第39話 興味

「リンツ、最初に君のことを知ったのは入学式での表彰だ。入学試験全教科満点――、古くからあるアヴァロンの歴史の中でもこの偉業を成したのは君ただひとり」


 最初はやっぱりそれなのか。まあ、たしかに目立つ。過去に誰一人いなかったなんて当時は知らなかったけど……。

 たしかにある程度範囲の決まっている定期テストだって全部満点の人はまずいないんだ。それをどこの出かもよく知れない田舎娘がやってのけたら注目もされるだろう。


 それから――、あたしは別に目立たないようにしたわけじゃないけど、普通に学校生活を送っていた。

 入学当初はなにかと注目されがちだったけど、徐々にあたしが特になんでもない「普通の生徒」と皆が理解していった。


 魔法の腕は中の上か上の下かを彷徨う程度で、学科の成績は大体が中の上。


 「あの入学試験の結果はなんだったのか?」と皆が思うようになって……、なんなら不正とかいろいろあらぬ疑いをかけられたりして――、そうしていつしか忘れられた。


 リンツ・シュバリエは田舎からやってきた普通の目立たない学生――、誰もが「全教科満点」を無かったことのように思い始めた。

 そしてデイヴやラビーみたいな普通の友達ができて学校にも慣れていった。そんな中である種の「異質」であり続けたのが、公爵令嬢ナハトラさんの存在。


 最初に話しかけられたときは心臓が止まるくらいにビックリした。けれど、当時のあたしは時が経てばこの人だって、と思っていた。

 入学試験全教科満点の田舎娘ははてさてどんな人なのか? きっと、そんなおもしろいものみたさで近付いて来たに違いないと思っていた。


 それにしては声をかけられたのが学年最初の学科試験を終えた後、あたしが特に目立たない成績を上げ、「普通」を露呈した後だったけど……。


 ただナハトラさんは時が経ってもあたしの近くにずっといた。他にいるお偉方のご子息ご令嬢とは明らかに違った。見下し、嘲りを感じない接し方で「友人」として居続けてくれた。



「辺境の地にいかな神童がいたものか、と最初は思ったものだ。もっとも、私が君に惹かれたのはその偉業ゆえではない。あくまでそれがリンツを知ったきっかけ」


「あはは……、神童もなにも、次の定期試験の結果は平凡でしたから。妙な注目を浴びなくなってよかったような気もしますけど、まあ……、その『平凡』が本来のあたしでもありますし」


「ときにリンツ、君はこのアヴァロンが掲げる目標のひとつ――、『固有魔法の言語化』についてどう思う?」


 なんか急に話の方向性が変わった。これはさっきまでの話と関係あるのだろうか? それとも、まさか……、ナハトラさんは気付いているのかな? いや、そんなはずはない。だって、あたしのは――、アヴァロンここでは一度だって使っていないんだから。

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