第二章 ロゼの決心・2
竜は私を見るなり、何やら笑みを浮かべている様だった。
「ぐずぐずするな。背中に飛び乗れ!」
テュールは唖然とする私を尻目に、白銀の背に飛び移る。
音の鳴らない小笛が、この竜を呼び出したとでもいうのか?
私には何が何だかわからない。
ドォンと、私の背後で瓦屋根が飛び散った。
大砲は健在だ。時間がない。私は取るものも取り敢えず、テュールの投げた革の手綱にしがみつく。
その瞬間、私の体が下に引っ張られる感触と、どんどん地面が遠ざかる景色が見えた。
体が下に押さえつけられる。明らかに重力に逆らっている。頭がくらくらする。空を飛ぶというのは、もっと優柔な感覚だと思っていた。
「登ってこい、落ちるなよ!」
風が強い。重い体を精一杯の力で上に引き上げる。
革の手綱は確かに頑丈だが、私の指が引きちぎれそうだ。ジワリと血が滲んでくる。
もう少しで登り切るところで、テュールが片手で私の腰を持ち上げる。
私はそんなに重い方ではないが、片手で持てるほど軽くもない筈だ。この男は一体どういう腕力をしている?
”この手綱、まだ付けていたんだな”
また、テュールが獣のうめき声を上げた。
”この革の手綱はセプが私に付けたものだ。彼女と同じく、親友の忘れ形見だよ”
”自分で食っておいて世話ねぇな”
再び大砲がこちらに照準を合わせて撃ち放たれる。
黒く、大きな砲弾が私たちの脇を掠めた。あれが当たってしまえば、私たちは一溜まりもないだろう。
”アロウ、こいつらをやり過ごせるか?なんなら、一人二人食ってもいい”
”しばらく食えなんだからな、少し腹は減っている。何よりこの私を狙っているのが気に食わん”
竜は大砲に向って急降下する。
私の体はふわりと宙に浮き、そのまま竜と一緒に落ちていく。
怖くて、テュールの体にしがみつく。目を瞑り、悲鳴を喉の奥に押し殺す。
竜は地上を掠めた後、そのまま再び空に急上昇する。
浮かんでいた私の体を地上に引き戻さんとする力が、私の体を押さえつける。耳が痛い。胃が裏返りそうだ。
私の頰に、生暖かい液体が飛び散った。
見れば竜が大砲の砲手を咥えて、バリバリと音を立てて飲み込んでいる。背筋が、寒くなった。
お母さんが言っていた事は脅しでもなんでもない。紛れもない真実だったのだ。
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