働き上手は恋上手。冴えない彼女と省エネ彼氏
和泉柚希
第1話 しっかり者の私が冴えない。
「紗希さん、何してるんですか? さっき皿落としましたよね」
「うっ……」
私は声を詰まらせる。
そして、私は見られている……さらっとした黒髪、目がぱっちりと二重、シュッとした輪郭で、高くて細くてすっきりした鼻。いかにも整った顔立ちで冷静沈着な佇まい。
目を引くようで吸い込まれるような容貌の彼に、じっと見つめられている恥ずかしさで緊張がさらに増してくる。
別にこの人のこと好きなわけじゃないのに、バイトとなると、反射的に手が震えちゃうのよ。そんなに私のことを詰めてこないで。
「どーして、そんなにバイトの時は、緊張しているんですか?」
そして何でそんなに淡々と敬語で話すことができるの?! ああ、ひやひやして曇った浮かない顔になっている自分の顔が思い浮かぶ……。
「自分の顔見てください、鏡で。まったくもう、そんな顔お客様に見せられませんよ。お客様には笑顔で! 紗希さんって、僕がいないと絶対仕事できませんよね!」
キツめに世話を焼かれている……。辛辣な言葉一つ一つが刺さる。しっかり者でリーダー気質の私が、まさか、こんなに仕事できない女なんて……。仕事ができなくて恥ずかしい。
私はバイトでは、緊張で手が震えて仕方ない。そして、お客様に対する声も同じように緊張で、噛みまくってしまう。
これが、学生と社会人の違い。
学校とバイトの違いか。
「はー。僕がフォローで謝らなかったら、紗希さん、お客様に怒られていたかもしれませんよ?」
「うっ……」
「どうしてそんなに、引っ込み思案で臆病な性格なんですか?」
いや……彼は知らないだけ。私は高校の時、バドミントン部の部長だったし、リーダー気質でみんなのことを引っ張っていた。
こんな性格じゃない……って言っても、今の私の姿からは、そんなの言い訳でしかない。
――目の前には落として割ってしまった皿がある。
「……ごめんなさい、佳佑くん!」
――って謝るのは、佳佑くんじゃない。目の前のお客様とキッチンのスタッフの方と、あとは、社員のバンケットスタッフの方に謝るべきなのに。
私は、式場の披露宴会場にいるお客様から逃げてキッチンに逃げてきてしまい、今キッチンで佳佑くんに怒られている。
「謝るのは僕じゃないですよ!」
そう。私は、この結婚式場では、とことん冴えないのだ。どうして、こんなに仕事ができなくなってしまうのか理由は分からない。
「でも……紗希さんが真剣にバイトに取り組んでいるのは僕にも分かります。だから、また来週も来てくださいね」
そう言って優しくふわっと微笑んだ顔には、まるで、癒しの効果のある森にいるように感じさせる柔らかな空気感が漂っていた。
え? どうして急にそんなに甘い対応? さっきまであんなにキツかったのに。飴と鞭ってやつ? なんかずるいなぁ。好きにはならないけど。
私は、とにかく大人がたくさん集まるところで普段通り振る舞うことがとことん苦手だったの。
高校生の頃は、学生同士で話したりバドミントンの試合は平気だったけど、バイトではとことん冴えない。こんな自分の駄目さに呆れてしまう。
私は森若紗希(もりわか さき)。大学一年生で、結婚式場でバイトを始めたばかり。
自分のことなんてまだよく分からない。
高校生の頃は、バドミントン部の部長をしていて、リーダー気質だった。比較的しっかり者で男女年齢分け隔てなく接するよう心掛けている。
――はずなんだけど、この春、この結婚式場でバイトすることになってから、私は、この調子。おどおどして皿を落とした。見ての通り、とことん冴えないの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます