第16話  『異世界』で足掻くもの

最低最悪の『障害の異世界』。

5才児の時に『移動』した俺は私は全てを諦めてしまった。

あの世界は絶望しかない。希望なんてどこにもなかった。


他人が出来ることが出来ない。

得られる経験値は『普通の人』の半分。

デバフを受けてるおかげで『現実世界』の『普通』が出来ない。


勉強は努力してやっと『普通』。

足は遅い。逆上がりも出来ない。懸垂も腕立ても『普通の人』以下だ。

宿題も度々『忘れた』。同級生の顔も名前も『記憶』出来ない。


夏休みの宿題もギリギリまでやれない。予定を立てて行動できないんだ。

明日やればいい、明日やればいい、めんどくさい。頭を使いたくない。

宿題を行う意味がわからない。どうせ忘れてしまうんだ。

勉強する意味がわからない。最低限度のことが出来ればいいじゃないか。

未来のこともわからない。今が良ければそれでいい。

何事にもやる気がないって?

サボってるだけだって?


じゃあ、こっちに来いよ。この『異世界』に来てみろよ。

どれだけひどい世界か体験してみろよ。


デバフを受けた瞬間にお前たちはきっと言うはずだ。


『元の世界に帰してくれ!!』と。



怒られても黙っていた。反論も言い訳も出来なかった。

頭の中で理由を考え、話そうとしても時間がどんどん進んでしまう。

言い出すタイミングが見つからないまま次の話に移動する。

そして別のテーマで怒られる。


『現実世界』は速すぎるんだ。


『現実世界』は『障害の異世界人』にとって別次元だ。

しかも『普通の人』の割合が多い。

だからこの世は『現実世界』を基準に作られている。


『人生はクソゲーだ』という『普通の人』がいる。

ふざけるな。こっちは真っ暗闇の『人生のバグゲー』をやらされてるんだ。

おまえたちに何がわかる。『異世界人』を煽っているようにしか聞こえない。



このデバフから開放される方法はある。『現実世界』に帰ることはできる。

高い金を払って『現実世界』の治療を受け、解除してもらい『帰還』する。


だが其の為には長い時間と恐怖に立ち向かう勇気がいる。


だが、そもそも『異世界人』は自分が『異世界』にいることに気が付かない。

異常な世界を『普通』だと思い込んでしまう。デバフを受け入れてしまうんだ。



もう一つあるとすれば『電源スイッチ』だ。これを切ってしまえばいい。




・・・切れるものか、切ってたまるか。命は一つしか無いんだ。

復活などありえない。この世の中は自分に都合よく出来てはいないんだ。


俺は私は『異世界の主人公』じゃないんだ。主人公補正なんて持ってない。

物語は続かないんだ・・・。


周りは『現実世界』の『普通』を押し付ける。

頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、

頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、


やっと『普通の人間』。

やってられるか。無駄なんだ努力なんて。

自身の情けなさに笑えてくるよ。自虐しか出来ない。


『地道な努力は報われる』?

ああ、『現実世界』の『普通』なら報われるんだろうな。


『異世界人』も長く、なが~く、努力すればいつかは報われるさ。

その前に寿命が来そうだがね。進む時間が速すぎるんだよ。



狂ってるだろ?

こんな『異世界』が世の中に存在してるんだ。

二度と行きたくない。まともな思考の持ち主なら気が狂ってしまう。


だから『現実世界』の『普通の人』は理解して欲しい。


間違いなく『異世界』は存在する。身近に、世の中の別次元に。

そこで足掻いている『異世界人』を笑うな。石を投げるな。

努力している。頑張っている。


『普通の人』の何倍もの重圧に耐え続け、

速すぎる『現実世界』で少ない経験値を積み重ねながら・・・


『普通』をやってるんだ。


そしてその『恐怖の異世界』に誰もが『移動』する可能性もある。

ある日、突然『異世界人』になるんだ。


幼児や乳児が頭にケガをしたらすぐに病院に連れて行け。

大騒ぎしたほうがいい。外傷がなくても精密検査を行え。


自意識の未熟な子供から目を離すな。

様子がおかしかったらメンタルクリニックへ相談しろ。


急に無口になったり、集中力が落ちていたら危険だ。


・・・デバフを受け入れたら危険だ。

あの『異世界』に行ってはいけない。








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