第02話 鬼子

「──これで終わり……っと!」


 よろよろと前のめりになっていた夜盗の一人を、後頭部への肘打ちで、地面剥き出しの床へと叩き落とす。

 そいつを最後に、八人からなる夜盗は全滅。

 皆、俺の拳と蹴りにまったく歯が立たず。

 いまや揃って地に伏し、うんうんと低い呻き声を漏らすのみ。


「安心しろ。こちとら喧嘩のプロだ。死なない程度……ってやつぁ、しっかり心得てるよ」


 しかしまあ、わかりやすいほどの雑魚の群れだったな。

 都心の半グレのが、まだ歯ごたえあった。

 あまり派手に暴れたら、小屋の外へ逃げ出されそうだったから……。

 ピンチを演出しつつ、八人均等にダメージ与えていったが、そこは普通の喧嘩より骨が折れたな……うん。

 おっと、忘れちゃならねぇ、決め台詞。


「てめぇらのツラは、背中の般若がしっかり見覚えたからな。次は命がねぇぞ!」


 返事の代わりに呻きや吐血を返す連中の中心に立ち、ぐるりと身を翻して彫り物を見せつける。

 この世界にも刺青タトゥーはあるが、ほとんどが黒一色で、絵図は文様か文字列。

 俺みてぇな青が基調の鮮やかな刺青モンモン背負しょってる奴は、まあいねぇだろう。


「俺のほかに、世界を跨いだ奴がいなけりゃ……だがな」


 ……三年前。

 夜の都内で、親分オヤジの仇討ちを果たしたあと、背後から撃たれ……。

 気がつけば俺は一人、この世界へ。

 車もスマホもねぇ、そして任侠道もねぇ世界へ────。


 ──カタッ!


 物音っ!

 部屋の隅っ!

 薄いが……人の気配!


「まだいたかっ! いまのを見てただろう! 抵抗せず、おとなしく出てこいッ!」


 ──カタッ……カタタッ!


「…………?」


 返事の代わりに……音。

 木材で地面を軽く叩くような音。

 人じゃなくて、繋がれた動物……家畜、だったか?

 気配の出所は、あの藁の山の向こう……と。

 どれどれ……。


「…………わっ!」


 女……の子?

 年のころ、十歳かそこら……。

 両手首と両足首に、木製の枷が嵌められてる。

 身に着けてるものは、ボロ雑巾みてぇな肌着一枚と、長くて白い髪だけ。

 裸足の指先から膝頭まで、まんべんなく……うっすら赤い。

 あざ……虐待かっ!?

 この夜盗どもに拉致られて、虐待されてたってのか……畜生がっ!

 よくみりゃ赤みが腕にも……いや、顔にまでっ!

 金色のつぶらな瞳には、かろうじて生気が宿ってる……が。

 なんてこった……額から生えてるツノまで真っ赤じゃねぇか……。

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。


「…………ツノ?」


 長い前髪を縫って、額の中心から十センチほど真上に伸びる、先細りのツノ。

 ツノ……ツノだな、こりゃ……うん。

 額からそのまんま生えてる。

 よく見りゃあ肌の赤みにムラがない。

 地肌……地色だな、この赤みは。

 薄ら赤い全身、額からはツノ……。

 ま、まさか……このガキが……オーガ!

 この世界の……鬼っ!

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