第40話 自分だけ

「『固有魔法』は、実際に確認されている数と、それを扱える人の数が大きく相違していると言われている」


 「固有魔法」に関する知識としては基本的なところだ。実際の固有魔法の数に対して、それと認識されているものの総数は大きく乖離している、とされているわけだ。


 それは術者本人が「魔法」として認知できていなかったり、術者が秘匿していたりと――、様々な要因があるとされている。



「リンツはどう思う? この存在と認知の相違はなにゆえ起こっているのかを?」


「一般的には、1つひとつ異なる固有魔法の区別、第3者的な確認の有無とかが困難と言われています。それゆえアヴァロンは、『固有魔法の言語化』を目標に掲げ、個人の魔法から、広く一般的な魔法への変化・発展を望んでいます」


「ふふ、模範解答だな。だが、『一般的には――』の前置きは……、リンツはそうは思わないと言っているようにも聞こえる」


「はい。先生ではなく、ナハトラさんだから話せますけど、あたしは単に、術者が隠してるだけじゃないかなーって思ってます」


「なるほど、私はリンツの意見を聞いてみたい。詳しく話してくれないだろうか?」


「えっー……と、自分しか使えない――、正確には自分しか使えないかもしれない魔法って、すっごいアドバンテージだと思うんです。言葉を選ばず言うなら『絶対バレないズル』っていいますか……」


 あたしに限らず、誰だってきっと内心同じように感じていると思うんだ。固有魔法の術者の大半はその存在をおそらく公に口にしていない。

 それは他ならぬ「誰にも知られていない」こと自体が大きな価値だからだ。それを広く世のため人のために捨て去るなんて簡単にできることじゃない。


 だから、あたしはここ――、「アヴァロン魔導学院」の優秀さ、権威は認めつつも、学生に課している目標に関しては疑問に思っている。

 ただ、そこは別にして国内の魔法学なら間違いなくトップに位置するため、あたしを含めた多くの学生はそこに惹かれて選んだのだと思うけど……。



「ふふ、リンツはとても正直だな。だが、ずばり言うと、私も同じように思っている。人知れず人を出し抜く術をあえて口外する者が果たしてどれほどいようものか、と……」


「はい……。公にはみんな口にしませんけど、そのように思ってる人が多いんじゃないかなと」

「ならば――、裏を返せば、人知れず『固有魔法』を使っている者も多いのかもしれないな。その独自性ゆえ、魔力を使えど魔法と気付かれにくい」


 そう――、そうなんだ。先日のシルヴァくんやいつかのデイヴのように、人を助けるため惜しみもなく固有魔法を使ってくれる人もいる。

 その一方で、その存在自体を隠してある種のズルをしている人だって絶対にいるんだ。


 少しだけ……、ナハトラさんの意図がわかってきたような気がする。だから――、ダカラ、コノ人ハ早メニ消シトカナイトイケナイ……。

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