第23話 とっと帰ろう!


「ひぃ……ひぃ…」


「豚、遅いですよ」


はい、現在3層。俺は通路を豚に案内させながらギリギリ付いてこれる速度で走っている。


のだが…


「もう無理です……」


それだけを発してその場に座り込む豚。なんだァ?こいつ


「情けないですね…それでも男ですか?」


「ぜぇ…ぜぇ…いや…橘さんは…レベル高いから……」


「……はぁ…」


溜息でるわ。モンスター普通にいたから死体も捨てさせたし、こんくらいならレベル関係なく走りきれるだろ…じじいの修行のが100倍キツかったぞ。普段なら絶対置いていくんだけど…


こいつ居ねぇと道が分からんからなぁ…


しゃあなしか。


「……10分休憩します、そしたらまた走りますからね?」


「た……助かります…」


それだけ言って豚は後ろに倒れ込む。


衣服が汗で張り付き、額からも雫が滝の様に伝っている。


周りの警戒はしとけよな…使えん…


豚の代わりに気配察知を発動して警戒網を敷く。


ただ時間は無駄にしたくないし話でも聞いとくか。


「そのまま休みながら聞きなさい、4層まであとどれ位かかりますか?」


「…うーん、今が半ばって所なので走って30分くらいじゃないですか?」


「そうですか、そこから5層にいくまでは?」


「5層のゲートまでは一本道ですし歩いても2、3分で着きますね、モンスターも出ませんし…ただ扉があって中にボスモンスターがいますよ」


あぁ、いたなそんなの


言われて思い出したが池袋ダンジョンは脱出ゲートのある前の階層に必ずボスモンスターといわれる強力な個体がいる。


通常のダンジョンにもボスモンスターは出るが、基本的には10層区切りで出てくる為結構イレギュラー。


そのせいで中々脱出ゲートに行けず、奥に進みにくくなっているのが池袋を高位ダンジョンである理由の一つ。


ちなみに橘ダンジョンはボスモンスターは5層以降ランダムで出るぞ。


「ボスモンスターは何でしたっけ?」


「フロストベアですね、冷気を纏った攻撃で防具ごと凍らして砕いてきます」


「強さは?」


「自分一人だとキツイですが、まぁ同じレベルの奴が3人もいたら余裕もって倒せるくらいです」


「そうですか」


なんだ、雑魚かよ。


豚レベルなら何人いようが夜桜ピュン!で終わらせられるからボスも期待出来んな。


「素材で期待出来るものはありますか?」


「一応3000円にはなる魔石が出ますよ、あとは傷さえないなら皮が確か…2万円くらいで売れたはずです」


「え?2万ですか?」


本当なら稼ぎとしては美味しいぞ?傷つけないだけなら首へし折るだけだし。


「はい、ただ傷付けずに倒すとか難しいし皮とか剥ぐのも専門技術いりますからね」


「なるほど…一応聞きますが豚は皮剥ぎは?」


「多少はいけますが売れるレベルは無理ですね」


そっか。じゃあ無理だな、俺も皮とか剥げないし。


「では魔石だけ取って帰りましょう…そろそろ10分です、行きますよ」


「うっす……ってえぇ!?絶対10分は経ってないですよ!」


「私が10分と言ったらそれが10分です」


「えぇ…独裁者…」


「うるさいです、早く立ちなさい」


「あでっ!」


豚を蹴り飛ばして立たせる。


そしてまた走り出して、偶に出るモンスターを蹴散らしつつ俺達は4層を目指した。







池袋ダンジョン4層







「かなり早く着きましたね橘さん」


「………チッ」


くそが。


俺達は今ゲートをくぐり、1層の造りと似た空間にいる訳だが俺はどちゃくそに不機嫌だった。理由はこの豚を担いで走ったから。


あの後走り出して最初の10分は良かったのだがこの豚、またもや倒れ込んだのだ。


さすがに2回目の休憩は許せんので、蹴りを入れたり踏んだりしてみたがそれでも動かない。


かと言って俺も道分からんから放置する訳にもいかんし悩みに悩んだ末、背に担いだ。


だがそれが過ちだった。


この豚野郎、呼吸が荒い癖にやたら髪の匂いを嗅ごうとするわ変なとこ触ろうとするわ、オマケに汗でぬっちゃぬちゃ…最悪だったね。


「……次あんな舐めた真似をしたら殺しますからね?」


「え?舐めた真似ですか?よく分からないですが、気をつけます」


「…チッ」


豚の汗のついた手を袴で拭う。帰ったら道着も袴も捨てるしかないわ。


あーくそくそくそ。


「早く行きますよ豚!扉を開けなさい!」


「あ、はい!」


目の前の巨大な扉を豚に開けさせて中に入る。


「うわ、汗かいてるから寒…」


「……」


吐く息は白く、霜の張った石室。業務用冷蔵庫くらいキンッキンに冷えてるな。


バタン!


扉が勝手に閉まる。


直後淡く青色に発光する壁と床。

それらが20m四方程の部屋を照らし、真ん中にいるボスモンスターの姿を映し出した。


グルルル……


こちらを視認して立ち上がり威嚇する白い熊、こいつがフロストベアか…


夜桜を抜く…ただ、なんというか


ホッキョクグマやんこれ。


テレビで昔みたそれを爪だけやたら長くしたらコイツになるぞ。


「橘さん、そいつの爪と牙は破壊力があるので受けちゃダメですよ」


豚が聞いてもいない事いってくる。

いや、関係ないから。


俺はそのまま無造作に歩いて瞬歩でフロストベアの後ろへ移動、そして


「終わりです」


ガァ!?


そのまま首を跳ね飛ばした。

ゴロゴロと転がる首、普段なら一応検証とかもするけどさ?豚のせいでイライラしてるのよ俺、はよ帰りたい訳。


「うわ、もう終わった……」


豚の言葉には反応せず、フロストベアの腹に一閃、臓物が飛び出る。


「豚はその死体から、魔石を取り出てから後を追いなさい…私は先に5層へ行き、脱出ゲートを確認してきます」


「分かりました!」


返事を聞いてから袖口で夜桜を拭い、俺は5層のゲートをくぐった。






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