第2話「改稿後」
洞窟から出た2人は雨だった昨夜の空模様から快晴の空を見上げる。
燦々と輝く太陽に、肌が焼けそうだな……と直哉は隣に立つ夜闇に視線を向ける。
「……何か?」
「夜宵は陽に焼けたら肌は赤くなるタイプ?」
「そ-……ですね、痛みはありませんが少し肌が赤くなってはしまいます」
「なら太陽が頑張り始める前に、道具になりそうなのを頑張って集めるとしますかー」
「……おー」
控え目に同意してくれる夜宵に直哉も心なし嬉しくなったが、それを表情にはあまり出さない様にしてから道具集めを始める。
まず岩場に向かうと岩場にも昨日の雨のお陰で沢山の漂着物が残されていた。
バケツが2つに、大きな存在で言うならば古びたクーラーボックスが流れ着いていた。
バケツは穴が底に開いていないか? と確認する夜宵から親指が立てられて大丈夫だと知らされる。
バケツ2個と古びたクーラーボックスを持って移動していると、次に訪れたのは岩場からの続きで入り江に入る。
「ここも何かあればいいんだけれどな」
「そう、ですね……! あ、あれは……!」
「ん? どうした?」
「……ちょっと見てきます!!」
「あ、おい! な、なんだ……あの早い動きは」
夜宵が入り江の奥側に何かを見付けた、と同時にダッと砂を蹴ってその場所に向かって走っていく。
普段の彼女を知る直哉は、その目的の物がある所に向かう夜宵の足の速さに驚かされる。
学校では夜宵は体育の時はあまり活発な動きを見せたりしていない、そう直哉は記憶に刻んでいる。
その夜宵が入り江の奥に向かった時の早さを見れば、驚くのは仕方ないと言えるだろう。
遅れて直哉も古びたクーラーボックスとバケツ2個を持って、ザッザッと砂を踏み締めながら夜宵の元に合流を果たす。
「それって……」
「釣り竿です。それも中々に丈夫な釣り竿だと見受けます!」
「……夜宵」
「はい?」
「なんか……性格変わってないですか?」
「……気のせいです」
「嘘つけ。思い切り瞳が輝いている人間のいうセリフじゃねーよ」
ペシッと身長差はあるが痛くない程度の力加減をしつつ、頭を叩く。
口を尖らせ、頬を少しだけ膨らませても釣り竿から手を放そうとはしない夜宵。
それを見て好きなんだろうな、と感じ取った直哉は夜宵にある役目を頼んだ。
「夜宵、釣り好きなんだろう?」
「ま、まぁ……嗜み程度には出来ますが……」
「その嗜み程度の腕前を活かして、食料調達係を頼みたい」
「……本当ですか?」
「俺は釣りには全く知識も経験もないから、経験者である夜宵に頼みたいなって思って」
「……分かりました。頑張ります!」
嬉しそうに役目を受けた夜宵はすぐに行動を開始させる。
直哉が他に道具はないかと探している間に、釣りの餌を調達したのは経験者の知識があっての早業だった。
釣り場として最適だと夜宵が判断したのは洞窟の入口と、入り江の沖側の場所の2か所である。
直哉が古びたクーラーボックスを椅子代わりにするといい、と提供したのを受けて夜宵は洞窟の入口側の海に釣り糸を垂らす。
「それじゃ、俺は枯れ枝とか集めて来るな」
「お気を付けて。その間に5匹は釣っておきます」
「無理だけはするなよ? あれなら浅瀬で貝でも取ってくるからさ」
「……私もお役に立ちたいから頑張らせて下さい」
「……分かった。信用しているよ」
直哉はそこまで話をして洞窟から出ていく、それを横目で見送った夜宵は真剣な表情で釣り糸を見つめていた。
洞窟から出た直哉は枯れ枝を探すのに苦戦していて、殆ど量は集めれない状態で島の森の中を歩いていた。
昨日の雨のお陰ともいうか木々の間から太陽の光が差し込んで当たる。
雨の残りが光を受けてキラキラと輝くのを眺めていたが、それで枯れ枝が集まる訳ではない。
「うーん、雨の後だから枯れたやつでも湿っているな……もっと雨の影響を受けても燃えてくれそうな枝とかがあればいいんだけれど……」
ブツブツと言いながらも木材集めをしていた直哉は、やっとの事で枯れた枝を明日の分までの量を集める事が出来た。
脇に抱えて洞窟に戻っていく、空はそろそろ夕方の赤い夕焼けの色をし始めている。
今日は食料をどれだけ得れるか、そう考えていると洞窟に入った時には入口にいるだろう夜宵の姿が焚火の傍にあった。
「戻ったー」
「あ! お帰りなさい」
「どうだ釣果の方は?」
「見てもらえれば。……この量です」
「……おぉぉ!?」
クーラーボックスを開けられて見たのは種類は分からないが大きなサイズの魚体が2匹、その魚体から一回り程小さくした魚体が2匹、あとは……。
「こ、これって……!?」
「ふふっ……まさかですが、釣り上げてしまいました」
「すげぇよ! っか海で釣れるんだな!?」
「黒潮の影響があれば釣れるとは聞いていましたが……この無人島の海は栄養が豊富なんですね」
「人生初だわ……こんな丸々と太った伊勢海老」
「私もです」
夜宵が釣り上げていたのは高級海鮮の1つである「伊勢海老」であった。
これには直哉も驚きで固まってしまうが、少ししてこれは調理のし甲斐があると意気込んで時間のある時に削って作った簡易包丁に近い岩を使って捌きに掛かる。
直哉の手伝いとして、浅瀬で調達していた貝の1種類「カメノテ」を使って出汁を取る。
その出汁に切った魚たちの身をくぐらせて、海鮮しゃぶしゃぶとして食べる事にした。
2人は魚体の大きな魚の身を木の枝で作った箸を使って食べていく、あっさりとした味わいと舌の上で火を通すと歯応えのある触感。
気付けば無心で海鮮出汁しゃぶしゃぶを堪能していた2人。
「美味しいですね!」
「これは新鮮さが最大の調味料だな! やべー贅沢だ」
「この後に伊勢海老、私……こんなに贅沢して幸せ過ぎて泣いちゃいそうです」
「分かる! マジでこれは釣ってくれた夜宵に大感謝だ!」
直哉の言葉に夜宵は少し固まる、それに気付いた直哉が首を傾げて見つめると少しして目尻の溜まった涙を指先で拭う夜宵。
泣いている、そう気付いた直哉は慌てて言葉を掛けようとして手を差し出されて、それで一時的に落ち着きを見せる場の空気。
夜宵は少し涙を拭う仕草をしてから、ニコッと微笑みを浮かべる。
「嬉しいから泣いちゃいました……」
「えっ、う、嬉しい?」
「わ、私……誰かの役には立てた事あまりなくて……」
「……夜宵……」
「だから、感謝されるなんて初めてで……それで泣いちゃいました」
ごめんなさい、と小声で告げる夜宵に直哉は首を横に振った。
確かに人生で誰かの役に立つなんていう事は簡単じゃないとはいえるだろうと、直哉の心はそう呟く。
だが、夜宵はしっかりと今ここで役立っている、それは間違いのない事実。
食事のシメに伊勢海老の身をしゃぶしゃぶする為に、直哉は包丁のような石を使う。
「よーし、これでしゃぶしゃぶのシメが食べれるぞー」
「いよいよですね」
「丸々肥えていたから身も結構取れたよ。味噌もあるから出汁に溶かしてスープにして飲んでいいだろうと思う」
「救助されてもこんな贅沢は滅多に出来ません。しっかり味わって頂きましょう」
「よし、それじゃいただきます!」
「いただきます!」
2人で伊勢海老の身を木の枝で作った箸で掴んでしゃぶしゃぶ。
弾けんばかりのプッリプリの触感が2人の口の中で存在感を刻んでいく。
甘い味にほんのり出汁から出ている塩味がいい塩梅を刻んで、より美味しさを印象付ける。
2人はこのしゃぶしゃぶの味を絶対に忘れない、そう目と目で話し合って最期の1切まで味わうのだった。
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