第6話 神の領域[中編]

エレナ「アナタ。」


彼女の胸に抱かれる夢。安らかな眠り。

ここに、現し世には無い。俺もそっちへ……。


リュプケ「ベッカー……お前。」




洞窟の中、入り口から朝の光が差し込む。


外は寒い。


普通の人間なら身震いしているだろう。


硬い地面で寝て起きる。戦場で何度も味わったこの空虚感。死んでからも味わうのか、さながら生き地獄だ。


ベッカー「……さて、行くか。」


奴は、エウレカは帝国の首都にいる。ここから、歩いて3日くらいか。


リュプケ「まじかよ、馬借りようぜ?バイク盗むとか。」


ベッカー「都合よくあるあねぇ。まぁ、探してみるか。」


洞窟を出て、キューちゃんの墓前に手を合わせる。


リュプケ「律儀だねぇ。」


ベッカー「魔導生物だけど、命はあったさ。」


ベッカーは街道に向かった。




運良く通行人のバイクを強奪したベッカーは帝国の首都を目指して走らせた。


キューちゃんがつけていたローブを身に纏い、フードを目深に被って、上空を徘徊するワイバーンを掻い潜った。




ベッカー「……ここでやりすか。」


たくさんのワイバーンが上空を旋回している。

帝国の首都は近い。

ベッカーは農道の防風林に身を隠した。


リュプケ「そうだ、試したいことがある。ベッカー、光の剣を抜け。」


ベッカー「ここで?!見つかっちまう!」


リュプケ「そのままでもできるかなぁ?まあ、いいや、鞘ごと地面におけ。」


ベッカーは光の剣を草の生えてない地面に置いた。


ベッカー「どうするんだ?」


光の剣「おぉ、入れた、入れた。」


光の剣からリュプケの声がする。ベッカーは何が何やら分からない。


リュプケの剣「意識を光の剣に移したのさ。光の剣はエネルギー帯だから、もしかして、と思ったのさ。」


ふーん。分からん。


リュプケの剣「今度からこっちでサポートするかなぁ。他にも、やってみたいことがあるから、やっぱ、抜け。」


えぇ……


ベッカーは渋々、光の剣を鞘から抜いた。その青白い光がすぐに竜騎兵に見つかる。


ベッカー「おいおい、見つかったぞ、こっちにくるじゃないか。」


ワイバーンがベッカーを囲むように上空を旋回しだす。


竜騎兵「いたぞ!発砲許可は出てる!逃すな!ここで仕留めろ!」


竜騎兵は思い思いのタイミングでベッカーをボルトアクションライフルで狙撃した。


バス!バス!


ベッカー「ぐっ!」


頭への直撃弾は優先して切り払えるが。どうしても、漏れが出てくる。体に穴が開く。


リュプケの剣「とりあえず、近くのやつに向かって剣を振れ。」


ベッカー「どうなるんだ?」


リュプケの剣「いいから!」


ビュン!


振りと同時に切っ先から小さな光弾が射出される。


パゥ!!


ワイバーンの羽に大穴が空き、竜騎兵の胴体の一部が消し飛ぶ。


竜騎兵「うぉぉぉあぁぁ!」


竜騎兵は乗っていたワイバーンごと地面に墜落して絶命した。


リュプケの剣「時空割断。このくらいの出力でも十分だなw」


ベッカー「すげぇなコレ。」


ベッカーは剣をもう一度、上空の竜騎兵に振った。


今度はたくさんの光の粒が発射される。


それに接触したワイバーンは体に穴があいて、次々に撃ち落とされた。


残った竜騎兵は何か身振り手振りで合図し合うと更に、空高くに舞い上がった。


ベッカー「距離をとったな。」


リュプケの剣「バーカ、射程距離は今のライフル並みだ。と思う。」


ベッカー「なんだそりゃ?」


ベッカーは肩をすくめた。


リュプケの剣「そりゃ、これから試すからな。実測値はまだ無いよ。」


ヴゥン!


ベッカーは思いっきり早く剣を振った。


パン!


ワイバーンごと竜騎兵は弾けて消える。


それを見た残りの竜騎兵は散り散りに逃げ出した。


リュプケの剣「コイツは切り札になるぜ。」


ベッカー「俺のセリフだ。ありがとよ、リュプケ。」


リュプケ「うんうん、もっと崇めろ!」




フクロウ「ベッカーだな?話は聞いている。ついてこい。」


検問所で揉めていたベッカーを助けてくれたのは意外な人物だった。


ベッカー「アソコで暴れても良かったんだがなぁ?」


フクロウ「被害が出る。お前もソレは望まないだろ?」


円形の城塞都市。


帝国の首都の城門の前にフクロウ達とドルガとエウレカが待っていた。


ドルガ「決着をつけようじゃないか。私のエウレカとお前のベッカー。いるんだろ?リュプケ?」


ベッカー(リュプケ)「決闘かよ、ドルガ。変わってないな。」


ベッカーの口からリュプケの声がする。


エウレカ「お母様から、お前を切り刻んでいいって言われたの。」


少女は新しいおもちゃをもらったかのように目を細めて笑った。


ベッカー「そうかい、よかったな。」


ビシュン!


ベッカーは光の剣を抜いた。


ドラゴンドライブ。


何回か試して、骨が砕けない程度に調整できるようになった。


ドン!


ベッカーは大地を蹴ってエウレカに飛びかかった。二人の激突でフクロウが数人、吹っ飛ぶ。


ドルガ「飛ばすねぇ。いつまで持つかな?ネクロイドは?」


エウレカは宙に浮く。フワリ!


リュプケの剣「奴のは反重力だ。どっかにそれ専用の動力が内蔵されてるはずだ。」


剣の向こう側でエレミアの声がする。


エレミア「認識しました。ちょっと見せてください……。」


剣からかすかにエレミアの声が聴こえる。その間にも2人は激しく打ち合う。


リュプケの剣「ほーん。」


ベッカーは剣を振ったそれをエウレカがヒラリとかわす。しかし、切っ先から放たれた光弾がエウレカの腹部を貫通する。


エウレカ「うあ!」


エウレカは地面に落ちた。


ドルガ「なんだと!?リュプケめ、狙ったな!」


勝った。


リュプケは時空割断魔法を最大出力でぶっ放した!


スカン!


エウレカは後にいたフクロウも城塞都市も巻き込んで消し飛んだ。


轟音と共に崩れ落ちる首都。


そこかしこから、悲鳴と煙が上がり爆発もあちこちで起きる。


ドルガ「私の城、セントラルタワーが……。」


光の剣は粉々になった。


ベッカー(リュプケ)「私の勝ちだよ。ドルガ。」


ドルガ「まあ、最初からわかってたことだ。この星には私の創作を叶える道具がない。」


ベッカーの口を借りてリュプケは旧友と話を続ける。


ベッカー(リュプケ)「これからどうする?」


ドルガ「そうだな、神の星に行こうと思ってるんだ。」


神の星?


リュプケ「生身で?そりゃ無理だ。」


ドルガ「可能さ。星間航行してる便がある。」


お別れだ。リュプケ。


ドルガはかき消えるようにいなくなった。


リュプケ「そんなのがあるのか……。」


そこで、リュプケとの通信が途絶する。


エレナ「アナタ。」


ベッカー「エレナ。」


ベッカーは脳裏の今は亡き妻に語りかける。


エレナ「やり残した夢は叶いましたか?」


ベッカー「まだ一つあるんだ。」


エレナは笑う。君をもう一度抱きしめたいよ。


エレナ「まぁ、欲張りさん。」


ベッカー「行こう。これで最後さ。」


ベッカーは崩れ行く帝国の首都に消えていった。


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