後2.5日
何とか図書室に逃げ込み、適当な本を取って座る。
私のせいで縛っている? そんなわけない。
私たちの関係は幼馴染だ。それだけ。それだけのはずだ。
「燈!」
「遅い」
「どうした?」
「図書室に行くまでの道でぶつけちゃって」
歪みそうになる表情を全力で無表情に戻す。
しかし、誠は騙されてくれない。とりあえず、適当に嘘をつく。
「昨日のか?」
「うん。血は出てないと思うけど」
「部屋戻ったら、薬塗るついでに見るぞ」
「はーい」
実際には昨日の傷が悪化なんてしていないし、痛くもない。ぶつけてもないから血だって出ていない。
私が誠の部屋に行くのが当たり前のような会話。
これも私が。いや、今は何も考えないでおこう。
これ以上怪しまれたら、どうすればいいかわからない。
一切ページを捲っていないのに、少しだけ皺がついてしまった本を棚に戻す。
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
「燈ちゃんもおかえり。今日は遅かったわね」
明るく出迎えてくれるのは、誠のお母さん。
父親を亡くして壊れてしまった母親にも根気強く向き合ってくれている。
足を向けて寝れない。
「誠が用事があったらしいので」
「そう。課題、忘れたんじゃないのね?」
「違うって! そんなに怒るなよ」
「だっていつもそうじゃない。ねえ、燈ちゃん」
「まあ、忘れることはないけど。取りに戻ることは多いね」
「二人してひどいな。じゃ、俺らは部屋いとくから」
明らかに分が悪いと思ったのか、いつも通りの会話だからか。部屋へ行こうとする誠について行く。怪しまれてはなさそうだ。
「ほら、腕を出して」
「わかってるって。それより冷房をつけて、暑い」
「そりゃあ、こんな暑い日に羽織ればそうだろ」
「あいにく、私に悲劇の主人公になりたい欲求になんてないんでね」
何を言っているんだというふうな目でこっちを見てくる。誠は傷のこと知っているのだから、こっちが変人みたいな目で見てくるな。
「へい、へい」
「はい」
「んー。血は出てなさそう。包帯変えるからな?」
「はーい」
傷まないようにゆっくりと慎重に剥がしていく。
そんな丁寧にしなくていいのに。とっくに消毒の痛みなんて慣れたし、基本的には痣ができるぐらいで済んでいるから、そんなに染みないし。
「いつ出ていくるの?」
「さあ? そんなの知らないよ」
言いながら、窓の方に視線をやる。
母親が出てくる気配は見られない。きっと、父親の部屋で泣き叫んでいるのだろう。
これでもマシになったんだ。最初の頃と比べたら、何倍も。
「よし。巻き直し終わり」
「ん。課題、しよ」
「えー。ゲームしようよ」
「先に課題しないと」
「ほんと、真面目になったよなー」
「国立はそう簡単に受からないよ」
「だとしてもだろ。高校に入ってから俺一人じゃん、叱られるの」
「やれば良いだけでしょ」
「だって、明日休みなんだしさー」
「明日、フルで遊ぶべきでしょ」
不平不満を嘆く、誠をほっといて課題を進める。
そうしたら、渋々と課題を仕出した。結局、こうなんだからやれば良いのに。
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