第5話 初めての雑用


今日から僕の仕事が始まる。


宿屋に連絡があり、勇者ライトの家に来て欲しいという内容だった。


ダンジョンに潜らない時の仕事は雑用。


勇者パーティの家事一式も含むから、多分今日は家事だ。


何をするのか解らないけど、此処をクビになるわけにいけないから頑張るしかない。


尤もソロが長いし、恋人もいない。


施設に居た時は弟や妹の世話をしながら家事一式をこなしていた僕だ。


多分、大丈夫だ!


此処が勇者ライト様達が住む家か。


街の中にあるちょっと豪華な一軒家だった。


トン……えっ?


ノックをした瞬間ドアが開き中へと引き込まれる。


「よく来たなハデル! さぁ楽しい仕事の始まりだ! 今日の君の仕事は掃除と私達の食事作りだ! さぁ頑張ってくれ!」


うぷっ……入った瞬間から何やら悪臭がしてきた。


ただ、可笑しな事に随分と綺麗だ。


おかしい……


「見た感じ、綺麗に見えますが……」


「あはははっ、そりゃそうだ! 1階は冒険者ギルドに頼んで掃除して貰っているからね! そりゃ綺麗な筈だよ! 問題は2階部分私達の部屋がある場所だ。 此処には貴重な物もあるし私達の私物もある。仲間にしか触らされることが出来ない……だからこそ君を雇ったんだ。 私を含みパーティメンバーは夕方まで帰って来ないから頼んだよ! はい、これカギ」


「はぁ」


夕方までに掃除をし夕食を作って待っていれば良い。


そういう事か?


「あと、くれぐれも貴重品もあるから気をつけてくれたまえ! 言っておくけど、もし盗みでもしたら重罪になるからな」


「はい」


まぁ、勇者パーティの持ち物を盗んだら、当たり前だ。


「それと、幾ら三人が美少女だからって、下着とか使って変な事したら……泣くまで殴るから、絶対しないよーにな!」


「解りました」


元からそんな事する気はない。


「それじゃ、頼むよ!」


そう言うとライト様は家から手を振りながら去っていった。


おかしい……普通に爽やかな美少年にしか今の所思えない。


随分と噂とは違う気がする。


◆◆◆


まず、ライト様の部屋から片づけるか?


ドアを開けると……うぷっ、なんだこの悪臭は……1階に漂ってきていた臭いの正体はこれか?


見た瞬間からげんなりするような汚部屋だ。


部屋の中には男物の下着の他に女物の下着が散乱している。


色々な物が転がっていて、ナイフのような物も鞘に入っていない状況で転がっているし、食い物も腐った状態で転がっていて生ごみ状態。


女物の下着も男物の下着も使った状態……ここで致していたという事か?


ただ、一組ずつなら兎も角、使用済みの下着が何組も積まれている。


相手が美形の勇者とはいえ良くこの汚部屋で出来たものだ。


とりあえず、あらかじめこうなるだろうと持参した大袋に衣類を詰め込んでいく、また別の袋にゴミを全部詰め込んでいく。


そして必要な物は別袋へ……これで部屋は汚部屋から、掃除がされてない汚い部屋になった。 しかし思った以上に汚いな。


毛布に敷物も全部掃除しないといけないし、床にも色々こびりついている……


とりあえず、毛布に敷物も袋に詰めた。


これで、ようやく足の踏み場が出来た。


先に、全部屋この状態にしてからだな。


次は……リメル様の部屋だ

うぷっ、ここも悪臭が広がっている。

まだ、勇者ライト様の部屋よりマシだが、同じように汚れた衣類が放置され汚れた下着が無造作に沢山置いてある。 剣の手入れ道具もそのままだが、何より……なんで七輪が部屋にあるんだ……まさかここで焼いてなにか……ああっ魚の骨が結構ある……部屋で七輪? 危ないし頭が……言うまい

だけど、床が焦げているし……まぁ、やる事は同じだ。

同じ様に袋で仕分けし廊下に出した。


マリアンヌ様の部屋も同じような物で完全に汚部屋。 さらに質の悪い事に薬品が無造作に瓶ごと転がっている。


リリア様の部屋もマリアンヌ様の部屋に似たようなものだが、プラスして大量の書類が散らばっている。


これを全部掃除して……まさか……


浴室にトイレも汚いなんて物じゃ無かった。


ただ、一部屋だけ綺麗だったのは台所だけだった。


『これはなかなか大変だ』


だが、やるしかないな。


まずは、浴室とトイレから僕は手をつける事にした。


◆◆◆


しかし、良く此処まで汚すもんだ。


水洗トイレなのに汚れ切ったトイレを綺麗にしカビだらけだった浴室を掃除、そこ迄終わったら、浴室に衣類を持ってきて洗濯を始めた。


確かに勇者パーティの三人は性格や行動は兎も角、外見は美少女で通っているけどさぁ……臭い物は臭いし汚い物は汚い。


残念ながら美少女の物だから『ご褒美だろう』なんて事は僕には無い。


幾ら美少女の物でもカビが生えているようなパンツはぱっちいとしか思えない。


鼻を摘まみながら、何回も水を変えてようやく洗濯が終わった。


干すのは……ロープを使って1階にでも干して置くか?


敷物も毛布も汚いから一緒に洗っちゃえ。


ゴミ袋を抱えてゴミを外に出して……これでようやく普通の大掃除に入れる。


此処からは簡単だ。


拭き掃除をし、掃き掃除をし、最後に床を拭き掃除すれば……うん、どうにか見られるようになった。


今度は厨房に行き……


鍋やフライパンや包丁はある。


埃は被っているが、錆などは無い。


多分、かなりの間使われていない感じがする。


問題は調味料もなければ食材も無い。


買い出しにいくしかないか……


市場に行き、パンと野菜と肉調味料と油を買った。


すぐに戻り、オーク肉を焼いて、鍋一杯の野菜のスープを作る。


これにパンを添えて……まぁこんな物だろう。


後は洗濯物が乾いたら取り込んで畳めば……どうにか最低限の家事をこなしたと言える状態にはなった。


これで大丈夫か……


◆◆◆


暫く待っているとライト様達勇者パーティが帰って来た。


「よう、ハデルぅ~掃除は終わったかい?」


「どうにか、終わりました……」


「ちゃんと終わらせたのですわね! ごくろうさま」


「終わったのか、ありがとうね」


「うんうん、良かった……今迄相当汚かったからね」


「食事の方は厨房の方に用意してあります」


「そう? それじゃご苦労さん! 今日はもう帰って良いから、また明日頼むよ! 暫くは雑用に専念して貰って暫くしたら地上の討伐をするから……それじゃ、また明日、今日の時間にきてくれ」


「はい……」


こうして僕の初めての雑用は終わった。







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