・12-メジャー・マイナス



 どんよりとした曇り空は、今にも嵐がやってくるぞと静かに予言していた。目的地へと向かうバンの中、目の前で苛立ちを隠そうともしないトギさんは貧乏ゆすりを止めず、煙草を吸いながら僕を見た。自分の置かれている状況に胃がキリキリと痛む。トギさんの鋭い視線を避けるように、カイ先輩に渡された駒鳥の形をした特殊機械をポケットに押し込みつつ駒鳥用の通信機であるイヤホンを耳に取り付ける。


「私の忠告は忘れたのか?」


 威圧的な声に首を横に振る。断じて忘れたわけではない。むしろ、あの日は忠告のことばかりを考えてしまって、まったくたいへんだったくらいだ。

 トギさんはレコーダーを取り出して再生した。流れ出す音声は全く身に覚えのない――なんて言えたらどれだけ良かっただろう、墓越に向かって〝死ねよ〟なんてキレた後、続けてキツい暴言を躊躇うことなく言ってしまった僕の声そのものだ。

 大体二分くらいは続くであろう暴言音声をトギさんは途中で止めた。


「私の忠告を忘れたな。」

「ハイ。」


 忠告で頭がいっぱいになっていたのが事実であるように、あの一瞬、忠告のことを忘れてしまったのも事実だった。深々と反省はしたが、これといって後悔はしていない。あー、やっちゃったな、なんていうぼんやりした他人事のような感想しか脳に浮かばない。

 トギさんは深々とため息を吐くと、貧乏ゆすりを更に激しくさせて煙草を味わった。天を仰ぎ、トギさんは再びため息を吐きながら煙草を握り潰した。


「今の状況を整理する。まず、我々はたいへんまずい状況にいる。お前はあのしょうもない男の軽口に乗せられ暴言を吐き、その音声を材料に貶められた。事実かどうかは別として、現状、お前は初代会長の生まれ変わりとして扱われ、立場をお前に狙われると考えた上層部からは虎視眈々とお前を貶める機会を狙われ続けていた。」


 彼は淡々と状況を述べていく。


「一方、時期上層部候補として名高い墓越が、このレコーダーに録音された暴言を持ち出して被害者面すればお前を意図も容易く追い詰めることができる。実際あいつはそうした。結果、お前は見事に弁明の機会もなく一時的に、こうして特待生待遇を受ける羽目になったわけだ。あいつの目的はどさくさに紛れてお前を殺すことか、或いは任務中にお前がシンに敗北し命を落とすことだろう。」


 ……性格が悪すぎる、というのが今のところの率直な感想だった。

 特待生待遇とは本来ASXゼノ隊員が遂行するレベルの高い任務を学生の身分でも任されることを示し――学生であっても鍛え上げられたゼノ隊員ほどの力量を持つ何よりもの証だと道楽教官は説明してくれた。とはいえ、彼女は特待生待遇という制度に反対しているらしく、如何にこの制度を無くすべきなのかと苦々しそうに僕へ語ってくれた。

 墓越は制度の悪用をして僕を狙ったし、ASXは僕を初代会長だと認識していたので墓越の対応を承諾した。特待生待遇だなんて名称付けた私刑が行われているのだから、道楽教官が苦く想っているのには納得ができる。いい加減な理由さえ見つけられたのなら、未成年であっても良いように私刑へ追い込める。脅しへ使えてしまう。恐ろしいものだと思う。

 影崕派なんていう組織があることを、僕はこのときはじめて真に理解した。人に迷惑をかけて死人を出している影崕派と、制度に組み敷かれた実質的な私刑を行えるASX。どちらも良くはない、けど異質者ゼノとして生きていくには居場所が必要で、人は選択を強いられる。ただ、それだけのことで、ほんとうはどちらも変わりがないのかもしれない。


 僕の葛藤を他所にトギさんはさらに続けた。


「幸運だったのは、道楽教官が取り計らったおかげで今回の件は今回のみで事が済むという点だ、次の特待生待遇による任務からはお前に対してマシな防御対策が組み込まれる。不安なのは、そのせいで今回の任務は墓越が本気でお前を殺そうと仕組んでいるだろうという点だ。」


 〝こう〟なることはどこかで予感していた。

 尋問室から逃げ出したオーフェリアさんを追っている際、墓越の泥兵に襲われてから、なんとなく――けれど同時に強く予感していた。僕はこれから墓越に狙われるだろうし、迎え撃たなければならない。さもなければ、されるがままに命を奪われる。

 そんな予感が確信へと変わったのは彼が目の前にやって来たときだ。彼が僕よりも上の立場としてASXに在籍している以上は墓越を追い詰めることもできず、僕は迎え撃つだけ。あの瞬間、確かに僕と墓越の関係は確定され、そうしてその結果が今こうして形として現れているのだろう。

 ふしぎと、目の前の現実を受け入れるのは難しくなかったし、自分の言動に後悔はおろか反省もしていなかった。今でも墓越に対して死ねよと思っているからだろう。いつになく心は穏やかだった。


「既に墓越が一度任務地点へ向かったとの情報は出ている。恐らく罠でも仕掛けたんだろうが、その件については国蝶君が代わりに対処する。」


 頷いて、ちらりとバンのスペースをほとんど取っているモニター前に座る眼鏡をかけた少女へと目を向ける。


「――うん、目的地の解析は済んだし、仕掛けられていた罠もジャックして今のうちにできる限りは壊しておいたぜ。」


 モニターから顔を上げたカイ先輩がそんなことを当然とばかりに言った。ゆ、有能過ぎる。

 驚いて言葉も出ない僕とは違って、トギさんは満足げに頷く。


「ご苦労、国蝶君。さすが特待生だ。」

「いや、けどさ。生体反応が弱いくせ瘴気はかなり濃いから内部結界が展開されてる、零じゃないけど一型案件っぽい……正直かなり手遅れって感じがする。ちょい不安だな。いやフツーにめちゃ不安だ。」


 主にカイ先輩の不安とは、僕がまったくのド素人であるのに理由があるのだと彼女から向けられる視線で理解できた。こいつ生き残れるのか?みたいな信用のなさがヒシヒシと伝わってくる。僕自身も生き残れる信用はないので、正直共感しか感じないところだ。こういうのなんて言うんだっけ、シンパシー?

 トギさんはいよいよ目を閉じて、本日何度目かになる深々としたため息を吐いた。


「私の特性と今回の任務は相性が悪くバックアップはできない。そこで、だ。鹿目君。」


 トギさんは彼の黒いジャケットの懐から煙草の箱を取り出すと、それを僕の手に握らせた。硬い箱の質感を手袋越しに感じながら僕は彼に視線を戻す。


「諦めて吸ってみろってことですか?なんか心外です。」

「違う。未成年に煙草を渡すような男だと思われているのならそれこそ極めて心外だが、その話は不必要なので除外させてもらう。兎にも角にも、この箱は緊急事態用だ。最終手段として使いなさい。ここで私が言う最終手段とは、例えばお前がもう死にかけで走馬灯が見えてきたら、初めて開けることを悩んでいいレベルだ。」


 なんていうか、それは。


「開けるなってことですか?」

「ああ。」


 ……。ちょっとモヤるなあ。べつに盾突くわけではないし、最終手段っていうからには確かに最終手段なりの難しさがあるべきなのだろうが、例えば、僕が気付かないほどの早さで殺されてしまえば最終手段の出番すら訪れなくなってしまう代物であるのは明白だった。

 うーん、ちょっと納得できないというか、そもそもこんなものを僕に渡してどうしろっていうんだ。それか、もういっそ気にせず使ってしまおうか。


「というかこれ、最終手段として意味があるんです?」

「自爆武器だと思え。」


 彼の言葉にしばしば頭が真っ白になる。

 ――じばくぶき。


「絶対使いません。」

「ああ。」


 手に握らされた煙草の箱を見る。

 自爆武器と称された最終手段は、深い青色をベースとした単調なパッケージで、煙草は体に悪いという注意喚起の文面が煙草のイラストと共にしっかりと印刷されている。どこのコンビニでも売られている、なんの変哲もない至ってふつうの煙草の箱だ。

 危険なもの自爆武器であるようには到底見えないが……一見するとなんでもないものが、じつはそうではないという例が多すぎる以上疑う気にはならなかった。

 本は表紙だけで判断できない。当たり前のことがいつも頭から抜け落ちて、その当たり前と顔を合わす度に驚いているなんて馬鹿げている。そろそろ僕もドンと構えるべきだ。

 頼むぞ、僕。うん、頼りない。たぶん僕がいちばん僕を疑っているまである。


「……ちなみになんですが、勝手に起動しないですよね?」

「恐らくは。」

「恐らく???」

「あ、その件についてはぼくが説明してやるよ。それってこのぼくが作ったとはいえ、かーなーり、超特急で作ったものだから完成度はそんなよろしくないの。もうちょっと時間があれば識別機能とか付けてあげられたかもなんだけど――まあ、その、グッドラック!」


 カイ先輩の説明はこれ以上となく分かりやすかった。つまりは運に任せられたというわけである。

 もうちょっと製作にかけられる時間があれば事故自爆しなくて済んだのかと思うとなんだか無念だ。いや既に事故自爆で死んだ気になるのは良くないな。まだ使うとか決まっているわけじゃないし、意外とあっさりと乗り越えられるかもしれないし、ここはいっそ楽観的に考えるべきなのかもしれないぞ。


「……というかそもそも、自爆武器なんてどうやって作ったんです?」

「チョチョイのチョイッ……あ、コラコラ。そんな目でぼくを見るな。基礎土台は道楽教官に設計図を渡されて作ったしちゃんと安心安全の自爆武器だよ」


 うーん、めちゃくちゃだ。安心安全の自爆武器とか矛盾しかない。

 おかしなことに、それなのに僕はカイ先輩の言葉の意味がしっかり分かっていた。あのヒト道楽教官、確かに危なっかしい節はあれど謎に頼り甲斐があるんだよな。つい信じてしまいたくなる何かが、彼女にはあった。道楽教官が関わっているのなら自爆武器も最終手段としての側面をより色濃く感じる程にだ。たぶん、そういうのがカリスマというものなのだろう。自分でさえ自分を信じられない僕には大きく欠けているものだ。


 雨の中を走っていたバンが止まり、途端に速度を上げ始める脈拍を抑えるように深呼吸をする。いよいよ墓越に何を押し付けられたのか、その疑問を晴らすであろう答えと対面する時が来た。思考は至って冷静だった。問題は心臓がそうは思っていないという点だけ。脈がばかになったみたいだ。

 トギさんはバンの壁にかけてあったライフルを手に持つと、相変わらず何を考えているのか分からない黒目で僕を冷たく見た。


「これ以上目的地へ近付けば瘴気耐性のない国蝶君が使い物にならなくなるから、ここから先は徒歩で向かう。行くぞ、鹿目君。」


 木刀袋を引っ掴みながら自爆式最終手段をポケットに押し込み、バンから降りて走るトギさんの後を慌てて追いかける。「生きろよー!」と声をかけてくれたカイ先輩に手を振って答えると、これまで黙っていた獣がふと、静かな声で呟いた。


『先生が自爆なんてしちゃったら……いなくったりしたら!ううっ!負けちゃったりしたら!うう~!』


 呟いた、改め、泣き出した。いや実際に泣き出したかは見えていないが、それでも獣が泣いているのは明白だった。すんすん……と控えめに鼻を啜る音が聞こえるし、彼女の子供じみた声は震えているし、嘘泣きである可能性が捨てきれないだけで、99パーセントくらいは泣いているのだと思う。

 ――何を気負っているのか知らないが、僕の特待生待遇が決まってから獣はどんと落ち込み出してちっとも喋らなくなった。かと思えば、突如今みたいに泣き出す。かれこれ三日ほどだがすっかり慣れてしまったもので、獣の泣き声は放っておくに限るとわかっている。

 彼女のサポートを借りながらにせよ僕には数回なりの実戦経験があるのだが、獣は今回の件に関してやたらとメランコリックになっていた。不安がこちらにも移るのでやめてほしいところだ。本音を言うと、いつも通り〝先生なら楽勝だよね!〟とかなんとか、無責任な感じで盛り上げてほしかったんだけどな。


『今の先生じゃ!ぜったい負けちゃうよぉ~!』


 ……ムカつくけど、反論できるワケでもなし。



 ※



 まったくやられたものだ。感想が脳裏に浮かんだ。

 ――カイの許可も得たことだし、鹿目くんが第二尋問室へ送られた際、再びこちらへ連絡してきたトギさんの協力願いをふたつ返事で承諾した。慢性的な魔力不足のせいで思うように鹿目くんを援護できないという歯痒さを解消してくれるのなら助かる、というポジティブな側面での捉え方は勿論、それ以上にトギさんの協力願いなんてほとんど脅しの域だったので断りようがなかった。カイが協力しないでくれと言っていたのなら、私はトギさんをどうにかしなければならなかっただろう。


 誰かのお世話になると言うのは、相手に寝顔を見せるのと同じくらいに危険だ。相手の意思次第でこちらを好き勝手にできてしまう。

 例えて言うならば、トギさんは鹿目くんという人質を使って私をトギさんと同じリングへ引きずり込んできた。彼が人質を取っている以上、私はそのリングで言われたことは何でもやらなければならない。トギさんが私に盾になれというなら私は盾になるし、リング上を転がれと言うのなら転がらなければならない。できることならこちらへのリターンは無しで彼の話に乗りたかったものだ。


 とはいえ尋問区画取締役の一型ゼノであり、イオタの攻撃を唯一生き残ったトギさんが鹿目くんを守ってやると言ったのだ。ある程度は信頼できるはずだと考えたは良いものの、〝想定外〟というのはいつでも起こり得る、そして私はそれを失念していた。こちらの落ち度だと認める他ないだろう。鹿目くんがASXに入ってきた時点で私は義理や恩義を捨てて彼の隣にだけいるべきだったし、いくらトギさんが尋問担当の一型ゼノであるとしても過信すべきではなかった。

 実際、先日の夜に再会した際なんか、トギさんは否定していたけど鹿目くんのことを初代会長だと認識している節があった。


「あの鋭い感性と常識のなさ、少年のこれからが楽しみだ」


 なんて言うトギさんの目には、ASXを背負ってくれるだろうと言う鹿目くんへの期待感が見受けられた。彼が言う〝鋭い感性と常識のなさ〟は、鹿目くんがふつうの少年として生きてきてゼノに関する何をも知らないからなのだと、トギさんは理解できるはずなのに認識していなかった。彼は恐らく鹿目くんの立場や外壁を守るのに集中して、鹿目くん自体の行動は軽い忠告程度で済ましておいても問題はないと見たのだろう。


 まあ、そもそもは墓越本人が旧境防に出向いて直接アプローチをかけてくるとか、いやはや、まったく到底脳のある人間が行う行動から逸脱しすぎていた点に問題がある。


 予想をしたのだ。常人なりの思考を持ち合わせていた私たちは墓越が仕掛けてくるとするならそれは実地訓練時に違いないと、そんな予想をしたのだ。というか、ちょっと考えれば誰だってそれを選択し、その行動を想定する。旧境防は道楽さんとマジモトのテリトリーで、通常、彼女たちの許可なく旧境防の敷地へ踏み込めば立場が悪くなり糾弾されるのは墓越になる。通常は、そうなる。

 しかし、墓越側のお咎めナシで済んだ。

 それはASX上層部側が基礎を無視するほど鹿目くんの存在を疎ましく思っている証拠に他ならないし、私や道楽さん、トギさんはASX内で流行っている〝鹿目くん初代会長説〟がそこまで深刻だなんて想像していなかった。ヘイトを買っていることは周知の事実だったけど、まさか上層部が本気でそう考えていたとは思わなかったのだ。ざっくり言うなら、そう、蒼天の霹靂的なアレソレである。


 だって、鹿目くんが初代会長の生まれ変わりだなんてでっち上げの与太話でしかない。異質体は魂を目視できないので、鹿

 彼女が鹿目くんを初代会長と認識したことを〝初代会長と鹿目くんの容姿が似ているからだ〟、もしくは異質体が目視できる運命に関連付けて〝初代会長と鹿目くんの運命が同じだからだ〟と言えないのは、仮にそうであれば初代会長の運命と容姿を知るアダムスルトがそうと言うから。しかしアダムスルトは確かに否定したのだ。鹿目くんは初代会長ではない、初代会長に通じる節は髪と目の色、そして性別くらいなものだと。

 故にヴィーヴィル・シナンが鹿目くんを彼女の先生と認識したのには〝生まれ変わり〟なんていう単純な話だけでは済まないはずだ。他に理由がある。容姿ではなく、魂でもなく、運命でもない何かの理由。もっと必然的で、論理的な何か。


 あのアダムスルトが否定しているというのに、上層部までヴィーヴィル・シナンという不確定要素の塊と同じように鹿目くんを初代会長の生まれ変わりとして扱うのはきっと、ASX側にとってサイアクの状況、つまり初代会長によるASXの乗っ取りを想定して動いた結果なんだろう。その点については理解できる。慎重であるなら誰しも最悪を想定して動く。

 けれども、腑に落ちない。上層部は根も葉もない噂を一々信じるような人間の集まりではない。例え噂を信じたとしても、鹿目くんを追い詰めるような極端な行動はASX上層部らしくなかった。

 確かに頭は固いし話は長いし説教も多いやかましい連中だが、その理由の根本としてあるのは、という気質があるからだ。今の上層部の動きは全体的に慎重派とは言えない。短絡的で、考えなし。人の命をひとつの駒として認識ているかのような、どちらかといえば墓越の狂気じみたムーブだ。


 ……何かの確証があって、鹿目くんを危険視しているのか。ASXは以前千歳を利用していたし、彼女は鹿目くんに関する何かを観測したのかもしれない。トギさんが私に言っていない、或いは彼自身も知らされていない、鹿目くんに関する極秘情報の存在。可能性はある。


 理の観測、未来展望、預言者。運命を読み解くひと。


 そんなふうにASXが花よ蝶よと愛す千歳の力が絡んでいるのなら、上層部のらしくない対応には納得がいく。彼女は間違えない。理を観測できるのは千歳だけだし、彼女の観測が違えたことはない。

 考えれば考える程、この線は濃密だ。今考えた即席・適当・でっち上げの理由だけど、なかなか妥当な感じがする。理由付けとしてはうまい線をいっているんじゃなかろうか、なんて。


 ――ただ、だとすれば気になる点がある。

 千歳が観測した際につらねる言葉はどれも遠回しな啓示で、だ。どの観測にもある程度の解釈が必要で、曖昧で、完全に鹿目くんが初代会長だと断言できるわけない。とくに、内通者の存在を特定できる程度、けれど名指しはできない程度の、本調子ではない千歳の観測だ。普段より曖昧なのは明白だ。

 観測の内容ひとつで、こんなにも鹿目くんへのヘイトが強まって墓越の味方をしたとなれば確実に何かがおかしい。

 何か……うーん。手を加えられた、とかかな。解釈した人間に裏があるのかもしれない。探るとすればそこだろう。問題は、千歳の観測に就く解釈者は基本的に全員が匿名で接触するには困難を極める。


「はあぁ~~」


 八方塞がり感に困ってしまって、ついため息が出る。すると途端に向けられる幾つもの視線。苦笑して、軽く手を振ってなんでもないと意思表示する。舌打ちが幾つか飛んでくる。なんていうか、ストレスがたまっているのが窺える。たいへんそうだな。


 なんにせよ。そもそもとして、間違いなく最初から油断するべきではなかった。鹿目くんから目を離すべきではなかった。おかげで問題が幾つも膨れ上がってしまった。鹿目くんの立場は現在とてつもなく危うい。彼の命も、然り。


 ……彼に何かあったらどうしよう。私、落ち込んで立ち直れないかも。ぐっと落ち込んで、また〝庭〟の力が増しはするだろうけど、それと同じように私のメンタルブレイク率が今までとは比べ物にならないくらいにハイエストを突破!うひゃあ、目に見える。

 やはり私のメンタル事情のためにも鹿目くんは死守しなければならない。彼のこと、だいすきだから死なれるのはいやだ。


 けれど、過ぎた話や答えの出ない仮定もしもに思い悩むのは柄じゃない。思い悩むべきは〝〟について、〝〟のかだ。


 まず対面する問題を考えよう。

 ひとつめの問題、鹿目くんの保護。これは道楽さんの計らいによって解消されたので、鹿目くんが今回の墓越の嫌がらせを生き延びてくれたら問題解決として扱っていいはずだ。


 ふたつめの問題、ASX側のスタンス。隙あらば鹿目くんを事故死に追い込もうとしてるまでの警戒。これは、鹿目くんは初代会長ではないと見せつけるのが一番はやい。こちら側が理論と証明で黙らせる。千歳による観測を行ったという可能性が濃い件については、少しずつ探っていけば良い。その疑いが当たっているなら、観測内容次第でどう動くかを考える。


 みっつめの問題、千歳の観測内容について探る。これは、匿名の解釈者を見つけ次第取っ捕まえてトギさんの尋問部屋に押し込むという乱暴な行動が一番はやく真実を聞ける道だ。

 とはいえ、それをトギさんが認めてくれるかは非常に怪しい。そもそも解釈者が他言無用だと理にかけて誓わされているのであれば、尋問部屋に連れ込んだところで無意味だ。誰であろうと解釈者を殺すような真似はできない。こちらの立場が壊滅的なレベルに陥れば監視が強まり、色々と不便になるし、最低限は尊厳を持って行動しなければならない。

 ……悔しいけど、どれだけ考えたところでこの件は〝千歳に頼み込んでみる〟が最善策だ。私を認識していない今の千歳にお願いは通用しないので無駄足になるかもしれないが、うん、数撃ちゃ当たる!ことはないか!でもやる前から諦めるのは主義じゃないし、頼んでみるだけ頼んでみよう。


 よっつめの問題、墓越の脳について。この件における墓越は、墓越にしては用意周到すぎた。

 私や道楽さんが完全に動けなくなる予定日に合わせられたせいで鹿目くんを擁護しに行こうにも行けなくなったし、自ら罵倒されることを予見して録音の準備をするというアイデアをプライドの高い墓越が考え出すはずもないとか、何もかもが墓越単独にしては用意周到すぎるのだ。

 上層部の嫌がらせも込みでこの状況に陥ったのは簡単に理解できるけれど、上層部を味方にしたからといって、ひとは突然と用意周到になれるワケじゃない。

 ――つまり、今の墓越には上層部公認の十中八九〝脳〟がついている。

 これは厄介だ。頭のいい性悪な権力者とかマジでサイアクだ。墓越というチェスの駒を動かすプレイヤーを相手に動かなくてはいけない。慎重に、警戒を持って、頭を動かさなければ今回みたいにまた嵌められる。

 だが、それを毎回阻止できるとも限らない。はやいうちに墓越の脳を見つけて排除する……いや、それは無意味か。その脳が上層部直々にあてがわれたものなら、またべつの脳が墓越へあてがわれるに違いない。墓越に追加の脳をあてがわれないようこちらが上層部に鹿目くんは初代会長の生まれ変わりではないと証明できたとしても、脳を気に入った墓越が以後も同じように脳を使い続けるとしたら?ひどく厄介だ。彼は執着深い。鹿目くんは狙われ続ける。


 墓越を叩くか?ああ、いけない、シグマ。そそられるくらいには楽しそうだけど、もっと理性的に考えないと。

 墓越の脳を味方につける?非現実的だ。可能性はひどく低い。鹿目くん自身が強くなること?それはかなり脳筋肉プレイだ、最終的目標ではあるけど、そうなるまでの道のりが問題なわけで。

 墓越が黙るには、彼が弱いものは、家族。家族か。非暴力的手段、足す、家族。足す。足す……。

 ――鹿目くんを一時的に婿養子にさせる?

 おお、これだ!鹿目くんが墓越沙耶と一時的に許嫁関係になれば墓越は手を出せなくなる。妹の夫だもの、彼にとっての義弟。墓越にとっては十二分に家族という評価に値するはずだ。

 よし、決まり。道楽さんに話しておこう。


「……。」


 満足感に浸り。遠い、遠い、暗がりの天井を眺める。


 天井にびっしりと書き込まれている零型:瘴気の封印術式を眺めていると、徐々にズルズルと自身の体の中から瘴気が抜けていくのを感じる。

 安定性が戻っていくのは、有難い。けどかなり痛いな。魔力で体の内側を押し開けて、そこから零型:瘴気を取り出すと聞いた時から相当な痛みは覚悟していたが、ああ、まずい。これは想定以上だ。痛みで体が引き攣るのを、なんとか堪える。

 鹿目くんが危険にあっているというのに、私はASX本部内で零型:瘴気の再封印のために時間を取られている。悔しいほど無力だと思う。その拍子に、彼の援護をしたくて素直に他の日にしてくださいとASX側に日程変更の書類を送ったのに聞いてはくれなかったことを思い出す。いつもならもっと融通が利くんだけどな。


 ――ふとした違和感が頭に燻る。


 私の肉体へ一時的に閉じ込めている零型:瘴気。その再封印日は他ならぬ今日。あの日から始まった、鹿目くんへの連鎖。ここ最近の出来事はすべて繋がっている。これを偶然とするか、或いは、何者かに繋がっているのか。後者の視点だと仮定したら、トギさんの求めている内通者である可能性が出てくる。

 可能性を、ただの偶然だと言って済ますのは簡単だ。

 けど簡単なことは、いつだって結局は簡単じゃない。

 それに、何事も最悪を想定して行動するのは最悪を避けるためには必要だ。


 内通者、鹿目くんの運命、ASXの過剰な警戒。千歳の観測内容。


 というか、これ。内通者が千歳の解釈者なんじゃなかろうか?ASX上層部が恐れている「初代会長の生まれ変わりによるASX乗っ取り」というシナリオを押し出すように鹿目くんが初代会長の生まれ変わりだと千歳の観測を解釈して、たぶんあることないこと適当に言った。これだとかなり辻褄が合っている気がする。


 ――その目的は?


 ああ、そこ。いい点を突くね、シグマ。そこばかりは理解できないんだ、うん。内通者になったことなんて一度もないから、ちっとも想像できない!

 いや、今のはうそ。想像はできるのだ。できるけど、「いやなことでもあったのかな?」みたいな絶妙に説得力の欠けた言葉しか脳に浮かばないので、なんていうか、そう。正直考えない方が良いまであるだけで、想像はできる。


 けれど悩んでも致し方ナシ。私がこれからすべきことなんて、先が知れている。どれだけもどかしくても、今は〝答えが出せない〟というのが現状だ。だって計算式の最中に答えを出そうなんて思惑は、すこしばかり飛躍していて、すこしばかり愚かだ。



 ※



 アークポイント・学校内部到着確認/旧一年生四型ゼノ 鹿目礼司/ケース1


 チカチカと赤い電灯が点滅する内部結界内を息が必要以上には乱れないよう気に懸けながらカイ先輩のナビゲーションである駒鳥を追いかけ、生存者とこの場のとなっているであろうシンを探す。


 ――学校の内部結界内は控えめに表現しても悪夢のような状態だった。赤く点滅する電灯に、そこらじゅうに転がっている死体から発される血と死の臭い。マネキンだと思うことにして辛うじて堪えているけど、一秒以上視界にいれると吐きそうになるほど〝探す〟という行為はこの場において苦痛だった。死体への純粋な生理的嫌悪感もあったが、何より猛烈な苛立ちと無力感がひどく苦しかった。

 学校というだけあって転がる死体の殆どは僕と同年代の人間のものだ。まだ青い春を過ごす細やかな命。長く短い人生の中で、まだ十数年しか生きてきていなかった命。各々に人生があった。僕なんかと違って、まっとうな命だった。

 しかしそれらの見る影もなく、死体はただ物言わぬ肉片として転がっている。千切れた腕が転がっている。足が転がっている、首のない肉体が血の池に伏せて居る。人の肉体が、化け物に弄ばれたという事実。日々を過ごす命たちが、無意味に奪われたという現実。

 当たり前に、この場の何もかもを僕は許せなかった。許していいはずなんてない。こんな惨劇を引き起こした奴を殺すまで死ぬに死ねないと、そう強く思わされる。だってこの吐き気を催すような無力感はそうでもしないと覚めない。


 シンと生存者の捜索はカイ先輩の駒鳥が辺りを詮索しながらより瘴気の強い方向へ向かっており、彼女のおかげでおおよその捜索については相当なショートカットを行えているのだとこの壮大ともただの迷路とも言える場所を走っていると痛感してくる。近距離であれば獣もある程度の感知は可能だが、彼女にカイ先輩ほどの広範囲の感知能力はないのでほぼカイ先輩頼りだ。


 この内部結界内に入る直前、幾つかトギさんから説明を受けた。


 ひとつ、内部結界がどういったものであるのか。

 豪く難しい話だったが僕の理解が及ぶ限りに要約すると、ズバリ〝二階建ての家〟だ。家の一階が僕たちの暮らす通常の世界で、二階がシンによって展開、改め増設された異常空間。


 ――ざっくり言えば違法建築されたワケだ。トギさんは世界の拡張とか上書きだとか小難しく説明していたが、二階建ての家という僕なりの自己解釈に落とし込んでしまったせいで彼の説明はいまいち覚えていない。申し訳ない。でも僕の脳みそではちっとも処理できない小難しい説明だった。

 以前マジモトが僕を廃病院に閉じ込めた件の〝結界〟とシンによる内部結界は種類が異なるらしく、基本的にはシンの内部結界違法建築の上に、ゼノが瘴気を漏らさないようゼノの結界を張って閉じ込める……というのが、主な流れとなるのだとトギさんは言った。マジモトの件を把握されていて、この人はどこまで知っているのかと疑問に思ったが、いや、それはさておき。


 ふたつ、僕の任務内容は主に生存者の救出・保護と、この内部結界の元となっているであろう核とシンの破壊だということ。瘴気の元となっているシンは各々核を宿しており、その核は宿主たるシンにとっては様々な魔術の代償を補う所謂魔力タンクのようなもので、この内部結界の可能にしている原動力となっている。

 ――マジモトの結界と同じように、人が内部結界内へ一度足を踏み入れたら内部結界が解除されるまで脱出は不可能だ。解除法は二通りで、内部結界を展開した大本のシンが自ら結界を解除するか、大本のシンの肉体破壊か。どちらにせよ、どちらかの選択しか存在しない。シンが内部結界を展開している限り、元の建築状態に戻ることは絶対にない。

 しかしゼノはシンだけを狙えばいいと言うわけでもない。シンだけの破壊は危険の卵が残された状態で推奨はされず、逆に核だけの破壊では危険の卵を潰しているだけで内部結界が完全に解除されることはなく、シンによって核の再生が行われ内部結界は再び展開される……のだとか。


 核は宿主であるシンから分離されているパターンと、シン自身に核が埋め込まれているパターンの二択に分かれている。今回はカイ先輩のサポートが活きて前者だと判明している。

 つまり、解決がより難しいほうだ。


 周囲を見渡しながら走っていると、ふと先を行くカイ先輩の駒鳥が急に挙動不審な動きをしはじめた。


『ちょ、アレっ!?なにこれ!?』


 慌てるカイ先輩の様子に、どうやら何かしらが彼女のほうで起こっているのだと理解する。やたらと挙動不審な駒鳥の動きは故意ではないのなら、それはつまり――。


『先生、来るよ』


 獣の警告に僕は即座に刀を構え、廊下の角から飛び出してきた泥兵を迎え撃つ。魔力を腕と刀に回し、剣を振るう泥兵の動きを先読みしながら踏み込んで行く。

 首元、太腿と脇、足掻かんと伸ばされた泥兵の指先を抵抗されるより先に斬っていけば噴き出た血が辺りと刀を汚していった。トドメにもう一度、しかしながら今度はしっかりと胴体と分け隔てるように首を、骨を断つように斬れば泥兵の肉体は血の池へと崩れ落ち、胴体から離れた首はごろごろと廊下を転がっていく。


 ジリジリと泥兵の肉体は血へと変わり、廊下を更に血で染めた。地面に転がった泥兵の武器である剣だけが、彼らがこの場にいたという数分間の証明となる。その剣すら、あと数分もすれば泥兵と同じように血へと変わっていくことを僕は知っている。リツさんの幼馴染である墓越先輩ではなく、僕をこの場に追いやった墓越健司という男の死霊魔術の特性。

 くそ、いつ見ても気分が悪い。


『は~サイアク!こっちの探索機能をジャミングしてくるとかありえないんですけど!?クソ、墓越!ジャミングできるヤツを懐に入れてる話とか聞いたことないんだけど!?このぼくの魔術をよくも――!……あ、モニター生き返った。うにゃ、ごめん、鹿目。問題ができた。墓越相手に妨害されてるっぽい。』


 軽くパニックになっているカイ先輩が喚きながらペチペチ・バンバンと何かを叩く音が通信機から聞こえてきたかと思えば、挙動不審だった駒鳥の動きが正常に戻り、それと同時に冷静になったらしい彼女は極めて簡潔な結論を出した。

 問題ができた。うーん。確かに問題ではあるのだろう。けど。


「たぶん、問題ありません。」

『なーにィ……?』

「その、ふ、ふたつくらい理由があって……あっでも特に自信があると言うワケでもなくて、まあ全体的にたぶんを主体にして受け止めてほしいというか」

『ハイ、言い訳はいりませーん、はやく言ってちょうだーい!』


 うぐ。て、手厳しい。


「えーっと、まず、その、墓越側はジャミングができたのに僕たちは今になるまで妨害されずにいました。泥兵の襲撃タイミングから考えて、相手は墓越に合図を出されてジャミングしていると思うんです。きっと、特定条件下でしかジャミングできない、もしくは魔力消費を抑えようとしているかのどちらかです。」

『フムフム。』

「つまり、不用意にシンとか生体反応の捜索妨害はできないはず。あ、けど仮にシンとか生体反応にもジャミングされたのなら生体反応にだけ集中させてほしい……かな。」

『救出と保護に集中するワケね。でもいいの?それだとお前が大変になっちゃうぜ?』

「そこでふたつめの理由です。」


 これはちょっと不安定要素だし、本音を言うのならあまり頼りにしたくはなかったのだが、こういうときの彼女は真面目に受け入れてくれるだろうとも思う自分がいるのだ。

 ……調子乗りそうなところとか、ちょっとすごくとても不安なんだけど。


「近距離程度なら獣も、そこそこの感知ができます。」

『きゃあ~~~~~!?』


 あー。ほら。と言いそうになるのを下唇を噛んでぐっと堪え、黄色い悲鳴を上げる少女の声に思わず宙を仰ぐ。どうもあまり信用ならないのは彼女のそういうドラマチックなところが不安定性に繋がっているからに他ならない。獣の機嫌を損ねなければ、彼女はきちんと味方をしてくれるだろうけど、逆を言えば機嫌を損ねればそこでこの話はオシマイだ。しかも僕は獣の沸点を未だに把握しきれていない。まあ、把握しきれるわけもない。

 彼女は急に泣くし、急に怒るし、急に喜ぶ。

 獣はあらゆる面で予測不可能だった。じつに定期です、ハイ。


『それさ、ぼくとしては良いけど。その。大丈夫そ?』

「う~~ん。〝仮にジャミングが長引けば〟っていうただの可能性に対する対策だけど……前提的には、獣次第、になるかなぁ」

『いけるのか……?』


 じつに不安そうな声色でカイ先輩に尋ねられる。この策がうまくいくのも、大失敗に転じるのも、すべて獣次第なのだ。カイ先輩が不安に思う気持ちはわかる。僕も不安でしかないので正直共感しか感じないところだ。うーん、シンパシーのデジャヴ。


 ……やはり考えれば考えるほど、手綱を握っているのは道楽教官でも、僕でもなく獣に他ならぬのだと痛感してくる。あまり良い気持ではなかったが僕の気持ちなど知る由もない獣は、内部結界へ入る直前まで泣いていたとは思えないほど上機嫌な声で「とってもやりたいよ!わたし、先生の役に立つもん!いつものことだけど!」と主張し出した。少しは謙虚になれと思うよ、いつものことだけど。


「やる気はあるみたいですけど、いけるかなぁ。」

『やる気あるんだ。やる気あるなら死なん!シナンだけに!』

「は、はあ。」

『あれっ、ウケない?』


 ウケないって、何が?という疑問に軽く思考が乗っ取られる。しかし獣が脳裏で「せんせえー?」と僕を呼び――いやはや、青天の霹靂。ピンときたぞ。アイデアひとつさえ浮かばなかった閃き系統のなぞなぞを解いたときみたいな達成感には軽く酔いしれそうになった。

 そうかそうか。何のことかと思ったけど、そういえば獣はそんな名前だったな。すっかり忘れていた。


「ナントカ・シー・シナンでしたっけ?」

『いやぼくが言うのもなんだけど君かなりすごいな。ヴィーヴィル・シナンだよ。』

「じゃあ同じか……」

『違うよ。』


 カイ先輩はすかさず否定したが、獣は「先生が呼んでくれるならなんだっていいよ!何ならナントカ・シー・シナンに改名しちゃおうかなっ?」なんて猫撫で声で囁いた。相変わらず名前に拘りがない。いや、拘りがあったらあったらで面倒くさいだろうから助かるけど……。


「ま、探索方針も決まったし、進みましょう。……はやくぜんぶ終わらせたいんで。」

『気持ち分かるぜ、鹿目。でもこれを乗り越えたらチョ~ハッピーに落ち着けるはずだし、あんまり気落ちせずに――探索再開だ!れっつらごー!』


 カイ先輩の号令に頷き、核となっているであろうシン探しを再開する。獣頼りのナビゲーションという一抹の不安を抱えることになったものの、止まっているわけにはいかない。この場において一番の打開策なんてがむしゃらに進む、くらいなものだと思う。他の打開策がちっとも頭には浮かばなかったのはそもそも僕があまり賢くないことと、この惨劇を起こした奴をぶっ殺してやりたいと願う気持ちで頭がいっぱいだったからだ。


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