第14話 記念撮影
透明感のあるイマドキっぽいポップスが流れる筐体の中、神崎さんは物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回している。まだ何も始まってないのに、その仕草はどこか楽しげで。私は、そんな神崎さんに代わって恐る恐る画面を操作する。
美白モードやら小顔モードやら、何が違うのかよくわからない選択肢をさばきながら、操作を続けると、唐突に女性の声が響く。
『それじゃあ、撮影を始めるよ! カメラを見てね』
唐突に訪れた底抜けに明るい声に、私は体を震わせる。神崎さんは冷静に私の隣に来て、指示に従いまっすぐ前を見つめる。その横顔に目を奪われそうになるのを必死にこらえて、私も神崎さんに倣う。
『じゃあまずは元気にピースから!』
そんな指示とともに例の写真が画面に映し出され、カウントダウンが始まる。
私は慣れない角度で手首を傾ける。神崎さんも同じ動きをして
「いえーい」
ぼそっと、呟いていた。かわいい。
私が静かにはしゃいでいる神崎さんに意識を取られているうち、フラッシュが焚かれ、シャッター音が響く。
それからほどなくして、画面に写真が表示される。綺麗にポーズを決める神崎さんと、手首が変な形で曲がった私がそこには表示されていた。それだけじゃなく、異様に大きくなった瞳も、普段の目つきの悪さがあるからなおのこと奇妙に映り、対照的に神崎さんは元々目が大きいから、モデルの写真顔負けの映りの良さだった。
現代の技術によって、残酷なまでの差が浮き彫りにされていた。
そんな画面と、私を、神崎さんは交互に見比べる。それから、ぼそりと呟く。
「小川さんは、現実の方がかわいいね」
「か、かわいくなんかないよ……」
「小川さんは、かわいいよ?」
私があまりにも言われ慣れてない言葉にしどろもどろになっていると、神崎さんは当たり前の事実を告げるように答える。それだけで顔に熱が集まる。
「いや、そんな、神崎さんに比べたら……」
なんて言葉を並べていると、会話に割り込むように、再び底抜けに明るい女性の声が響く。
『じゃあ次の写真にいくよ!』
そこから、テンポよく、私たちは指示に従いながら、写真を撮られていく。どの指示もそつなくこなし、美しさを証明し続ける神崎さんと、いろいろ残念な私。現代の女子高生が、いかにルッキズムに苛まれているか、痛感し続けていると。
先ほどまで無難な指示を飛ばしていた女性の声が、急に牙を剥いてきた。
『じゃあ最後に、お友達同士で仲良しのハグをしよう!』
一瞬聞き間違いかと思って、画面を見つめるも、そこには言葉通りハグをして、笑顔を浮かべる女子たちの姿があって。ダラダラと汗が背中を伝う。私は助けを求めるように隣の神崎さんに視線を移す。すると
「ん」
神崎さんは、両手を広げていた。まるで、ハグを促すように。
「え……」
「しないの?」
本当に不思議そうに首をかしげる。
「し、します」
私はおずおずと、神崎さんを抱きしめる。
瞬間、柔らかさや甘さといった、おおよそこの世のすべてのポジティブな感覚に触れた。
神崎さんの身体は強く抱きしめたら折れてしまいそうなほど細く、それなのに際限なく沈み込んでしまいそうなほど柔らかく、鼻腔を甘さがくすぐる。
そして、神崎さんが私を抱きしめ返す強さは、私が思っているよりも強かった。まるでぎゅっとしがみつくようで。だから、密着度が更に高まって、ほとんど同じ身長も悪さをして、顔と顔が近すぎて息が止まりそうだった。鼓動が伝わってしまいそうなほど近く、そんな心音をかき消すように、カウントダウンの音が響く。それから、シャッターがピリオドを打つように、大きな音を立てて鳴った。
『これで撮影は終了だよ! お絵描きブースに入ってね』
そんなアナウンスとともに、、表示されている写真は、私と神崎さんが確かにハグをしていて、私は言わずもがな、神崎さんの顔もどことなく赤くなっているように見えて。
そんな私の耳元で神崎さんがささやいた。
「ちょっとドキドキした」
神崎さんの言葉は、いつも余白にあふれていて、そんな行間にいくらでも都合のいい妄想を詰めてしまえるから、ずるい。
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