第5話 神の領域[前編]

街にも帝国軍の軍服を着た亜人達が闊歩するようになった。


キューちゃん「リザードマン。まだ残ってるんですね。」


ベッカー「あっちのはリカント(狼型亜人)、ミリシャまでいやがる。」


リュプケ「ミリシャ(猫型亜人)に聞かれるぞ!」


猫型の亜人の耳がこちらを向く、ベッカー達は物陰から通りの様子をうかがっていた。


リュプケ「こりゃ、街にはもう近づかないほうがいいな。」




二人は森の開けた場所で腰を下ろした。


煙は目立つ、昼は火をたけない。帝国は底冷えする土地柄だった。


リュプケ「ベッカー、防寒具を送ったぞ。」


転送魔法で厚手の服が届く。ありがたい。凍傷にはならなくて済みそうだ。


ベッカー「ありがとよ。けど、いいのか?パーツ交換に体を切り刻むいい機会じゃないか。」


リュプケ「バーカ、私は節約家なんだ。自分の性癖よりも、パーツの温存さ。人の死体もただじゃないからな。」


保温護符。腰に張り付ける。それだけでもポカポカする。何とかなりそうだ。


キューちゃん「私は大丈夫です。お気遣いなく。」


魔導生物は便利だが、少し動きが鈍くないか?


キューちゃん「あー、内包してるゲルが寒さで硬化してるんですかね?

しかし、まだ通常モードなら許容範囲内です。戦闘モードは温度上昇しますから大丈夫です。」


?なるほど?




ギャォォン!


空に何かの雄叫びが森に轟く。ベッカー達は急いで木の陰に隠れた。上空、葉の隙間から見える空を、竜に跨った騎兵が通り過ぎる。


ベッカー「ワイバーン!ドラグーンだ!」


キューちゃん「私たちの捜索ですかね?」


騎兵の手には双眼鏡とライフルが握られている。


リュプケ「ひとつ、基地を破壊して、魔女も一人やったからなぁ。帝国の本気ってやつ?」


ベッカー「ここもすぐ見つかるかな?」


キューちゃん「移動しましょう。」


二人は近くに洞窟を見つけて、そこに身を隠した。




リュプケ「アソコには、エウレカはいなかったな。」


魔女は残念がった。


ベッカー「?まだ、死体のことをあきらめがつかないのか?」


ラミアの体とかものすごく、貴重だろうし。


リュプケ「んー?こっちの話さ。」


ドゴォン!


森に轟音が轟く。


ベッカーが外を確認すると。辺りは火の海になっていた。


ベッカー「こりゃぁ。」


どうなってるのかはキューちゃんの指し示す方向、上空にあった。


リュプケ「ドラゴン!?」


その肩には魔女が一人立っていた。


???「賊!私から出向いてやったぞ!今、出てくるなら、ちゃんと顔が確認できるくらいに殺してやろう。」


魔女はベッカー達を見つけると、ドラゴンと共にゆっくり地上に降り立った。


シンフィールド「私の名はシンフィールド。忙しい中、時間を見て来てやったんだ、ありがたく首を差し出せ!」


魔女は次元の狭間から長柄の大きな斧を取り出した。


デカい!


斧のことじゃない、魔女の体の方だ。


シンフィールドという魔女は少女体型のアビィとは対照的に全体的にデカかった、その割には腰が締まっている。

ベッカーは魔女のはち切れんばかりのワイシャツからのぞく谷間にくぎ付けになった。


リュプケ「……お前ぇ……。」


キューちゃん「脂肪ですよ。」


夢のない事を言うな。


シンフィールド「なんだ?私が欲しいのか?だったら、おとなしく捕まれ、オジサン?」


ベッカー「ソレは遠慮する。」


ベッカーは光の剣に手をかけた。


シンフィールド「連れないこと言うなよ。私を好きにできるんだぞ?かわいがってやるよ。」


ニタァ。


コイツも中身はアビィと一緒らしい。魔女らしい魔女だ。ベッカーはリュプケとシンフィールドを比較した。


リュプケ「あんなサディストっぽいやつと一緒にするな。私はノーマルだぞ?」


死体を解体するノーマル?


シンフィールド「まずはそっちからだ。」


キューちゃんが後ろに飛ぶと、今までいた空間に穴があいた。


ベッカー「熱湯?!」


穴から沸騰したお湯があふれ出てくる。


キューちゃんはローブから何かを魔女に発射する。シンフィールドは手にした斧でソレを切り払う。


リュプケ「どんぐり?!」


シンフィールド「アハハハ!やるじゃないか。」


着地。


する直前に空いた時空の狭間にキューちゃんはスッポリ収まった。


キューちゃん「うわぁぁぁ!」


ぶじゅぅぅぅ!


ローブが熱で溶ける。


シンフィールドの情気した笑い声が燃え盛る森にこだまする。


ベッカー「キューちゃん!!」


リュプケ「あつそー。」


普通の人間なら死ぬ温度だったろう。


演技。


ベッカーとキューちゃんは魔女を欺いた。


キューちゃんは時空の狭間から戻って来ると、その場に倒れ込んだ。


シンフィールド「あっけないなぁ。オジサンもこうなりたくなかったら降参しな。」


ベッカー「そうしよう。」


シンフィールド「あ?素直じゃないか。そんなにー」


ズドン!


シンフィールドの白いワイシャツ、腹のあたりが赤く染まる。


シンフィールド「お?血じゃないか?」


グラっ


魔女の体が揺れる。が、斧の長い柄で体が倒れるのを支える。


シンフィールド「や、やるじゃないか、アビィを倒しただけはある。」


そこへフクロウ達がどこからか現れて、ベッカー達の前に立ちはだかった。


シンフィールド「どけ、そいつらは、わたしのっ」


血を口から吐いた。


フクロウ「後退する。救護班。」


???「そこまでだ。」


フクロウの後ろ、魔女がもう一人燃え盛る森から現れる。


ベッカー&リュプケ「ドルガ。」


ベッカーの脳裏に幼い日の森で迷子になったことがフラッシュバックする。


黒い帝国軍仕様のコートに白いワイシャツ、長いスカート、長い黒髪の間から両目が黄色く光って見える。


ドルガ「大きくなったな、小僧。今はいいオッサンじゃないか?」


ベッカー「こりゃどうも。」


ベッカー(リュプケ)「やっぱり、お前かドルガ。お前が四天王を作ったな?」


ベッカーの口からリュプケの声が出る。


ドルガ「おぉ、リュプケ、懐かしい。そのとおりさ。シュバルツカッツとゴッドリバーをやったのはお前だろ?」


ベッカー(リュプケ)「正確にはコイツだ。ジョージ•ベッカー。」


ドルガ「いい作品ができたな。」


ドルガはベッカーを舐め回すように見た。


ドルガ「シンフィールド、コイツは私の作品と戦わせる。いいな?」


ドルガは応急処置が済んだ魔女に問いかける。


シンフィールド「ハァハァ……すきに、しな。」


シンフィールドとフクロウはその場から姿を消した。


ドルガ「首都だ。待ってるぞ。」


キューちゃんはドルガに狙いを定めた。ドルガの目が光る。


カッ!


上空の雲を引き裂く落雷。


それに打たれたキューちゃんは、ゲルをそこら中にぶちまけて活動を停止した。


リュプケ「……脳を焼き切ったか、ドルガの戦略魔法だ。」


ドルガは焼ける森へと姿を消した。

いつの間にかドラゴンもいなくなっていた。

燃え盛る森に雨が降り出した。


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