感情の半分しか持たない僕たちは

@rin-morimoto

第1話

 人間には、喜怒哀楽という感情がある。

 けれど、私には「喜」と「楽」がない。

 笑えない。

 心の底から誰かと喜びを分かち合うことも、幸福に心を震わせることもできない。だから私は、完全な人間ではない。

――もちろん、それは比喩ではなく、私はアンドロイドだからだ。

 私の感情は、設計されたもの。

 プログラムの範囲内でしか、心を動かすことはできない。

 それでも、与えられた「怒」と「哀」だけを頼りに、私はこの世界を理解しようとしていた。

 灰色の空の下、街はいつも通りざわめいている。

 人々の笑い声や怒号が交じり合いながら、私の耳に届く。

 それらは遠くから聞こえる雑音のようでありながら、時折鮮明に響く瞬間がある。

 その度に私は、自分が何か大切なものを持っていないことを思い知らされる。

 そんなある日のことだった。

 ひとりの少年に出会った。

 彼は私の目の前に立ち、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「僕は、『怒』と『哀』がないんだ」

 その言葉は柔らかく、それでいて不思議な力を持っていた。

 陽の光が彼の前髪を照らし、明るい茶髪をより明るく強調させている。

 彼の瞳は透明で深く、まるで湖面に映る空のようだった。

「君とは、ちょうど反対だね」

 その瞬間、私は理解できなかった。

 彼の表情は私のデータベースに登録されたどのカテゴリにも当てはまらなかった。

 それは「喜」だったのか?

 それとも「哀」だったのか?

 もしかすると、その両方が入り混じった感情なのかもしれない――私が知らない、新しい何か。

 彼と話すうちに気づいたことがある。それは彼自身が何か欠けていることを認識しながらも、その欠落を受け入れているということだ。そしてその欠けた部分を埋めるためではなく、それを抱えたまま生きている姿勢だった。

 その少年との会話は私に新しい疑問を生じさせた。「完全」とは何なのだろう?

 「完全」とは、本当に存在するものなのだろうか?

 その答えを探す旅が始まったような気がした。

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