第40話 解錠師、闇に呑まれる。

「ペロコ、二人を頼む」

 

「わんっ!」


 ペロコが高速で移動し、アルシェとシトラスの二人を救出。二人の元に駆け寄り、異常がないかを確認した。


「……ダークネスの『精神操作魔法』がかけられておるな」

 

「精神操作魔法だって?」

 

「うむ。深淵ノ覇者ダークネス・ザ・ロードは『闇属性魔法』と言ってもいい特性を持っておる。故にヤツは『闇』を連想させる事象に干渉することができるのじゃ。例えば『心』や『記憶』に付随する、『黒』や『影』とかな」


 アイザが言うには、深淵ノ覇者ダークネス・ザ・ロードは『闇』にまつわる事象を操ることができると言う。

 

 中でも『最新操作魔法』は、他者の「〇〇の力になりたい」「〇〇に恩を返したい」という想いを反転させることで、相手を深い眠りに閉ざし、その中にある『罪悪感』という闇に沈める──とのことだった。


「じゃあ、この二人は目を覚まさないんですの?」


 エリスの質問に対しアイザは首を振って否定する。


「我の持つ特殊能力ユニークスキル【獄炎】。このスキルは他者にかけられた持続型の魔法を完全に抹消することができる……じゃが、時間がかかる。負けるつもりはないが、アレでも厄災ディザスターじゃからのう」


 アイザはそう言うと、二人に手を伸ばして特殊能力ユニークスキル【獄炎】を発動する。

 すると、二人の体に黒々とした炎が燃え上がった。

 

 アイザいわく、この炎はかけられた魔法のみを焼き尽くすスキルのようで、アルシェとシトラスへの身体的ダメージはないらしい。

 これで二人が目を覚ましてくれれば……。


 そう思っていると、吹き飛ばされたガレスが起き上がり、膨大な魔力を放出させて吠えた。


「クソが!! ロックのクセに四属性魔法を使ってきやがって! どんなインチキを使ったんだ? おい!!」


 ……さっきの攻撃を受けても無傷だって?

 俺はここで、はじめてガレスを警戒する。

 

 するとガレスは膨大な魔力を一点に集中させて、俺に向かって投擲とうてきしてきた。


「俺はお前みたいなインチキ野郎には負けねぇ……! 俺はお前に勝って、すべてを手に入れるんだああああああッ!!!!」

 

「ッ!」


 バリオスの攻撃かと見紛みまがうほどの速度で投げつけられた魔力の塊。

 以前までの俺なら避けられなかっただろうが、今の俺なら対処可能だ。


 エリスにバリオス、モアといった天災セレスターといった強大な力を持つ冒険者と戦い。

 全属性オムニエレメント、そして【解錠師】としての力の覚醒。


 それらのおかげで、厄災ディザスターの力を得たガレスの攻撃も、たやすくかわせる筈だった……だが。


「ぐッ……!?」

 

「わう!?」

 

「ロック様!?」


 手を伸ばし、ガレスを【施錠ロック】しようとした瞬間、俺の体は縛り付けられたように動けなくなり、ガレスが放った攻撃が直撃した。

 

 するとその瞬間、ガレスの魔力が俺を包み込みはじめ、怒りや憎しみといった感情が、俺の心の中を蝕んでいった。


「う、うわあああああッ!!?」

 

「ロック!? ──ダークネスッ! 貴様いったい何をした!?」


 ガレス自身の魔法やスキルではないと見抜いたアイザが、その背後に浮かぶダークネスの名を叫ぶ。

 

【フフフ……単純な話ですよ。その少年の『心』にある『闇』を利用したのです】

 

「なんじゃと……!?」

 

【彼の心の中に差した闇。これは私がこれまで感じたことのない強い闇です。普通の人間なら、その闇に呑まれて命を落としてもおかしくはないほどに深い闇……。しかし彼は、その『闇』にのか、今の今まで自我を保つことができていたようです】


【──ですので、私は本人が気付いていない、目を向けようとすらしてこなかった『闇』を本人に自覚させるように仕向けさせていただきました】


 心の奥底から湧き上がってくる膨大な負の感情。

 まさかこれが、俺がこれまで心の奥底で溜め続けた『闇』だと言うのか……?


 そう思った直後、俺の頭に浮かんできたのは、王都にいたときの辛かった記憶だった。


 

『──何が解錠師だ、気味が悪い』

『他所から来たくせに、何が王選冒険者だ』

『大して強くないクセによ』

『お前をパーティに?魔法も使えない役立たずなんかいらないんだよ!』

『ザコが、調子に乗ってんじゃねーよ!』

 


 ……そうだ。俺はキー師匠と離れてアルマ国王に認められ、王選冒険者になったんだ。

 

 けどそれは、アルマ国王と知り合いだったキー師匠がいたからで、俺自身が認められたワケじゃない。


 そしてそれは、街の人たちも同じだった。

 他所から来て間もない子供が、突然「王選冒険者になりました」なんて……。誰も信じてなかったし、誰も俺を認めようとはしなかった。


 だから俺は、街の人たちに信じて貰えるようにと【解錠師】のスキルを使って頑張ったんだ。


 それからしばらくして、ガレスが俺を見つけパーティに入れた。

 【猛獣の牙】の一員として、俺はパーティメンバー達に認められるようにと腕を振るってきた。


 だが、ガレスたちは俺を認めなかった。


 

『役立たずのロック! お前を【猛獣の爪】から追放する!』

 

『お前みたいな鍵開けるしか脳のないゴミは必要ないんだよッ!!』

 


 ──今まで、心の奥底で閉じ込めていた黒い感情たちが。これまで吐き出されてきた黒々とした言葉の毒が、封印されていた記憶の箱をこじ開けて俺の心の中を満たしていった。


 ダークネスの発動した魔法が、次第に俺の体を包み込んでいき……気がついたときには、目の前が真っ暗になっており、俺は深い眠りについた。


 

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