第24話 「夢とローン」
書斎の窓の外では、夜の街が静かに灯りをともしていた。
中西は、机の上のノートパソコンを閉じ、ふうと息を吐いた。カーテン越しに微かに聞こえる車の音と、遠くで鳴く猫の声が、静けさの中に響いていた。
ユースがホログラムをそっと点滅させ、声をかけた。
「中西様。教育支援プログラムに参加希望の連絡です。お相手は、元教え子の浅野遥斗さん(24)、現在SEとして勤務中です」
中西は眉を上げ、椅子に深く腰を下ろした。
「遥斗か。繋いでくれ」
ホログラムが淡い光をまとい、画面にはオフィスの休憩室らしき空間が映った。疲れた表情の遥斗が、紙コップを片手に俯いていた。
「先生、ユースさん……こんばんは。突然すみません」
中西は心配そうに声をかけた。
「遥斗、大丈夫か?顔色が良くないぞ」
遥斗は苦笑し、少しだけ肩をすくめた。
「……実は、最近ちょっと悩んでて。今の仕事、システム開発は面白いし、やりがいも感じてるんです。でも、奨学金の返済があって、残業や休日出勤も断れなくて……」
ユースが淡い光を放ち、静かにデータを解析する。
「心拍数やや上昇、ストレス反応検出。返済負担および仕事量過多による疲労傾向」
遥斗はため息をつき、紙コップを机に置いた。
「この間、同期が辞めたんです。夢を追ってフリーランスになったって……でも僕は怖くて。ローンを抱えてるから、辞めたら生活できない。
それでも、今の仕事がずっと続けられるのかって言われると、不安で……」
中西は静かに頷き、穏やかな声で語った。
「遥斗……夢を追いかけるのも、現実を生き抜くのも、どちらも大切だ。誰かが決めるものじゃなく、自分で選ぶ道だ。
でもな……お金のことも、未来のことも、体のことも全部考えなきゃいけないのは本当に大変だよな」
遥斗は、少し涙ぐみながら笑った。
「……先生、ユースさん、ありがとうございます。僕、夢を諦めたわけじゃないんです。ただ、夢だけじゃ生活できないから……でも、夢を完全に忘れたら、もっと辛くなる気がして」
ユースが記録を保存した。
ログNo.024:「責任は青春を終わらせるのか?夢と現実の狭間で」
中西はペンを取り、ノートに一行を書きつけた。
「夢と現実の間で迷う時間こそ、心を鍛える場」
ユースが静かに問いを投げる。
「中西様、あなたも夢と現実の間で迷ったことはありますか?」
中西は遠い目をして、少し笑いながら答えた。
「ああ……あの頃、夢ばかりを追って現実を見失いそうになったこともあった。逆に、現実ばかりに縛られて夢を見失いそうになったこともあった……。でも、どちらも間違いじゃない。迷いながら、少しずつ自分を作っていくんだ」
遥斗は、少し涙を拭いながら微笑んだ。
「先生……なんだか、もう少しだけ頑張れそうです。夢を忘れず、でも現実も大事にして、バランスを取りながら……」
中西は、力強く頷いた。
「そうだ。それでいい。無理せず、でも夢を諦めず、自分らしく生きるんだ」
窓の外、夜風が桜の花びらを優しく揺らし、街灯の下でゆらゆらと舞った。
中西とユース、そして遥斗の声が、静かに夜の空気に溶けていった。
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