大好きな家族
*
馬由が浜の駅に降りると
ふわっと海の匂いがする。
懐かしい。
懐かしいと思う気持ちには
どうして切なさが混じるのかな。
どうしてもここには
光輝がいる。
「すずちゃん、こっち」
「お母さん!」
駅を出るとお母さんが待っていた。
「やだぁ、すずちゃんお酒くさい」クスクス
「ちょっと飲んできちゃった」
「大人みたいな事言っちゃって」
英介が送ってくれると、何故か当たり前にそう思っていた私。
だけど英介はあの後、高校の同級生の集まりへ行き、私は最終の一つ前の電車で帰った。
「お父さんは?」
「いるわよ」
「麻衣ちゃんは?」
「さっき帰ってきた」
駅から家までは車だと一瞬。
信号ももう点滅しているから停められることもない。
「お風呂入っちゃいなさいね」
「うん」
車を降りながらお母さんはそう言い、玄関を開けるとふわっと家の匂いに迎えられた。
これも懐かしく感じるのに、これは切なくない。
なんだかすごく安心する懐かしさ。
「ただいま~」
リビングの戸を開けお父さんに言うと、お父さんはソファーから起き上がって本気で私を二度見した。
「お風呂入ってくる」
髪の毛の色を怒られる前に逃げるが勝ち。
「パジャマ出しておくから」
玄関から入ってきたお母さんはそのまま二階へ行った。
久々の家のお風呂。
見慣れないよさそうな英語書きのトリートメントが増えてた。
お湯に浸かりながら考えた。
言っていいってことは本気のやつ。
だってお父さんに言うってことは現実的だよね。
お父さん喜ぶのかな
まさかまた大暴れしないよね。
ぽっかぽかに温まり、リビングに行くとお父さんはお酒を飲んでいた。
その横でお母さんも飲んでる。
私を迎えに行くから飲まずに待ってたんだ。
「すずちゃん、すごい色にしたわね髪」
お父さんが言う前にお母さんが言った。
「でも可愛いわ
ね、お父さん似合ってるわよね」
大魔王を封じてくれた。
「私も飲も~っと」
「は?」
クスクス
「お父さん、すずちゃんも二十歳なんですよ」
「わ…わかってる」
グラスを持って行くと、お母さんは缶から注いでくれた。
「こんな日が来るなんてね、ね、お父さん」
「あまり飲み過ぎるなよ」
「自分だっていっぱい飲むくせに」
「すずちゃん、彼はお元気?」
「鈴、生活費は自分で出してるだろうな」
「あ…あのね」
「彼はお休みじゃなかったの?
一緒にいらしたら良かったのに」
「あの…」
「そうだ、お土産買ってあるのよ
駅前にできたお店がね」
「鈴、なんだ?」
「別れたの…」
「あら…ごめんねすずちゃん」
「ううん!それでね…その…!」
「じゃあアパートに戻ったのか?
1人でやっていけてるのか?バイトは?」
「お父さんちょっと静かに」
お母さんはグラスを置いて、私の手を握った。
「すずちゃん、話して?」
「光輝と…」
「そうなのか?!」
「お父さん!ちょっと静かにして下さい!」
「はい…」
「光輝と結婚していい?」
「「……」」
あれ?
「やっぱダメ…だよね…」
「いい!いいに決まってるだろ!」
「え、いい?」
「お父さん!」
「あ…はい」
「すずちゃんいいのよ。
それはいいの、朝霧さんなら
私たちも反対する事なんてないわ」
「うん」
「でもね、ちゃんと何があったかは知りたいわ。
一緒に暮らしている彼がいたのに
どうして急に朝霧さんと結婚なの?
その彼に会ったことはないけど
すごくいい方だと思っていたのよ。
すずちゃん幸せそうだなって安心したの」
「あのね…」
さすがに美来くんのことは言えないし、大学でぼっちなことも言いたくない。
だけどお母さんが真剣に心配してるのがわかる。
だから、巧実さんの事、巧実さんがくれた幸せ、巧実さんをどんな風に好きだったか。
それから光輝に再会したこと。
自分の気持が、自分で信じられないくらい動いたこと。
自分で決めた事
全部話した。
「あぁ…あの子か」
「お父さん巧実さん知ってるの?」
「福岡で何度か会ったかも」
「ごめんなさい…」
「同じ職場で…大丈夫なのか?」
「すずちゃん、よかったわね」
「え?」
「おめでとう」
でも大魔王がぶつぶつ言ってる。
「言ったじゃないの
お母さんは何があってもあなたの味方。
すずちゃんが決めたことだもん
お母さんは嬉しいわよ」
ゴホン…
「別にダメとは言ってない」
「あらそうですか?」
「まぁ…いい大人だ
解決に至ったから結婚なんだろう」
「ちゃんといい人に巡り会ってよかったわ」
お母さんがいい子いい子って撫でてくれる。
「ね、お父さん」
「お母さん、この前のワインあっただろ」
「ま!すずちゃん高級ワインよ!」
「麻衣も呼んで来なさい」
「うん!」
明日は成人式で朝早いのに
家族4人でお酒を飲んだ。
「マジか~
まぁいいんだけどさ」
「麻衣、先越されたな」
「お姉ちゃんからだと思ってたんだけどね」
「麻衣は賢くて、鈴は要領がいい」
「要領だけで生きてるじゃんスズなんて」
「ひどい!」
「まぁでも一つの才能か」アハハ
「ねぇこれホントに高級なの?甘くない」
「勿体ないな、鈴に飲ませるのは」
「麻衣ちゃん今の彼氏は?」
「結婚は無い
結婚のけの字も出してないのに
なーんか亭主関白気取るんだよね」
「うざ~」アハハ
「お父さん!亭主関白は古いよ!」
「古い古い~」キャハハ
「うちは見せかけだけだ
お母さんの方が強いだろ」
「まぁ!」
こんな風に4人でお酒を飲むのは最初で最後だった。
私が光輝と結婚して、麻衣ちゃんが春に家を出る前の、最後の家族時間だった。
麻衣ちゃんといたずらした壁の落書きは
いつまでもそこに残っていた。
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