第36話 解錠師、ペロコから真相を聞く。

 モアの言動にやや引き気味になっていると、彼女とは裏腹に焦燥した様子もみせないバリオスが静かに口を開いた。


「そこの二人が厄災ディザスターなのは気付いてたさ。魔力抑えていても『殺気』だけは抑えようがねェからな」

 

「……貴様。さては我らが本当に厄災ディザスターなのかどうか確かめるために、先んじてロックを狙いおったな?」


 アイザの質問に対し、バリオスは「どォだかな」としらを切った。

 バリオスのこの反応……もしかして彼は、過去に厄災ディザスターと対峙したことがあるのだろうか?


「まァ、重要なのはそこの二人が厄災ディザスターってことじゃねェ。俺が問題視してンのはテメェだよ、ロック」

 

「……俺か」


 ああ、やっぱりそこに戻ってくるのか。

 ツッコまれるとは思っていたけどさ。


「先に言っとくけど、俺は別に厄災ディザスターの封印を解錠アンロックしてないぞ?」

 

「正直に話せや」

 

「アイザだけ解錠アンロックしました」

 

「いやしてるじゃないっスか!! なんでウソついたんスか!?」


 泣き顔でメソメソしていたモアがツッコミを入れてくる。顔色ころころ変わったり到達に声あげたり色々と面白いなこの子。たぶんこの子は伸びるな。うん。


 ……なんて現実逃避をするが、バリオスからの突き刺すような視線からは逃れようがなかった。


「いや、ちょっと待ってくれ。確かに俺はアイザの封印を解錠アンロックした。それは事実だ。けど本当にアイザだけで他の厄災ディザスター解錠アンロックしていない!」

 

「じゃあ、なんでそこにもう一匹の厄災ディザスター── 魔獣神王ジゴクノバンケンがいるンだよ?」

 

「それは……」


 

 ……わからない、としか言いようがなかった。

 

 エリスが言うには、勇者が厄災ディザスターにかけた封印はかけた勇者本人の「解錠魔法」か、もしくは解錠師のスキルでなければ不可能なのだと言う。


 そうなると、世界に二人しかいない解錠師の中でも、厄災ディザスター二体を連れている解錠師が疑われるのは当然の流れだった。


「……『わからない』で話が済むンなら、俺たち天災セレスターはいらねェンだよ、ロック」

 

「……」


 バリオスから睨まれ、俺はつい後ろへと下がってしまう。

 彼の怒りはもっともだ。だが俺だってウソをついてるワケじゃない。

 けど、疑われるのも当然であることはわかるし……。


 言葉に窮していると、俺やアイザたちをジッと見つめていたモアが急に口を開いた。


「あの、バリオス先輩」

 

「……チッ。何だよ」

 

「バリオス先輩の言うことはもっともだし、勇者さまが命をかけて封印した厄災ディザスターの封印を一人解除してる時点で、ロックさんが疑われるのも当然なんスけど」


 

「モアは、ロックさん達がウソをついてるようには見えないっス」

 


 モアはそう言うと、蝶々を追いかけ回しているペロコの方を見ながら、こんなことを聞いてきた。


「アイザさん。ロックさんから封印を解除されたのは事実なんスか?」

 

「まぁ、そうじゃな」

 

「では……ペロコさん」

 

「わぅ?」


 

「ペロコさんの封印を解除したのはロックさんですか?」

 


 モアの質問に対して、ペロコは首をぶるぶると横に振った。


「ほら! やっぱりロックさん達はウソをついてないっスよ!」

 

「馬鹿かテメェ!? そンなモン向こうが話を合わせてりゃ意味ねェだろォが!!」

 

「あんな可愛い子たちがウソつくワケないじゃないですか!! 先輩はそんなだからモア以外の女の子だれも相手してくれなくなるんスよ!!」

 

「なんだとテメェ!!」

 

「なんスか!?」


 そのままギャーギャーとケンカを始める二人。

 拘束されたままなのに元気だな……。


 けど、モアの質問は完全に盲点だった。

 ペロコはもう前までのペロコじゃない。それに難しい話はわからずとも「封印を解除したのは誰か?」については聞くことができる。

 俺は寝転がってるペロコに、モアがした質問をしてみた。


「なぁペロコ。ペロコも長いあいだ封印されてたんだよな?」

 

「あいっ!」

 

「じゃあさ、ペロコの封印を解除したのは誰だかわかるか?」


 質問すると、ペロコは起き上がって考え込むように腕を組む。

 そして拙い言葉と、手や腕を使って身振り手振りで必死に伝えようとしてくれた。


「ふういん! あんろっく! ちがう!」

 

「封印……解錠アンロック、違う?」

 

「あいっ! ふういん! きづいたら! きえた! だからそと! でた!」


 封印 気付いたら 消えた。

 だから外 出た………………、ん?


「ってことは……ペロコの封印を解錠アンロックしたのは、キー師匠でもないってことか?」

 

「あいっ! きー? は、しらないっ!」


 腕や手だけじゃなく、尻尾のヘビも使って必死に伝えようとしてくるペロコ。

 難しい話をして頭に血が上ったのか、わずかに顔が赤い。

 無理をさせすぎたな。ごめんペロコ。


 けれど。ペロコのおかげでハッキリしたことがある。


 

「バリオス。俺は確かにアイザの封印を解錠アンロックした。けどペロコの話を聞く限り、ペロコの封印を解錠アンロックしたのは俺じゃない」

 

「……その話を信じろって言うのかよ?」

 

「そうなるな」

 

「ふざけンな、そンなモン信じられるワケが……!」


 なおも食い下がろうとするバリオスに対し、珍しく口をつぐんでいたエリスが大きなため息をついた。


「ごちゃごちゃとうっさいですわね〜……。アナタそれでも天災セレスターですの? ロック様がやってないって言ってるんですから、黙って受け入れなさいなッ!!」

 

「うるせェ! テメェが天災セレスターを語ってンじゃねェよ!! つかテメェなんで厄災ディザスターどもと一緒にいる!? 裏切るつもりか!?」

 

「馬鹿言わないでくださる? わたくしはロック様と結婚しましたのっ! だからこうして一緒にいるんですわ! ね〜ロックさまっ♡」

 

「はァッ!?」

 

「ええっ!? エリス先輩いつの間に人妻に!?」


 自信満々に大ウソをつくエリス。

 バリオスの怒りを宥めてくれるのかと思ったら、盛大に燃料をぶちまけただけだった。

 正直もう否定するのも面倒になってきたな……。

 

「ああ、あとそこの厄災ディザスター二匹はペットですわ。わたくしが面倒を見ますからお構いなく」

 

「テメェはさっきからなにを言ってンだ……!?」

 

「誰がペットじゃぶち殺すぞ貴様ッ!!」

 

「ペットが主人に口答えするんじゃありませんわ!! わたくしの方こそぶち殺しますわよ!?」


 ──それからと言うもの、まともに話し合いをするような空気では無くなってしまったので、とりあえずバリオスとモアもエリスと同じく「俺たちを監視する」という名目で街に住むことになった。


 バリオスからは、


「俺はまだテメェが封絶ノ王エグゾードである可能性を捨てちゃいねェ」


 と釘を刺された。

 まぁアイザを解錠アンロックしている時点で信頼が無いのはわかるが、こうも敵視されてしまうと動き辛いな……。

 

 まったく、誰だよ俺のことを『エグゾードだ』なんて抜かしたヤツは。

 今度会う機会があれば文句を言ってやる。


 

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