第一章:古の観測と迫る影

 星詠みの末裔と忘れられた観測所


 日誌を開くと、そこには几帳面な文字で、天体の運行や魔力の流れに関する詳細な記録が綴られていた。


 著者は「アストライア」と名乗る人物で、どうやら数千年前に存在した「星詠みの一族」の者らしい。


「これは……」


 エルフリーデは息をのんだ。


 日誌には、かつて世界を未曾有の危機に陥れた「大いなる災厄」――古代文献に「闇喰らいの蝕」と記される現象――に関する記述があったのだ。


 そして、その災厄の前兆とされる特異な天体現象や、地脈を流れる魔力の異常な変動パターンが、克明に記録されていた。


 読み進めるうちに、エルフリーデの背筋に冷たいものが走った。


 日誌に記された災厄の前兆が、最近彼女の周囲で起こり始めている不可解な現象と酷似していたからだ。


 夜空には不吉な赤色の星が瞬き始め、各地で魔物が凶暴化し、原因不明の天候不順が続いていた。


「まさか……あの災厄が再び?」


 彼女はいてもたってもいられなくなり、学園長や有力な教授たちに警告して回った。


 しかし、返ってきたのは嘲笑と無視だった。


「ヴァイスハイト家の落ちこぼれが、また突拍子もないことを言い出したぞ」

「古代の妄想に取り憑かれたか。魔法の才能がないからといって、気を確かに持て」


 彼らにとって、エルフリーデの言葉は、才能のなさを奇矯な行動で誤魔化そうとする者の戯言でしかなかった。


 しかし、エルフリーデは諦めなかった。日誌には、アストライアが災厄を「観測」し、その本質に迫ろうとした「忘れられた観測所」の場所が記されていたのだ。


「そこに行けば、何か手がかりが見つかるかもしれない」


 彼女は誰にも告げず、学園を抜け出す決意を固めた。


 最低限の食料と、そして何よりも大切な「星詠みの観測日誌」を携えて。

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