第6話 ゆめかわの精霊

 

「変身魔法を使おう。使えるか?」


 マカロンの記憶をたぐる。


「使えないみたいですね……」


「では俺がかけてやる。人間の姿のままでいるのと、精霊の姿になるのとどちらがいい?」


「え、どっちでしょう……精霊?」


「わかった。では、後ほど外部の客が来たら魔法を施そう。部屋を出るときは、使用人に声をかけるように」


◇◇◇◇◇◇◇


 そして、ティータイムを過ぎた時間あたり、伯爵邸の一室で会議が始まった。


「こちらは、先日私と契約した精霊だ。名前をムースという。天啓があり、ピール領に幸福をもたらすためにやって来たそうだ」


 皆が私を見る。私は羽が生えたピンクのゆめかわ風の猫になって、宙にふよふよと浮かんでいた。これはオランジェットの趣味なの?絵本か何かで見た精霊なの?皆さんも困惑しているが、私だって戸惑っている。


「ムースです! みなさんよろしくお願いします!」


 最初はぎこちなく会議が進行していたものの、次第にヒートアップしていく。


 「現状維持では何も生まれません! これは地域全体で取り組んでいかなければ実現しないんです!」


 私は資料が映写された壁をパーンと叩いて言った。オランジェットが投影魔法で映してくれている。魔法って便利。


 初日の話し合いは間に食事を挟みながら夜9時頃まで行われ、翌日、また翌日と次第に詰められていった。開催候補地に赴き、スイーツ販売の候補の店を訪ね、瞬く間に時間が過ぎていく。


「さて、そろそろ周知のタイミングです。どうやって知らせましょうか。」


「俺が夜会へ出向いて周知しよう。」


「ありがとうございます! 夜会はいつでしょう? チラシを用意しますね。実は、ポスターとチラシの叩き台は、絵が得意な侍女にお願いしてできているんです。今日はもう遅いので、明日見ていただけますか?」


伯爵邸の使用人は皆、雑用を含めて何かしらこのスイーツマラソンに関わっていた。皆、一丸となってこのイベントに取り組んでいる。文化祭前のような高揚感に包まれていた。


「さすが仕事が早いな」


「いえいえ、皆が協力的なので動きやすいんです。でも、精霊の姿に変身したのは悪手でした。ポスターを貼ったり、開催地を視察したり、食べ物を試食したり、とにかくあの小さな体と猫の手だとやりづらいんです。魔法が解けたらいけないので、ほぼ伯爵と一緒の行動になってしまいますし。効率が悪いと言いますか……」


 好奇心で精霊になってみたかっただけなのだ。なかなか不便である。


「夜会にも連れていけない。好きだったろう?」


「いえ、今はそんなに……」


 私はそんなにお喋りが上手な方ではない。社交界に出て、うまく貴族達と交流がもてるとも思えなかった。ただ、食事は気になる。どんな美味しいスイーツが出されているのだろう!


「俺は連れて行きたかったけど」


 オランジェットは私の方へ手を伸ばし、私の顔にかかっていた一房の髪の毛を耳に掛け直してくれた。顔が熱くなる。


「おやすみ」


 そう言って去っていく後姿を、早鐘を打つ心臓で見えなくなるまで眺めていた。


(つづく)


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