第8話 猫吸い失敗のシュトーレン
オランジェットは、私をシュークリームから優しく取り上げた。
「おー、久しぶり!すごい盛況じゃん。来て良かったぜ」
シュークリームがそう言いながら笑う横で、シュトーレンが悔しそうな目で私のことを見ている。撫でるタイミングを逸したのだろう。
「こちらこそ、お前が行く先々でイベントを周知してくれて助かった。かなりチラシもばらまいてくれていただろう?本当に感謝する」
「何をかたいこと言ってんだよ、友達だろ!それより……」
シュークリームは声を潜めてオランジェットに耳打ちした。
「伯爵家の美術品をかなり売り捌いているな?盗品じゃないかと一部界隈で騒ぎになっていた」
「そうだ。もう察しているだろうが、うちは火の車だよ。使用人の給料と今回のイベント費用捻出のために、これまでにない規模で売り捌いた」
「俺に言ってくれれば融通したのに……」
「個人でどうにかできる話じゃなくなってるんだ」
2人が大切な話をしている間、私はずっとオランジェットに抱っこされていた。甘んじて受け入れましょう。心地良いです。
そして、見目麗しい二人の男子が至近距離で囁き合う様はなんて倒錯的で美しいんでしょう。神々しくて自然と手を合わせて拝んでしまう。猫もドライアイってあるのかな? おかしいな、目がヒリヒリして来たわ。
「シュトーレンも、今日は来てくれてありがとう。」
「俺は走りたかったから来たんだ! これっぽっちの距離じゃ走りたいないから、制覇するぞ!」
わはは!と大きな声で快活に笑う。狙いはマラソンでなくスイーツだろう。彼は甘いものが好きなことも秘密にしている。相当甘味を摂取しているだろうに、全て筋肉に変わるのだろうか。なんて羨ましい!
「またな、ネコチャン……」
シュトーレンがさり気なさを装って私に触れようとしたが、オランジェットは私を抱き直して阻止した。
「楽しんでくれ、2人とも」
嘆き顔のシュトーレンたちを横目に、私とオランジェットとキャンディはその場を離れた。
再びキャンディと二人で会場内を点検する。人力車は黄色をベースにして、花や緑で飾り付け、ピール領の伝統的紋様を施した布を傘部分にあてがっている。リゾート地にぴったりの原色で、海と空の色に良く映えた。
そこかしこで屋台や音楽が演奏され、大変賑やかだ。みんなが楽しそうなのを見てじんわりと嬉しくなる。
そこへ本部からの伝令の精霊が飛んで来た。淡い緑が透けたようなトンボの姿をしており、最高時速百kmを誇る。
「てぇへんだ! てぇへんだ! ムース様! スイーツが足りねぇ! 全然足りねぇ! 本部へ戻ってくれ!」
「全然足りない? どういうこと?」
「行きましょう、ムース様! 失礼します!」
キャンディは私を抱きしめると、左足で地面を強く蹴り上げた! 体は高く宙に浮き上がり、ふわりと着地する。群集が私たちに拍手した。浮遊感がたまらなく気持ち悪いが、我慢だ。それを何度か繰り返して街中にある本部へ到着した。
「あぁ、ムース様! いま連絡が入ったんですが、人力車用のコースのスイーツが大量になくなっているんです! しばらくはもちますが、これでは午後からの部に間に合いません!」
「原因は?」
「それが、誰かに食い荒らされているようで……」
「原因を探るのと同時に、スイーツも用意し直しましょう! なくなったスイーツはどこのお店で何個足りないの?」
ひとつひとつチェックしていく。キャンディや他の人たちに指示を出しながら、食い荒らすってなんだよと思い当たる節がないか頭の中で探していく。
そこへ、先ほどマラソンを終えたばかりのシュークリームとシュトーレンが、オランジェットに会いにやって来た。
「どうしたんだ?騒々しいな」
(つづく)
☆あとがき☆
次回、シュトーレンが大活躍!
「宮殿から飛びだせ!令嬢コンテスト」へ応募しております。
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