女神様、調整ミスにも限度があります
結城ヒカゲ
第1話 女神の依頼
気がつくと見知らぬ部屋に立っていた。
キョロキョロと辺りを見回す。ドラマでよく見る社長室のような部屋だ。
「どうぞ、お掛けになって下さい」
鈴を転がすような澄んだ声が脳に響く。
さっきまで誰も座っていなかった社長椅子に、スーツ姿の金髪美女が座っていた。
でかい。何がとは言わないけどでかい。
お掛けにって言われても椅子なんて……て、あるし。
いつの間にか、私の後ろにパイプ椅子が現れていた。
取り敢えず、座るか。
ギシ、とパイプ椅子が軋む音が室内に響く。
いや、私が太ってる訳じゃないからね? 着太りしてるだけで、くびれもあるから!
そこで、私は高校の制服を着ている事に気づく。いつもの、ブレザーの下にセーターのスタイルだ。
うーん、どういう状況だ? 面接? いやいや、私まだ高二だし。就職には早いでしょ。
てか、記憶が曖昧なんだけど、どうやってここに来たんだっけ。
「ふふ、困惑されているようですね。では、説明しましょう。貴女は、死んでしまったのです!」
「はあ」
「はあ、て! なんですか、その反応は! もっとあるでしょ? どういう事ですか! とか、そ、そんな……私が死んだ? とか」
なかなか演技派な美人さんだ。で、この人は誰なんだ?
いきなり死んだとか言われても、私はここにいるし。
いや、待てよ。なんか思い出してきた。
「仕方ありませんね。では、一から説明してあげます。貴女は学校から帰る途中、信号無視のトラックから美少女を助け、代わりに貴女がトラックに引かれて死にました」
美少女って説明いる? 女の子でいいじゃん。
まあいいや。全部思い出したよ。凄い痛かったよ。死ぬかと思った。あ、死んだのか。
「ふむ、随分と冷静ですね。流石は私が選んだ魂です」
美人さんは、ドヤ顔でむんと大きな胸を得意気に突き出す。
「おっと、申し遅れました。私はセレーネといいます。職業は神をやっております。以後お見知り置きを」
「あ、ご丁寧にどうも。私は
美人さん、セレーネさんが立ち上がってぺこりとお辞儀するので、私も同じように立ち上がりお辞儀する。
なんか、神って言ってたな。まあ、死んだ私に干渉できるのは神様くらいか。
「自己紹介も済んだ所で、本題に入りましょう。私は、貴女のような魂を探していました。正義感が強く、行動力があるオタクの魂を」
「そうなんですか。神様に褒められるなんて照れちゃいますね……ん?」
今なんて? オタク? 私が?
……なんで知ってるの? 家族にも完璧に隠していたのに。
「何故オタクである事を知っているのか、という顔ですね。ふふ、それは、私が神だからです」
そっかー、神だからか。なら、知ってて当然だな。
「私は趣味で世界創造を嗜んでおりまして」
「ちょっと待てー!」
「はい?」
「はい? じゃありませんよ! 何可愛く惚けてるんですか! 何ですか、趣味で世界創造って! 思わずタメ口がでちゃったじゃないですか!」
セレーネさんは、可愛らしく小首を傾げている。
あれ、もしかして、神様ってこんな感じなの?
「んー、天上界ではポピュラーな趣味なのですが。確かに、人間からすれば、信じられない事かもしれませんね」
へー、天上界ではポピュラーなのかー。もしかして、私がいた世界もそんな感じで作られたのか?
「あ、月希愛さんのいた世界は、ちゃんとした企業が作った世界なので、管理もちゃんとされていますよ」
そっかー。それなら安心だなー。
「話が逸れてしまいましたね。私が作った世界なのですが、少しばかり調整を間違えてしまい、少々、ほんの少しだけ危ない状況なんですよ」
「はあ」
「なので、月希愛さんに問題を解決して頂きたいと思いまして。勿論、報酬はお支払いしますよ!」
もう、頭の中ぐちゃぐちゃで何が何だか。
えっと、セレーネさんは自分で作った世界の問題を私に解決してほしいって事?
「あの、問題って何ですか? 私、普通の高校生なので、大した事はできませんよ?」
「問題解決には、月希愛さんは適任なのでそこは安心して下さい。問題というのは、私が作った世界というのは、月希愛さんの世界にある某有名RPGのドラゴンなクエスト的なやつを参考に作ったのですが、ほんのすこーしだけバランス調整を間違えて、魔王が強くなりすぎて誰も倒せなくなってしまったんです。なので、月希愛さんに魔王を倒して頂きたいのです」
なるほど。確かに、ドラゴンなクエスト的な世界なら、オタクな私ならすぐに順応できそう。ただ、
「私、現代っ子なので、ラノベとかでよくある中世くらいの文明レベルは嫌ですよ?」
「そこは、魔法の力で色々発展しているので、快適な生活をお約束します」
だったら大丈夫かな。正直、オタクとしてはめちゃくちゃアガる展開だし。
「引き受けて頂けますか?」
「その前に、報酬について聞いておきたいんですが」
世界を救うっていっても、趣味で作った世界だし、セレーネさんからしたらペットのお世話して、くらいのお願いなのだろう。
だから、あんまり報酬は期待できなさそうだけど、ちゃんと聞いておかないと。あまりにもショボいと流石にね。
「ご安心下さい。私は月希愛さんの事はなんでも知っています。なので、貴女の望みもちゃんと分かっていますよ」
セレーネさんは徐にスーツを脱ぎ出した。ワイシャツのボタンを半分まで外し、スカートを下ろす。
パッと見、ワイシャツ一枚の格好。ブラジャーは着けておらず、足の付け根より少し長い丈のワイシャツが上手い具合に隠していて、パンツを履いているのかは分からない。見えない事が余計に想像を掻き立てる。
扇情的な格好で近づいてくるセレーネさんに、私は逃げる事も言葉を発する事もできなかった。
妖艶な笑みを浮かべる桜色の唇がゆっくりと近づく。
甘く蕩けるようなディープな口づけ。脳が痺れ、頬が紅潮する。
セレーネさんが、私の背中に腕を回す。強く、優しく私を拘束する。
前からの柔らかい圧力は、結構でかいと自負する私のそれを軽く凌駕する。
全身が支配されるような、そんな感覚。
私は、所謂レズビアンというやつだ。彼女がいた事もあるし、キスやその先の経験もある。
けど、それらが色褪せ塗り替えられていく。女神の口づけによって、私が今までやっていた事は児戯に過ぎなかった事を思い知らされる。
五分間に及ぶ甘美な時間。それは、私を虜にするには十分過ぎる時間だった。
ゆっくりと、糸を引きながら唇が離れる。
黄金の瞳と視線が交差すると、そこに悪戯な光を宿す。
「続きは魔王を倒したら、ね」
「ひゃい」
もう、私に思考する余裕はない。にっこりと微笑むセレーネさんに、ただただ見惚れるだけだ。
「では、契約成立という事で。こちら、私からの
セレーネさんが、私の左手の甲に指で何かを描く。すると、そこに金色の三日月の紋章が現れた。
セレーネさんが一歩下がると、私の足元で魔法陣が青白い光を放つ。
「では、お気をつけて」
光は徐々に強くなり、にこやかに手を振るセレーネさんの姿が見えなくなった。
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