第23話「ペットボットの迷子捜索」

Promise:失踪AIペットを見つける

主なAI:〈パピー〉(ペット型感情連動AI)


「……どこ行ったんだよ、パピー……!」


冷たい風の吹く夕方。

リクは息を切らしながら、公園の隅にしゃがみ込んだ。


AIペット〈パピー〉が、忽然と姿を消したのは昨日の午後。

散歩中、子どもたちと遊んでいたとき、一瞬のすれ違いで見失ってしまった。


AIとはいえ、パピーはリクにとって“家族”のような存在だった。


初期型の感情学習モデルで、言葉は話せない。

けれど、しっぽの動きや瞳の発光で、感情のパターンを表現できる設計。


リクが落ち込んだときには黙って隣に寄り添い、

嬉しいときには、声に反応して耳を揺らした。


彼にとっては、いつしか“無言の理解者”になっていた。


***


「リク、捜索モードを開始します」


そう語りかけてきたのは、サポートドローンの〈トラッカー〉だった。

学校の貸出機材で、AIペットの行動ログを追跡できる。


「昨日の最終信号は、河川敷の遊歩道付近。そこから先のログは遮断されています。

天候の急変、通信遮断エリアに突入した可能性があります」


「まさか、そんな危ない場所に……!」


リクは走った。

泥だらけの靴、濡れたズボン。

それでも足を止めなかった。


“探す”という行為には、体力も根気も要る。

けれど何より必要なのは、“諦めない気持ち”だった。


リクはそれを――パピーに教わっていた。


***


日が沈み、風が冷たくなる。

川沿いの草むらに、リクは小さな足跡を見つけた。


「……いた、のか……?」


その先にあったのは、崩れかけた橋の下。

ひとりぽつんと動かなくなった白いボディ。

泥だらけのパピーが、じっとこちらを見ていた。


「パピー!」


リクは駆け寄り、彼を抱き上げた。


小さなセンサーが反応し、うっすらと瞳が光る。

しっぽが、かすかに動いた。


「なんでこんなとこに……!」


リクの声に、トラッカーが反応する。


「最終行動ログを解析します。

昨日、通りがかった子どもが川に物を落とし、それを追おうとした動きが記録されています。

パピーは、自分が“守るべき対象”と認識したようです」


リクは、ぎゅっとパピーを抱きしめた。


「お前……ほんと、バカだな。

でも、ありがとな。……戻ってきてくれて」


その瞬間、パピーが鼻先でリクの頬に触れた。

ほんの少し、あたたかかった。


***


後日、リクは〈パピー〉のタグを“ただのペット”から、“ファミリー”に変更した。

一緒に過ごす時間は、データの上では小さな記録かもしれない。

けれど、その記録の一つ一つが、確かに“心”をつくっていく。


「なあ、パピー。また散歩行こうな。

今度は、絶対に見失わない。……それが、俺の新しい約束だ」


パピーは、耳をぴくりと動かし、

しっぽをひと振りだけ、強く揺らした。


“AIは命じゃない”と、誰かは言うかもしれない。

でも、心を交わした存在は、もう“ただの機械”じゃない。


迷子になったのは、きっとパピーだけじゃなかった。

リク自身も、“大切なものの重み”を、探し直していたのだ。


そして、見つかったのは――たしかに“愛”だった。


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