社畜女、同僚の妹に会う

第39話 社畜女、同僚の妹に会う①

 秋も半ばになり、すっかり冷え込んできた頃だった。

 いつものように傭兵団の仕事をこなし、宿に帰る時だった。



「エマ。今度の休日、予定空けておいて」

「え!?」



 え、何!?

 ヨセフ様から私の予定押さえようとするなんて初めてじゃない!?

 もしや……デートか!?


「い、いいですけど……急に何ですか?」


 指で意味もなく遊び、答えを聞く。

 私の心臓は、このままだと高血圧になってしまうくらいには早鐘が如くドクドク言っている。


「実は……」

「は、はい」

 

 ヨセフ様は私の顔をそのまま見つめる……。



 ……。


 ……。


 いや、はよ言わんかいヨセフ様。

 続きはCMの後で!くらいにめっちゃ溜めるなこの人。



「実は……リオの妹が、修道院にいるんだけど……。演奏会の歌のメインパートに選ばれてさ、皆で見に行こうって話になってるんだ」



 ……なーんだ。デートじゃなかった……。


「あ、まあ……暇だし……。いいですよ……」



 こうして、乙女の期待は散った──。

 ていうか神妙な顔で溜める意味あった?



* * * * * *



 そうして、私たち傭兵団は次の休日に、揃って修道院のあるアマデウスに向かった。


 ──王都アイテールの中心地・アマデウス。

 王宮の近くの町であり、政治・芸術・宗教(テトラ教)の中心地である。

 町は全体的に女神や精霊の彫刻があるものなど、そういったモチーフの建物が多い。

 あと、道行く人が……なんかこう、ザ・庶民の町ヘパイストスの飲んだくれの通行人たちとは雰囲気が違って、品があって……ド庶民な私は浮く。


 アマデウスをしばらく歩くと、入り口で花を持った精霊の彫刻が出迎えてくれる白い修道院が見えた。

 ここがリオくんの妹が住んでいるテトラ教の修道院らしい。

 私たちは中に入った。


(……リオくんって妹と離れて暮らしてるんだなあ。寂しくないのかな)


 私の前を歩く彼を見る。

 そういえば月に1回、休日に朝早くからアマデウスに行っていたのは、妹に会うためだったのか。




* * * * * *



 長い身廊の両側には、椅子が並んでいる。

 私たちは見やすいように、少し後ろ側に座った。


 しばらくすると、指揮者と楽器の奏者の修道女が身廊を歩いて、礼拝者(私はテトラ教信者じゃないから観客……?)に礼をした。

 続いて、幼女たちが身廊を一列に規則正しく歩いて、同じく礼をする。



 真ん中にひと際小さく、愛くるしい幼女がいた。


 黒い猫耳と尻尾。褐色の肌。

 肩まである少しくせ毛な黒髪にぱっちり開いたまん丸で美しい金眼。

 他の子どもたちと同じく紺色のセーラー風のワンピースとベレー帽を着用した、妖精のような女の子だった。


「真ん中の子、リオくんそっくりだね。妹でしょ」

「え?やっぱりわかる?」


 こっそり耳打ちすると、リオくんは自慢げそうに話した。


「あいつまだ7歳だけど、歌が上手くてメインに抜擢されたんだぜ」

「すごいね……。確かに周りの子、あの子よりは年上そう」

「まあ、聞いてみな。始まるぞ」



 指揮者の修道女が指揮棒を振った。

 それに合わせて前奏が始まる。


 やがて、幼女たちが歌う。

 一寸の音の狂いもない。どれだけ子どもたちが練習したかがわかる。

 心が洗われるような、清らかな美しい歌声だ。


 そして中盤に差し掛かり、ソロパートとなった。

 あの真ん中の、リオくんの妹の番だ。



(まだあんなに小さいのに……!)



 圧巻のソプラノだった。

 音は外さないのはもちろん、声量は大人顔負け。

 周りの子どもたちも上手いけど、この子は段違いだ。

 高い声なのになぜか芯のある強い歌声だった。

 


 聞き入っていると、いつの間にか歌が終わっていた。

 礼拝者の中には感動して涙を流し、スタンディングオベーションをしている人もいた。

 私も、大きな拍手を送った。

 


* * * * * *



 修道女に面会できる部屋に案内された。

 プレゼントは変なものじゃなければ何を渡してもいいというので、実はこちらに向かう前にうさぎのぬいぐるみを買っておいた。

 喜ぶといいなあ。


 少しの間待っていると、ドアの音がして何か小さなものが駆け寄ってきた。



「おにい!」


 リオくんの妹だった。

 リオくんは駆け寄ってきた妹をそのまま抱っこした。

 彼は満面の笑みを浮かべて、妹と話す。


「サラサ久しぶり!元気してたか?」

「うん!ねえねえ、おにい。さっきのおうた、見てた?」

「見てたぞ!お前、カッコよかったな!」


 褒められて嬉しそうにリオくんの妹……サラサちゃんは笑った。

 やがて周りにも人間がいることに気が付いて、人懐こい笑顔を皆に向ける。


「ヨセフおじちゃんひさしぶり!ジャック兄ちゃんもひさしぶりだね!……えと」


 そして、そのまま見たことのない私に気づいてどうすればいいか分からずに戸惑っている。


「この人な。つい最近新しく入ってきた、おにいのお仕事の人」

「おしごとのひと……」

「エマです。よろしくね」


 私はうさぎのぬいぐるみを使って自己紹介をした。


「エマおねえちゃん!」



 サラサちゃんは目を輝かせた。

 どうやらうさぎのぬいぐるみ作戦は成功したようだ。





続く…

* * * * * *

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