第7話
魔法を扱う力が優れているかどうかはその人の目に宿る。
これは魔法を学ぶ者としては基礎知識として知っているのだが「その目の色は鮮やかであればある程高い」とされている。
そして実は、ハンナ嬢が持つ鮮やかな青色はそれに該当し、もちろんリリーにも当てはまるのだが、エミル殿下は……少し弱いのかワインレッドだった。
もし、殿下の力が強ければ燃え盛る赤色をしているはずだ。
「……」
そんな殿下の目の色と同じ服を身に纏いつつ、殿下の横にピッタリとついている。
これではどちらが婚約者なのか……下手をしたら何も知らない人は彼女の方を指すのではないだろうか。
「――悪役令嬢のくせに」
その人はいつもの様に何気なく言ったつもりだろう。
しかし、周囲がこの異様な光景にしんと静まり返っているが故にその声はやけに大きく聞こえ、リリーだけでなく殿下の耳にも入っていただろう。
ただ、この「悪役令嬢」という言葉は今となってはリリーを指す代名詞にもなっていた。
そうなる様にリリー自身が仕向けたからである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あなた……私に代わって本当にこの国の王妃様にならない?」
「か、からかわないで下さいっ!」
この言葉を聞いたハンナ嬢は当然驚きよりも怒り……いや、困惑の表情だった。
当然だろう。婚約者であるリリーからこんな事を言われたらまずからかわれたと思うはずだ。
「いいえ? 私は本気で言っているわ。まずは……そうね、あなたには生徒会の庶務になってもらおうかしら」
「……」
本来生徒会には「庶務」という役職がある。しかし、会長である殿下が「そんなもの必要ないだろう」などと言って空席になっていたのだ。
淡々と説明をするリリーに疑心暗鬼なハンナ嬢だったが、さすがにこの「生徒会」という言葉には反応する。
それくらい「生徒会に入る」という事は将来的に有利になるからだ。しかも彼女は男爵令嬢。普通であれば抜擢などそれない立場でもある。
「そ、それで私は具体的には何を……」
「私の仕事の補助をしてもらうわ」
それはリリーも十分分かった上での誘いだ。
ついでに言うと、殿下のお気に入りとくれば彼女を推薦したところで反対もしないという打算もあった。
「――分かりました」
「承認されたらまた連絡が行くと思うからそのつもりでね」
その日はそれで別れたが、まだ怪訝そうな表情だったのは言うまでもない。
しかし、実際に庶務として彼女が生徒会の一員になった事で周囲の評価は大きく変わっていった。
「ついにリリー様が動いたぞ!」
「さすがにこれだけ密会が続いたら自分の元で監視するわよね」
多分、リリーが多忙過ぎて気付かなかっただけで殿下とハンナ嬢の仲は周知のものだっただろう。
ただ、これこそリリーの狙い通りだった。そして、それとほぼ時を同じくして……。
「ねぇ聞いた? ハンナ様の教科書が使い物にならないくらい破かれていたって話!」
「え? 私は課題をって聞きましたわ?」
「いやいや、鞄をまるごと池に捨てられたんだろ?」
ハンナ嬢に対するイジメが始まった。大方、男爵家の令嬢であるにも関わらず生徒会に入ったのが気に食わなかったのだろう。
「え、でもこれって誰がしているいらっしゃるのかしら?」
「貴族令嬢たちだろ? 何人か集まっているのを見たぞ?」
「でも、それってリリー様のご指示じゃないかしら?」
「ああ、自分では手を下さずに他の令嬢たちにやらせているってワケか」
「でも、ずっとお一人ですわよ?」
「さすがに指示しているところを見られるようなヘマはしないわよ。公爵家の令嬢で殿下の婚約者ですもの。そんな方の一人や二人いらっしゃるのではなくて?」
ただ、周囲は様々な憶測を巡らせ、最終的にはリリーの仕業だと決めつけた。
さらに公爵家の令嬢かつ殿下の婚約者という事も「噂を大きくする尾ひれとなる」というリリーも思ってもいない効果もあった。
そうしてリリーは元々なかった距離がさらに広がり学園の中で完全に孤立し、さらには「悪役令嬢」とまで陰で言われる様になった。
しかし、それらも全てリリーの思惑通りだったのである――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます