この夏を忘れない為に
影葉 柚希
第1話
無人島だと思われていたこの島の中で過ごした時間は誰よりも貴方との大事な思い出、そう語れるだけの時間を過ごした1組の男女のお話。
黒髪に白いメッシュが入っている1人の男、名を直哉と呼ぶ彼は浜辺に座り込んでいるもう1人の遭難者である1人の女、名を夜宵(やよい)と言うが夜宵はぼんやりと寄せては返す波を見つめていた。
無人島に漂着した2人、事の始まりは高校の学校行事である「修学旅行」にて豪華客船に1日乗って都会の夢の度をしよう! とのプランの元でその豪華客船に乗っていた時に事件は起こった。
「おい! 船に穴が開いたって言うぞ!」
「それって大丈夫なのか? あ、救命ボートだ! 乗り込め!!」
「急げ! 沈没するぞ!」
船の中は大混乱、何が真実で何が間違いかの情報確認も行われないまま、船員が救命ボードを出してしまったのが一番の間違いでもあったんじゃないかと直哉は思い出すが、それよりも衝撃が直哉を襲っていた。
隣に一緒にボートに乗る為に並んでいた同級生の夜宵が、混乱を極めた他の乗客の身体に突き飛ばされて2階のデッキから海に真っ逆さまに落ちて行ったのを見たのである。
海に落ちた波紋が広がる前に直哉が遅れて海にダイブして夜宵を腕に抱き上げた、が……潮の流れと船のスクリューでの海水の流れが合わさって、2人は沖へといつの間にか流されていた。
そして、気付けば傍にあったこの無人島に上がって暫く救助のボートが来るのを待ち侘びたりもしたのだが、一向にその気配は見られず。
「……」
「……」
2人揃って沈黙が流れるが、直哉はとりあえず身体を乾かすかと枯れ枝などの燃えやすい材料を集めに行こうとした。それに気付いた夜宵が慌てて立ち上がり直哉の傍に駆け寄り顔を見上げて来ると戸惑いながら言葉を口にする。
「あ、あの……助けてくれて……ありがとうございます」
「ん、いや……夜宵は大丈夫だったか?」
「わ、私は平気です……でも、あんな高い所から落ちるのは……は、初めてで……」
「だよな。でも、無事で良かったよ。怪我もしてねぇなら休んでな。枝とか集めてくるから」
「あ、わ、私も……!」
「風邪引くから動くなよー」
直哉は夜宵の頭をポンポンとして無人島の奥に続く道に入って行った。夜宵はその背を見送って何かを心配しているように見つめていたが、言われた通り風邪を引く訳にはいかないと、浜辺でも風の当たらない場所を探してそこに座って直哉を待った。
直哉の事を夜宵は別に嫌いな訳ではない、ただ、どうして引っ込み思案の自分の事を直哉は身体を張ってまで助けてくれたのだろうか? そう考えるのは至極普通の事だと思っていた。
その頃の直哉は枯れ枝を集めながら色々と考えるべき事を考えていた。この後の救助が来るまでの間に自分と夜宵の体調も心配はある。何より無人島なら食料の心配もしなくてはならない事などの当たり前すぎる事を考えていて気付かなかった。
「あ? げっ、雨かよ!」
ポタポタと頭に落ちて来る水滴に気付いて慌てて浜辺に戻った直哉は、直哉の帰りを待っていた夜宵と合流して雨が凌げる場所を探す。岩場を注意しながら洞窟でもないかと探していると夜宵が見付けてくれた。
2人してその洞窟に入ると干潮だからなのか、それとも満潮でも水が来ないのか。洞窟内は比較的にジメっとはしているが過ごせない程ではない。
「なんとかここなら過ごせそうだ。よーし、火を起こすか!」
「……熾せるんですか……?」
「本で読んだ知識だけれど、やってみる! うぉりゃぁぁぁぁ!」
「……」
直哉の必死な手動での火起こしは時間的に結構な時間が掛かってはしまったが、無事に火種と枯れ枝や枯葉で焚火を熾す事は出来た。
手を擦り合わせながら2人は冷えていた身体を温めていく、それから少しして直哉が今後の事について話しておかないとダメだろうと思い、夜宵の方に視線を向けた時だった。
「……」
「夜宵……眠いのか?」
「……す、少し……」
「火の傍に横になってていいから。俺が見張りしとく」
「で、でも……」
「大丈夫。試験前とか受験の前の今なら徹夜くらい俺余裕だから」
「ご、ごめんなさい……お、おやすみなさい……」
「うん、おやすみ」
火の傍で子猫の様に丸くなって眠る夜宵に直哉も少し落ち着く。
体力の低下は生き抜く為には最も大事なステータスである、そう昔読んだサバイバル関係の小説に書いてあったのを思い出す。
パチパチと音が響く洞窟の中で直哉はただ、純粋にこの状況を楽しむ事もいいかも知れない。そう考える様に気持ちを切り替える。
何事もマイナス思考に陥ってはいけない、それは自分の心を弱くするだけじゃなく、希望すらも奪い兼ねない……そう直哉は思い出す。
そして、時間は少しずつ直哉に試練を与えていく。外の雨の音がやけに大きく響いていくのが気になってしまったのだ。
「大雨、なんだろうが……ここまで酷い音はどういう事だ? 様子見に行くか」
火の勢いを殺さない様に焚火の中に枝をくべてから立ち上がって、洞窟の入口に向かう。豪雨と言っても過言じゃない量の雨の降る外を見た直哉は、つい先程希望を持ったばかりだが既に挫けそうな出来事に見舞われていた。
だが、と自分の心を奮い立たせる。男がこの程度で諦めるな! と自分に活を入れる。
「大丈夫だ……きっと朝には止んでくれる……止んでくれっ」
夜宵には見せれない弱気な自分を殴りたくなるが、それでも少しずつ天気が落ち着きを見せ始めてくると直哉の心も落ち着き始める。
朝が来る前に夜宵の為にも何か食料を手に入れなくては、そう考えて不意に洞窟の奥に続く場所。
その奥に続く道の手前の開けた場所に直哉と夜宵と焚火があるのだが、奥に続く道には満潮のせいもあって海水が上がっていたのは確認していた。
それが、今は干潮なのか水位が下がって小魚が沢山取り残されていた。これ幸いと手で掬い上げた直哉は焚火に枝に突き刺して並べていく。
「おー焼けている焼けている」
「んんっ……ふゃ……いい、香り……」
「夜宵、魚食えるよ。小魚だけれど食べないより食べたがいい」
「お、さか……な……はっ! えっ……えっ!?」
「ははっ、驚くなって。そこの奥に行く道が満潮の時に海水が上がっていたんだけれど、干潮で潮が引いた時に取り残されていたんだよ。身は小さいけれど量はある!」
「……た、食べてもいいですか……?」
「あぁ、食べよう。食べて腹ごしらえしたら今後の事を話し合う時間作ろう。今の俺達は運命共同体だからな」
「……そ、そうですね」
心なしか嬉しそうに見える夜闇は気が抜けたのか焼き立ての小魚をパクっと食べていく。腹が減っては戦は出来ぬと言う言葉を2人は充分に自覚していた。
量だけはあったので取り敢えずの腹ごしらえは出来たが、新しい食料についてなどの事も踏まえて話し合いをする事にした。
「それじゃまず、今最重要問題は「食料」だ」
「は、はい……既に食料も無くなっているから……」
「んで、これから外に出て、漂流物とかで道具に出来る物がないか見て行こうぜ。サバイバル小説の内容を参考にすると……木の棒と糸で釣り竿とか出来るって事だ」
「!!」
「ん? どうした?」
「あ、い、いえ……」
「よし、それじゃ道具集めに行こう」
夜宵が釣り竿と聞いて何故か表情が明るくなったのを気にするが、本人が何もないと言うのであれば、と直哉は深くは聞かなかった。
そして、2人は洞窟から出ると雨だった事もあって色々な漂流物が流れ着いているのを見て瞳を輝かせたのは……どっち?
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