昼ドラマ、ようこそ!家族株式会社へ

志乃原七海

第1話~さよならキャリア、ようこそ泥沼~



昼ドラ:「家族株式会社」第1話~さよならキャリア、ようこそ泥沼~


【オープニング】


(♪ 演歌調のサスペンスドラマに合う、物悲しいメロディが、心の奥底をざわつかせるように響き渡る。眼下に広がる高層ビルの群れは、冷たく輝き、まるで美咲の過去の栄光を嘲笑うかのようだ。そして、画面は一転、年季の入った看板を掲げる老舗和菓子屋「高橋堂」へ。埃っぽい空気と、染み付いた甘い香りが、これから始まる物語の舞台を暗示する。)


【シーン1:夜のレストラン】


(煌びやかな照明が、美咲と孝太郎の笑顔を照らし出す。美咲は、隙のないキャリアウーマンの顔。しかし、孝太郎に向ける視線には、都会の喧騒に疲れた女性の、安らぎを求める切実な想いが込められている。孝太郎は、その視線を受け止め、優しく微笑み返す。)


美咲(ナレーション):あの頃の私は、ガラスの靴を履いたシンデレラだった。けれど、その靴が、奈落の底へと続く階段へと変わるなんて、夢にも思わなかった…。


孝太郎:美咲さん、昇進おめでとう。女性最速だなんて、本当にすごい。僕の自慢の恋人です。


美咲:ありがとう、孝太郎さん。でも、ここまで来られたのは、孝太郎さんの支えがあったからこそよ。仕事で疲れて帰っても、孝太郎さんの笑顔を見ると、また明日も頑張ろうって思えたの。


孝太郎:僕には、美咲さんを笑顔にするくらいしかできないから。


美咲:(照れ笑い) そんなことないわ。孝太郎さんの作る和菓子は、私の心の栄養剤なの。特に、この「花見団子」。口に入れると、春の優しい香りが広がり、心がほどけていくの。


孝太郎:ありがとうございます。先祖代々受け継がれてきた味なんです。いつか、美咲さんにも高橋堂の味を伝えていきたいな。そして…一緒に、この味を守っていけたら…。


(孝太郎は、少し赤くなった頬を隠すように、美咲の手をそっと握る。その温もりが、美咲の心の隙間を埋めていく。しかし、その瞬間、美咲の脳裏には、高橋堂の古めかしい建物が、一瞬だけよぎった。)


美咲(ナレーション):孝太郎さんの笑顔は、甘い蜜のようだった。私は、その蜜に誘われるように、彼の優しさに溺れていった。高橋堂の和菓子のように、素朴で温かい人柄に、私は未来を重ねていた…。


【シーン2:美咲のオフィス】


(無機質なオフィスで、美咲は鬼気迫る表情でパソコンに向かっている。キーボードを叩く音だけが、室内に響き渡る。電話のベルが、けたたましく鳴り響き、美咲は苛立ちを隠せない。)


美咲:はい、〇〇株式会社、美咲です。……はい、承知いたしました。至急対応いたします。……(電話を切る)クソッ!


(深呼吸をして、感情を押し殺し、再び仕事に取り掛かる。しかし、その目は、明らかに疲弊している。周りの社員たちは、美咲の背中を見つめ、尊敬と畏怖が入り混じった感情を抱いている。)


同僚A:さすが美咲さん。鬼のような形相で、どんな難題も片付けてしまう。


同僚B:本当に、憧れるわ。私も、いつか美咲さんみたいに、キャリアを積んで、成功したい。


美咲(ナレーション):私は、血の滲むような努力で、今の地位を築き上げた。女性だから、と見下されないように、誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残業した。仕事は私の生きがいだった。自分の力を試すことこそが、私の存在意義だった…。


【シーン3:高橋堂】


(夕暮れ時、美咲は、孝太郎に連れられ、高橋堂を訪れる。古びた木造建築は、ひっそりと佇み、どこか人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。美咲は、都会の喧騒とは全く異なる空間に、戸惑いを隠せない。)


孝太郎:ここが、僕の実家だよ。古いけど、落ち着くでしょう?


美咲:ええ、歴史を感じますね…。(少し躊躇しながら)でも、なんだか、少し緊張します……。


(引き戸を開けると、奥からガチャガチャと騒がしい音が聞こえてくる。薄暗い店内では、多くの人が忙しそうに働いている。幸子と源太郎が、笑顔で二人を出迎える。しかし、その笑顔の裏には、複雑な感情が渦巻いている。)


幸子:いらっしゃい、美咲さん。いつも孝太郎がお世話になっているわね。どうぞ、ゆっくりしていって。


美咲:こちらこそ、いつもありがとうございます。


源太郎:美咲さん、孝太郎の自慢の恋人だって聞いているよ。いつでも気軽に遊びに来てください。うちは、いつでも大歓迎だから。


(幸子と源太郎は、美咲に笑顔で接する。しかし、幸子の目は、獲物を定める蛇のように、冷たく、そして鋭い。)


【シーン4:夜の公園】


(人気のない公園で、美咲と孝太郎は、ブランコに並んで座っている。街灯の光が、二人の影を長く伸ばし、物悲しい雰囲気を漂わせている。)


孝太郎:美咲さん、実は、君にどうしてもお願いしたいことがあるんだ。


美咲:なあに? そんなに深刻な顔をして。


孝太郎:実は、母さんが倒れてしまって……。高橋堂の経理の仕事、少しの間だけでも、手伝ってもらえないかな? 本当に困っているんだ。


美咲:(驚いた顔で)えっ、私が? でも、私、和菓子のことなんて、全くわからないし……。それに、経理の経験なんて…


孝太郎:大丈夫だよ。簡単な事務作業だから。それに、美咲さんなら、すぐに慣れると思う。それに、母さんも、美咲さんのことを頼りにしているんだ。


美咲:でも……今の仕事を辞めることになるかもしれないわ。それだけは…


孝太郎:そんなことないよ。あくまで、少しの間だけだから。それに、僕と一緒に高橋堂で働くのも、悪くないと思うけどな。毎日、美咲さんの顔を見ながら仕事ができるなんて、僕は嬉しいな。


(孝太郎は、美咲の目を見つめて、真剣な表情で訴える。その瞳には、切実な想いが込められている。美咲は、葛藤しながらも、孝太郎への愛情に心を動かされる。)


美咲:わかったわ。孝太郎さんのためなら、私、頑張ってみる。でも、期待しないでね。


(孝太郎は、嬉しそうに美咲を抱きしめる。その腕の中で、美咲は、一抹の不安を覚えながらも、孝太郎の温もりに身を委ねる。)


美咲(ナレーション):キャリアを捨てることになるかもしれない。築き上げてきたものを、全て手放すことになるかもしれない。でも、孝太郎さんのためなら、私は何でもできると思った。愛は盲目とはよく言うけれど、まさか、それが泥沼への入り口だとは、その時の私は、知る由もなかった……。


【ラストシーン】


(夜明け前、美咲は、高橋堂の前に立ち、深呼吸をする。その表情は、決意に満ちている。しかし、その背後には、幸子と花子の影が、静かに忍び寄っていた……。幸子は、美咲を見つめ、薄ら笑いを浮かべる。)


幸子(心の声):ようこそ、高橋堂へ、美咲さん。孝太郎の代わりに、あなたの人生を、私がめちゃくちゃにしてあげるわ。


【第一話 完】


(♪ エンディングテーマが、不気味なオルゴールの音色で流れ始める。次回の予告が、緊張感を煽るように流れる。)


【次回の予告】


「嫁ぎ先は一族経営の地獄!? 伝統という名の鎖!」「義母の嫉妬と姑の陰謀! 嫁いびりの嵐!」「私が平社員以下!? 役職だらけの異常な会社! 愛は、憎しみに変わるのか!?」


【提供】(スポンサー"you.suzuki")


(終)


いかがでしたでしょうか? より昼ドラらしい、ドロドロとした人間関係と、先の読めない展開を予感させるような雰囲気を、意識して描写を深めてみました。

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