。


 そもそも計算方式が違う『従量税方式』と『従価税方式』を並べてみせるという時点で、インチキもいいところです。


 なお、カリフォルニア米などには“無関税枠”が設けられ、一定量は関税無しで輸入されているわけですが、それは“食糧支援名目”ですぐに海外に出されたりして、市場にはあまり出回っていません。


 結局、米の高値を維持するシステムが動いている限り、とんでもない大豊作でもない限りは、値下がりしないという事です。


 そして、大豊作にならないように“減反政策”も維持されているわけですから、もうどうにもなりません。


 お米は高い! 国産米は食べれない!


 割り切るしかないんですよね、悲しい事に。

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