第31話 思わぬ接触



時はゲート発生直後に遡る。





須藤は走り去る高橋と田村の背中を見送った後、ゲートから出てくるモンスター達を粉砕し続けていた。


「えいやぁ!」


グギャァ!


裂帛の気合いと魔力が籠った正拳突きに吹き飛ぶモンスター。既に50は倒したが、止む気配は無い。


「ふむ…やはりゲートの向こうに入り、減らせるだけ減らす方がいいか?」


須藤は考える。

ダンジョンブレイクはゲートの向こうのモンスターが増えすぎて起こる現象。

今のまま少数に魔力を使い続けるのは効率が悪いし、飛び込んで向こうで暴れるだけ暴れた方が時間が稼げるのではないかと。


「よし…」


それがいい。思いたったら吉日。須藤は一度肩を回し、ゲートへと入った。


いつもの暗闇と浮遊感。


ゲートを潜ったときのこの感覚だけは何時までも慣れない。やがて感覚が戻り、視界が開ける。そして須藤が目にしたのは…


「む…?」


何も無い、真っ白な空感だった。


電球の明かり程度の光度で照らされた25m四方の何も無い場所。モンスターどころか草木の1本すらない。さすがの須藤もこれは予想していなかった。


「どういう事だ…」


今までの経験上、こちら側には内包し切れない程のモンスターがいて然るべき…。さっき倒したのが最後だったのか?

いや有り得ない、それならそもそもダンジョンブレイクしない。ならあのモンスターは何処から…


「何がどうなっている…」


須藤が1歩足を踏み出す。その時。


『襍、縺。繧s螂ス縺搾シ』


「なにっ!?」


何処からか聞こえた声。須藤は即座に構え、辺りを見渡す。だが


「何もいない…?」


景色に変化は無い。ならば、スキルか?確か10秒ほど姿を隠すスキルがあった筈…目に魔力を込めてまた見渡す…が、変化は無し。


『繧s螂ス縺搾シ…』


再度の声。たが耳が捉えた音じゃない。これはまるで脳内に直接響く様な…


「何者だ!!」


須藤は声を張り上げた。


『螂ス縺搾シ…I'm…イヤ、これか…』


「…日本語?」


前半部分は不明だが、最後は耳馴染みのする言語。


『あー…あー…この言葉の意味が分かるなら手を上げてくれ』


「……」


従うか、一瞬悩む。だが、少なくとも言葉が通じるのは確定。

しかも、今回の件について何かしらの情報を持っている可能性が高い…諸々を考え、須藤は構えながらも左手を上げた。


『ああ、よかった…この言語が分からないなら奴のいた国じゃない可能性もあったからね』


「何者だ」


『そういうのは、聞いた方が先に名乗るのが礼儀だと前言われたけど、君の名前は?』


「なんだ?私の名前が知りたいのかね」


『いや別に?でもそれなら私も名乗らないでおく』


「…須藤雅俊すどうまさとしだ」


話しながらも、周囲に気を配る。こちらに意志を伝えるこれは明らかにスキルの類。使い手が近くに居る筈だ。


『あぁ、ハズレの人間か…私は驥守坤蜈郁シゥ…そちらの言葉ではそうだな…獣の王を意味する』


「獣の王?」


『そう、獣の王…君達がダンジョンと呼ぶここの…獣達の主さ』


「…なんだと?」


今意思疎通している存在。それがここ池袋のダンジョンの主?何を言っている?


『意外に驚かないね?』


「意味が分からないからね、驚き様も無い…つまり君は、ここの最下層のダンジョンボスか何かかね?」


言っていて須藤は、これが違うと言う事は分かっていた。この池袋ダンジョン最下層のボスは大亀のモンスターだが、このように意思疎通が出来たことなど聞いた事がない。


そして案の定否定された



『ダンジョンボス?…あぁ、階層主の事か、あんなのとは違うよ、そうだな…』


だが、次いで出た言葉に耳を疑った。


『このダンジョンを生み出した存在と言えば分かるだろうか?』


「なに?」


一瞬、頭が真っ白になる。今、なんと?

驚愕する須藤。その様子に気分を良くしたのか声の主、獣の王から直接響く声音が明るくなる。


『ははは!いいね!私はそういった顔を見るのが好きだよ』


「…ダンジョンを作った…?どういう事かね」


辛うじて、言葉が出る。


『そのままの意味さ、君達の世界にこの大迷宮を顕現させたのは私だ…なにせ私の世界ではもう獣達を養えないのでね』


須藤はその言葉を信じていいのかは分からない。だが、この声の存在が少なくともダンジョンに関係しているのは間違いないように思う。

ダンジョンの成り立ち。そして意図。この質問に答えられるかもしれない存在。


頭をフル回転させる。


「君…いや、獣の王、君達の世界とあなたは言ったが、あなたは他の世界の住人なのかね」


『そうだよ、私は別の世界から君達の世界への、侵略者だ』


「ふむ…というと?」


続きを促す。


『私の世界は小さい…規模にすればそちらの世界の1000分の一も無いのでは無いかな、だからもう獣達を養えないのさ』


「なるほど、で…こちらの世界に来たと?…方法は?」


『話すわけないだろう』


方法を話せない。つまり我々でも再現性があるのか…。切り替える。


「残念だ、他のダンジョンもあなたが?」


『それは違う、あれらの全てが他の世界のものであり、1つ1つが独立している…協力はしてるけどね』


「ふむ、つまりは同盟関係だと?」


『そうなるね…所でこちらも1つ聞きたい』


「なにをだね」


質問の予想を立てる。真実を答えるかは別としても、ここでこの対話を終わらせるのは余りに惜しい、答えない選択肢は無いのだ。

奴は侵略者と言っていた。つまりは政治体制、または軍事力等か?


だが問いは、予想したものとは全くの別物だった。


『タチバナ…という男を知っているか?』

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